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メンタルモデルからユーザーを理解しUXデザインを考える

皆さんはメンタルモデルという言葉をご存知でしょうか?
元々認知心理学の分野で生まれた言葉ですが、近年ではデザイン分野でも耳にする機会が増えてきました。

今回はデザインを進める上でなぜメンタルモデルが必要なのか、またどのように取り組めばいいのかお話していきます。

メンタルモデルとは?

メンタルモデルは人が無自覚にもっている思い込みや価値観のことです。

例えばホームページを見ている際、トップページに戻りたいと思ったとき、皆さんならどうしますか?
自然とサイト左上にある、ロゴマークを押したりしますよね。そして、大抵の場合、思い通りにトップページに戻ることができます。

ロゴマークには「トップページ」という見出しがついている訳ではありません。しかし、人は無自覚にこの操作が出来てしまい、また行なってしまいます。これはユーザーが
「サイト左上のロゴを押すと、トップページに戻れるだろうな」
という思い込み、つまりメンタルモデルを持っているためです。

このようにメンタルモデルは物事の仕組みを、その人がどう理解しているか表現したものです。
この際重要なのが「その人が」という視点。例え実際の仕組みと違う理解をしていても、正しい正しくないと言えるものではなく、あくまでその人がどう思っているかを表す概念なのです。

メンタルモデルはどう形成されるのか

メンタルモデルは対象から得た情報とユーザー自身の知識によって形成されます。
情報を受け取って行動を起こすまでの流れを確認しながら考えてみましょう。

外部からの情報は感覚器を通し刺激となり、電気信号として脳に送られます。この際、脳に届くまでの事を感覚と呼びます。
電気信号が届くと、脳はどこからきた電気信号なのか判断します。目に入った光が電気信号として届いたのか。肌で感じた熱が電気信号として届いたのか。こういった判断を行うことを知覚と呼びます。
知覚ができると、それが何であるか知識を作用させ認知する事ができます。最後に、好き/嫌い、良い/悪いといった価値観の判断をする事で外部情報を認識し、行動を起こす事ができます。

ホームページの例で考えてみましょう。
画面に映し出されたホームページの情報は目に写ると、その刺激は電気信号として脳に送られます。すると脳が、これは目からの電気信号だと知覚。すると、いま見えているものを
「画面の中に情報がおさまってるな」
「画像や文字が均等に並んでいるな」
といった知識を基にホームページだと認知します。見えているものがホームページだと分かれば、
「ホームページだからきっと下に続きがあるんだろう」
「左上にあるロゴを押すとトップページに戻れるだろう」
と認識し行動を起こすわけです。実際には、操作のフィードバックなどが影響しもう少し複雑な解釈をしますが…

メンタルモデルとはこの認識の仕方の部分にあたります。
価値観の判断は過去の経験や記憶といったものを頼りに行われます。
「以前こんな経験をしたからきっとこれもそうだろう」
そんな過去の経験から思い込みができ、行動に対して影響を与えているわけです。つまりメンタルモデルは入ってきた情報と、その人の持つ知識によって形成されると言えます。

なぜデザイナーがメンタルモデルを理解すべきか

先程の説明からもわかるように、メンタルモデルはユーザーの行動の土台となっています。そのためサービスの設計を考える場合、多くの場面でメンタルモデルが活用できます。
今回はその中から2つ、こういった場面での活用が大切だよというものをご紹介します。

対象への印象を明らかにする場面

1つ目は製品の開発や改善を行う場面です。
サービスを展開しようと思っている市場にはどういった価値観を持った人が多いのか洗い出し、戦略を決める際の手助けになります。

一番よく使われるのは、消費財の訴求広告の方法を考えるときです。
例えば、新しい歯磨き粉のコンセプトや PR を考える場合に、そもそも歯を磨くという行動に対してユーザーはどんなメンタルモデルを持っているか分析をします。

「歯磨きってどういったときに行いますか?」
と聞いた場合では多くの人は
「食後に歯を磨きます」
といった回答が得られるでしょう。 ユーザーの多くは「歯磨きとは食後の口中の汚れを落とすもの」というメンタルモデルを持ち歯磨き粉を使っていると言えます。

しかしなかには
「食事の前に歯を磨きます」
といった回答を得られるかもしれません。こういった行動は料理に携わる仕事をしている人や、料理が趣味である人にみられました。すると、こういったユーザーは「歯磨きは味覚刺激を敏感に取りやすくするもの」といったメンタルモデルを持っていたことが分かります。

こういったメンタルモデルを持った人を対象とした商品はまだありません。そこで新商品は食前のシチュエーションを想定し、アプローチをしようと戦略を決めることができます。

ユーザービリティを検討する場面

2つ目はユーザービリティを考える場面です。
ノーマンはインターフェースの使いやすさを、メンタルモデルとシステムの関係から説明しています。

  • デザインモデル…デザイナーがユーザーはこう考えるに違いないと考えたメンタルモデル
  • ユーザーモデル…ユーザーがシステムに触れて形成されるメンタルモデル
  • システムイメージ…機器のフィードバックや扱説明書といったシステムイメージでユーザーを補助

デザイナーがインターフェースのデザインを行う場合、こうすればユーザーは使いやすいだろうと考え設計を行うかと思います。しかしその設計は実際のユーザーの考えと食い違ったものになる事は多々あります。
人間は一度知ってしまうともう知らなかった状態には戻れません。インターフェースの事を知り尽くしているデザイナーは、何も知らないユーザーの状態に戻って想像することは困難です。

ユーザーの感じるインターフェースの使いにくさは、このデザインモデルと実際のユーザーのメンタルモデルの齟齬によって生まれています。そのためユーザーのメンタルモデルを理解した上で、どういったシステムのフィードバックが適切かなどを考え設計を行う必要があります。

メンタルモデル・ダイアグラムの作り方

ではメンタルモデルはどのように把握すれば良いのでしょうか?
無自覚に持っている思い込みや価値観であるため、直接聞いたところでユーザー自身も分かっていないため聞き出す事はできません。
そこでメンタルモデルを基に判断した行動に注目する事で、その背景にあるメンタルモデルを推定する事ができます。

ユーザーの行動からメンタルモデルを抽出するための手法はいくつかあります。今回は行動に着目してインタビューを行い、その結果を下記のようなメンタルモデル・ダイアグラムとしてまとめる方法について紹介します。

引用:メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略

セグメントの抽出

インタビューを行うためにはまず調査対象を決めなければいけません。
目的によってどんな行動をする人に対して調査をすればいいか変わってきます。そのためまずは、対象とする市場にどんな行動を行う人たちがいるかグループを分けが必要です。ユーザーについて把握できていない場合は、市場調査などでユーザーのことを軽く知ることから始めましょう。

「それって2回もインタビューするってこと?市場調査のインタビュー結果からメンタルモデルダイアグラムを作ればいいじゃん」
と思う方もいるかもしれません。インタビューは目的を持ち、必要な情報を集めるために行うもの。目的の違う2つでは、インタビューの結果として得たい情報の形が異なります。

例えばインタビューで「新入社員の管理をしている」という事が分かったとします。市場調査としては、この人が何をしているか分かったので十分な情報を得られました。しかし、メンタルモデルを作る場合これではいけません。「管理をする」と言う言葉では、具体的にどんな行動を起こしたかを表現していません。メンタルモデルを作るには「課題の設定をした」「スキル向上を促した」など具体的な行動が分かる形が必要となるからです。

グループ分けは次の3つの手順で進めます。

1.特徴的な行動をリスト化
まずは行動を洗い出しましょう。似たような行動はひとつにまとめて構いません。
この際以下の事に気をつけて行いましょう。

  • 名詞+動詞で洗い出す
  • 現在進行形で表す
  • 複雑になるため体言止めをしない
  • タスクが何を表しているか分かるように一人称にする

2.登場人物を考える
一通り行動を洗い出せたら、その行動をする登場人物を想像し分類していきます。
登場人物は完璧に正しい人を設定する必要はありません。実際に分類を終えてから、他のメンバーに見せて妥当性を確かめていきましょう。

3.グループに名前をつける
洗い出した行動が登場人物にどう紐づくかチェックしていきます。
下記のような表にして、登場人物がどんな行動を行うグループなのか分かるようすれば、タスクに基づいた対象者セグメントの分類が完了です。

引用:メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略

インタビューの設計・インタビュー

セグメントを分類できたら、誰に対して何を聞くかインタビューを設計していきます。
質問の設計は対象とするセグメントごとに、キーワード単位で話題を設計しましょう。インタビューの結果どういった情報が揃っていればいいか状態定義が大切です。

インタビュー設計やインタビューを行う際の注意点は以下の記事で説明しているため今回は省略します。
ここでは特にメンタルモデルを作るためのインタビューとして注意するべきことについて説明します。

  • 好き嫌いではなくタスクと価値観に注目
    好き嫌いではなく、タスクや価値観に注目する事でユーザーがその製品で何をしようとしていて、何をしようとしていないのかを明らかにしましょう。
  • 道具の使い方などは話さない
    ユーザーがその道具で何をしようとしているのか、そしてユーザーは何を考えて行っているのかについて理解をしましょう。道具の細かい操作方法は聞きません。細かい操作方法は何かを達成するための通過点に過ぎないからです。
  • 細部の詳細な情報はいらない
    メンタルモデルを作る際は細部の情報はあまり必要ではありません。例えばレジで微笑むのが「ありがとう」の前なのか後なのかなど。メンタルモデルダイアグラムは時系列の変化を表すものではないため、その行動の関心がどこにあるかが分かればいいのです。

メンタルモデル作成

インタビューからタスクを抽出し、グルーピングを繰り返す事でユーザーの心理全体を表現したメンタルモデル・ダイアグラムを作成しましょう。

1.インタビューから行動を表すフレーズを抽出
会話の中からタスクを表現するフレーズを見つけていきます。
会話では主語が省かれたり、話言葉が使われたり。きちんとした形式で話されていないことや、自分の考えなどを踏まえて話す場合が多く意外と頭を悩ませるかもしれません。

ではどういったフレーズに着目すればいいのでしょうか?
メンタルモデルダイアグラムで扱うタスクとは、行動・思考・感情・価値観・動機などの人が何かをなそうとしたり、何か行動したり、何らかの状態になることです。つまり…

  • 行動を表すフレーズ
  • 明言していないがタスクを表すフレーズ
  • 他の誰かが行うタスク
  • なぜそのようなタスクが行われたか表すフレーズ
  • 感覚を表すフレーズ

といったフレーズに着目して考えてみましょう。
このとき「〜が好き」「〜したい」「〜ができたらな」いったフレーズには着目する必要はありません。こういったフレーズは、直接的に行動しているわけではないからです。
またタスクについて表していても、それ自身がタスクではないものに着目する必要もありません。例えばタスクを行うツールについてのフレーズや、たんに状況を表したフレーズなどがあげられます。

抽出したフレーズを分かりやすいよう簡素に言い換えましょう。
このフレーズと紐付いていた最小単位のタスクを、アトミックタスクといいます。

引用:メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略

2.グループ化を繰り返す
抽出したアトミックタスクをグループ化してメンタルモデルを作っていきます。

(1)タスクをつくる
タスクとは同じようなアトミックタスクを集めたものです。
複数のインタビューからアトミックタスクを抽出すると、なかにはほとんど同じようなものがあったりするかもしれません。まずはアトミックタスクのうち、ほとんど同じ事を表したものまとめる作業から始めます。似ているアトミックタスクを集め、タスクとして分かりやすい名前をつける。似たようなアトミックタスクがなければ、それはそのまま1つのタスクとして扱って構いません。

引用:メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略

(2)タワーをつくる
タワーは似たタスクを集めたものです。
タスクの分類を終えたら、付箋に書き出していきます。先ほどより大きい粒度で似たものを探し、タスクを集め上に並べていく事でタワーを作ります。分類できたタワーにはそれらを総称した名前をつけます。
この際、あらかじめグループの分類を考えそこにタスクを当てはめていってはいけません。大切なのはタスクからパターンを見つけ出すということです。一つずつタスクを読んで、似た物はないか探す事を繰り返しパターンを見つけていきましょう。

引用:メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略

(3)メンタルスペースをつくる
メンタルスペースは似たタワーを集めたものです。
さらに大きな概念から比較をし並び替え、似たタワー同士で分類します。このグループ化されたタワーの集まりがメンタルスペースとなります。

引用:メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略

以上でメンタルモデルの視覚化ができました。これによって行動からどんな価値観があるのかが見えてきます。

可視化した図を解釈する上で注意が必要なのは、タワーに出てくるタスクの数が多いから重要な価値観だと言うわけではないことです。インタビューでは質問の設計は行っているものの、必ずしも同じ質問をしているわけではありません。インタビューの仕方によって多く出てきてしまうタスクなどの違いがあるため、出現回数はそこまで重要ではありません。

それよりもメンタルスペースの種類の多さの方が重要と言えます。メンタルスペースが多ければ、より多くの価値観を導き出せたと言えるからです。
今回は説明を省きますが、見つかった価値観に対して既存の製品がどの価値観を満たしていて、どの価値観は満たせていないかを確認するギャップ分析があります。これを行う際も、メンタルスペースが多い方が新しい発見をすることができます。

まとめ

ここまでメンタルモデルの必要性と、具体例としてメンタルモデル・ダイアグラムについて紹介をしました。
ではメンタルモデルの把握に、こうなれば正解というものはあるのでしょうか?これに関しては正直正解はありません。ここまでお話してきた通り分析のワイヤーフレームや、こうした方がいいというノウハウはあります。しかし、データの分類や解釈は分析者によって大きく左右されます。解釈の仕方は分析者の腕の見せ所でもあり、他のメンバーなどと共有して解像度を高めていくしかありません。是非みなさんも何度も議論を繰り返し、ユーザーの理解にメンタルモデルを活用していただけたらなと思います。

今回、メンタルモデルダイアグラムついては「メンタルモデル ユーザーへの共感から生まれるUXデザイン戦略」を参考に説明させていただきました。本記事では説明仕切れていない部分や、インタビューをとる時のコツや、モデル化を行う際のノウハウなど実践的な情報が詰まっているので是非ご覧ください。

静岡出身。2020年にSEVEN DEXにJoinしました。普段は大学でUI/UXについて学んでます。誰かのためを考えて物作りをする事が好きです。