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大企業における新規事業を成功させるには?|失敗するパターンと成功プロセス

大企業で新規事業を担当していると、顧客のニーズも市場環境も分かっているのに、事業の立ち上げが思うように進まない場面があります。
既存組織の評価制度や意思決定の遅さ、課題の共有不足など、表には見えにくい要因が積み重なるからです。
しかし、正しいプロセスで検証を重ね、自社のアセットや人材を活かせば、価値あるビジネスは十分に創出できます。
この記事では、大企業が直面しがちな失敗要因と、成功へ導く実践的なステップを分かりやすく解説します。

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大企業の新規事業が失敗する典型パターン

大企業の新規事業は、アイデアや技術よりも「進め方」や「組織の構造」によってつまずくケースが少なくありません。市場の可能性があっても、検証プロセスや意思決定の遅さ、リソースの確保など、見えにくい課題が積み重なると事業は前に進まなくなります。まずは、多くの企業が直面する失敗パターンを整理し、どこにボトルネックが潜んでいるのかを把握することが重要です。

意思決定プロセスの複雑化

大企業では、事業の立ち上げに関わるステークホルダーが多く、承認フローも複雑になりがちです。組織内で目的や評価基準が揃わないまま検討が進むと、担当者は調整に追われ、肝心の顧客課題や市場分析に時間を割けなくなります。
意思決定に必要な情報が揃っているのに、プロジェクトが前に進まない。そんな状況は珍しくありません。スピードが求められる新規事業では、この“遅れ”が競合優位を失う要因にもなります。

顧客理解・課題把握の不足

新規事業がうまく進まない背景には、顧客のニーズや課題を十分に捉えきれていないことがあります。市場データや調査レポートはあっても、実際の利用シーンや顧客の行動を深く理解しなければ、価値のあるプロダクトにはつながりません。
社内で共有されている“想定課題”だけで企画を進めてしまうと、立ち上げ段階で方向性がぶれ、検証プロセスも形だけになりがちです。顧客理解の精度は、その後の事業設計や検証プロセスの成否を大きく左右します。

既存事業バイアスによる判断の歪み

大企業では、長年培ってきた既存事業の成功モデルや評価基準が、新規事業の判断に影響を及ぼすことが少なくありません。売上規模や収益性、リスク管理の基準がそのまま新規事業に当てはめられると、成長の可能性がある案ほど早い段階で選択肢から外れてしまいます。
経営層や関係部門との認識の差が埋まらず、企画自体が“従来の延長線”に引き寄せられるケースも多いです。こうしたバイアスが、挑戦すべき方向を見誤る要因になります。

検証フェーズの欠落

新規事業で最も大きなリスクは、十分な検証を行わないまま本格開発に踏み切ってしまうことです。顧客課題や価値仮説が曖昧なまま企画が承認され、MVPやPoCといった初期プロセスを省略してしまうと、後工程で手戻りが発生しやすく、投資判断も誤りがちです。
特に大企業では、計画通りに進めることが優先され、実際のユーザー検証が後回しになるケースが多い。検証フェーズの欠落は、事業化の精度を大きく下げる要因となります。

人材・リソース不足による推進停滞

新規事業は、企画よりも“誰が推進するか”で進み方が大きく変わります。しかし大企業では、担当者が既存業務との兼務になりやすく、必要なリソースやスキルを十分に確保できないままプロジェクトが始まるケースが少なくありません。
専任の人材がいないことで、調査・検証・社内調整のどれも中途半端になり、事業化に向けた判断も遅れがちです。適切な体制を整えられないことが、推進の停滞を引き起こす典型的な要因です。

大企業の新規事業が成功するためのプロセス

大企業の新規事業は、優れたアイデアだけでは前に進みません。市場や顧客の課題を正しく捉え、自社アセットをどう活かすかを整理したうえで、検証を繰り返しながら価値を磨いていくプロセスが欠かせません。組織の仕組みや意思決定の流れも、事業の成長スピードに大きく影響します。
成功企業に共通するのは、戦略・検証・推進体制を段階的に構築する“進め方”を確立していることです。ここでは、その具体的なステップを整理します。

新規事業 成功プロセス

市場と自社アセットの整理

新規事業の精度を高めるには、まず市場の変化や顧客ニーズを丁寧に捉え、自社が持つアセットをどこまで価値に転換できるかを見極めることが重要です。技術やブランド、既存顧客との関係性など、使える資源を棚卸しし、競合の動きや業界構造と照らし合わせて整理していくことで、事業化の余地が見えてきます。
この段階の分析が曖昧だと、後工程の検証や企画にもズレが生まれるため、最初にしっかり時間をかけるべきプロセスです。

課題起点のアイデア創出

新規事業のアイデアは、奇抜さよりも“顧客が本当に困っている課題”を起点にした方が精度が高まります。利用シーンを観察したり、顧客との対話から課題の背景を丁寧に拾い上げたりすることで、表面的なニーズではなく“解決すべき本質”が見えてきます。こうした課題理解を軸に発想すると、自社アセットや技術と自然に結びつき、価値のあるビジネスに育ちやすい。分析だけでなく、現場の視点を取り入れることが、実現可能性のあるアイデア創出につながります。

仮説検証とプロトタイピング

仮説検証は、新規事業の不確実性を減らすうえで欠かせないプロセスです。顧客課題や価値仮説を言語化したら、プロトタイプを用いてユーザーの反応を確かめ、データと定性的な気づきを手掛かりに次の一手を考えます。
完璧な設計を目指すより、小さく試しながら学びを重ねるほうがリスクは抑えられますし、改善の精度も上がります。仮説と検証を往復するこの工程が、事業の可能性を見極める“芯”の部分になります。

ビジネスモデルと収益仮説の構築

検証を重ねて価値の方向性が見えてきたら、どのように収益を生み、事業として成立させるかを具体化していきます。顧客が支払う理由や価格の妥当性、提供コスト、販売チャネルの選択など、複数の要素を組み合わせてビジネスモデルを描く必要があります。
また、市場規模や展開シナリオを踏まえた収益仮説があることで、投資判断や経営層との合意形成もスムーズになります。曖昧なまま進めると後戻りが大きくなるため、ここは慎重に整えるべき重要な工程です。

組織体制と推進体制の設計

新規事業を前に進めるには、適切な組織体制と推進体制の設計が欠かせません。担当者の役割が曖昧だったり、部門間の連携が弱かったりすると、意思決定が滞り、必要なリソースも確保しづらくなります。
専任メンバーを中心に、経営層との距離感や社内調整の流れを整えることで、プロジェクトのスピードと質は大きく変わります。また、早い段階でマネジメントラインを明確にしておくことで、推進側が迷わず動ける環境が生まれます。

フェーズ別KPIと評価基準の設定

新規事業は、立ち上げの段階ごとに求められる成果が異なるため、KPIや評価基準をフェーズ別に設計することが重要です。初期段階では、顧客課題の理解度や仮説検証の質といった“学習の進捗”を指標にし、事業化が近づくにつれて収益性や獲得顧客数など、より実行フェーズに近い指標へ切り替えていきます。
目的に合わないKPIを設定すると、チームの動きが歪み、改善の方向性もぶれてしまいます。評価の設計は、推進体制づくりと同じくらい重要なプロセスです。

大企業の新規事業 成功事例3選

大企業が新規事業を進めるうえで、成功の鍵となるのは、適切なプロセス設計と確かな検証です。ここでは、実際のプロジェクトを例に、どのように課題を整理し、事業を前に進めたのかを紹介します

セブンデックス × 三井不動産|新規事業構想〜UX/UI〜PoC伴走

三井不動産の新規事業創出プロジェクトにおいて、セブンデックスは構想段階から体験設計、プロトタイプの開発、PoC準備までを一貫して支援しました。ユーザーニーズの探索から価値定義、事業案の構想、UX/UIデザインの作成、そしてプロトタイプの制作まで、初期フェーズで必要となる一連のプロセスを整理しながら伴走しています。

1. ユーザーニーズ探索

プロジェクトの起点として、ユーザー視点での課題やニーズを把握するための調査を実施。生活者・利用者の行動理解を深め、事業検討の基盤となるインサイトを整理しました。

2. 価値定義

調査で得られた知見をもとに、「どのユーザーに、どのような価値を提供するのか」を明文化。事業案の方向性を検討するうえでの軸を整えました。

3. 事業案構想

価値定義を踏まえ、提供価値や世界観を可視化しながら事業案を構想。複数の可能性を比較検討し、検証すべき論点を整理しています。

4. UX/UIデザイン設計

サービス体験を具体化するため、UX設計とUIデザインを作成。ユーザーがどのようにサービスに触れ、どんな体験が得られるのかを詳細に描き出しました。

5. モックアップ/プロトタイプ開発

検討内容を“手触りのある形”で確認できるよう、モックアップ/プロトタイプを制作。ステークホルダーが共通イメージを持てるようにし、議論や判断の精度を高める基礎となりました。

6. PoC準備・伴走

プロトタイプを基に、概念検証(PoC)に向けた準備を支援。次フェーズに進むために必要な確認事項や進行の流れを整理しました。


セブンデックスは、ユーザーニーズの探索から価値定義、UX/UI設計、プロトタイプ開発、PoC準備までを一貫して支援し、事業案を具体的な形に落とし込む基盤づくりを担いました。初期フェーズに必要な検討プロセスを整理しながら進めることで、関係者間で共有できる事業像を描き、次の検討ステップへ進むための土台を整えた事例といえます。

リクルート|Airシリーズにみる検証的アプローチ

リクルートの Air シリーズは、Airレジの公式情報にある「試作からテスト運用を経て提供が始まった」という開発プロセスに示されるように、店舗の実際の声を踏まえたサービス改善が継続されてきました。
リリース後も利用者からのフィードバックをもとに機能を拡張し、現場で使われながら磨かれていった点が特徴です。こうした段階的な検証と改善の積み重ねが、多様な業種で受け入れられるプロダクトへ成長する基盤となりました。

日立製作所|Lumadaを軸にしたデータ活用型事業開発

日立製作所は、データとデジタル技術を活用した社会課題解決プラットフォーム「Lumada」を軸に、産業・交通・ヘルスケアなど多領域で新規事業を展開しています。
現場データの収集と分析を通じて価値を可視化し、顧客企業と共創しながらソリューションを具体化していく点が特徴です。実証(PoC)を重ねて導入効果を検証し、再現性のあるデータ活用モデルへと発展させてきました。こうした取り組みが Lumada の事業拡大を支える要因になっています。

最後に

大企業の新規事業は、顧客理解・価値定義・検証プロセス・組織体制など、多くの不確実性を抱えています。しかし、課題の構造を丁寧に捉え、検証を通じて学習し、体験を具体化しながら進めることで、着実に成功確度を高めることができます。本記事で紹介したプロセスや事例が、貴社の新規事業を前に進めるヒントになれば幸いです。

セブンデックスでは、構想段階からUX/UI、プロトタイプ開発、PoC検討まで、初期フェーズに必要なプロセスを一気通貫で支援しています。新規事業に課題を感じている方は、まずはお気軽にご相談ください。

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大学でデザインやマネジメントを学ぶ中で、価値を生み出すだけでなく、その届け方・広げ方に関心を持つように。そこからマーケティングやブランディングに興味を持ち、インターンとして入社。法政大学デザイン工学部在学。