UIデザインに関する知識を深めるために、心理学の理論や研究について調べていると、一見すると半直感的な内容が多くあり、リサーチの重要性に気づきます。
状況によっては直感での判断が正しい時もありますが、大抵の場合において、個人の経験のみでは検証できない情報を含む理論に頼ることで、精度の高い設計に繋げられるでしょう。
前回と同じく、心理学法則のなかでも特に直感的には理解しづらい法則に絞ってご紹介します。
身体的な行為によっても人の感情は変化する
人間の身体の動きが、思考や言動に影響を与える「身体的認知」という概念があります。
人間は脳で考えた事だけでなく、身体から送られてくる情報によっても感情や行動に影響を与えるというもので、例えば喫茶店で注文する商品が決まったところでメニューを閉じると、閉じなかった場合よりも選択した商品に対する満足度が高まるといった実験結果があります。
多くの読書系アプリでは、横にスワイプして読み進めることができますが、これは実際に本を読む際のページを横にめくる動作を取り入れることで、達成感など読み進めている感覚を再現しているためと考えられます。
このように体験設計はもちろん、インターフェースを検討している際に、ユーザーに狙った感情や感覚を引き起こすために、普段どういった動作をするか調べる事はヒントになるでしょう。
注意を向けさせるためのポップアップは習慣化する
人間の視野の空間分解能(空間を精緻に把握する能力)は網膜の中心にある中心窩は高いですが、それ以外の周辺視野では高くありません。
中心窩が捉える視界は狭いため、そのままでは重要な情報を見逃してしまいます。
そのため、中心窩は絶えず動くことで情報の見逃しを防いでいますが、ただ闇雲に動いていても重要な情報を見逃す可能性は高いままです。
そこで周辺視野が、たとえかすかな動きであっても感知して反射的に中心窩をその場所に誘導します。こうした現象を活用して、ポップアップや動き・点滅などの効果によって注意を向けさせるUIはよく見られます。
しかし、これらの効果を使い過ぎると、頻度高く発生する刺激に対して脳が注意を払わなくなる「習慣化」という現象が起き、重要なメッセージは伝わらなくなってしまいます。
また、使用頻度だけでなく効果の使用時間についても、0.25-0.5秒程度が理想とされ、これを超えてしまうとユーザーの不快感に繋がるとされています。
AppleのHuman Interface Guidelinesでは、このようなポップアップの使用について、頻繁に使用することで効果が失われる旨を記載した上で、予期しない不可逆的なデータ損失を引き起こす可能性のあるタスクの実行、重要なアクションやタスクの完了、コマンドの実行が不可能な場合など、重要かつ実用的な情報を提供する場合のみの使用を推奨しています。
人間の視覚は明度ではなく色差により敏感に反応する
人の眼球内部にある網膜には、光の強さを感知する桿体(かんたい)細胞と、色を感知する錐体(すいたい)細胞という2種類の細胞があり、私たちは、このうち錐体細胞を頼りに色の情報を処理しています。
錐体細胞は、更に光の周波数ごとに感度が異なる3種類が存在しているのですが、それぞれ周波数の感知の範囲が重複しています。そのため、脳は色の情報処理にあたって、3種類の錐体細胞から送られてくる情報を足し引きして、情報を処理します。
この足し引きの情報処理により、人の視覚は絶対的な明度よりも色差に敏感に反応します。
例えば、同じ色を使っていても、コントラストの強い箇所はそうでない部分と比べて、明るく見えることにつながるため、コントラストをつける際は意図していない効果が起きないような配慮が必要になるでしょう。
その他、色の識別に影響するものは色差以外にも様々あります。
・淡色同士だと区別しにくい。色が淡くなればなるほど識別が難しくなる
・色のついた部分が小さい、あるいは細いほど、識別が難しくなる。文字は普通細いので、文字の色を正確に特定するのが難しい場合が多い
・色のついた部分同士が離れているほど、色の識別が難しくなる。視線を動かさなければいけないほど離れている場合はとくに難しい
配色に関する知識だけでなく、人の色の識別能力について学ぶことで、より意図した効果を与えることができるでしょう。
まとめ
人間の認知や思考について理解することで、体験設計、インターフェースにすぐに活かすことができます。
みなさんのサービスに活用出来るところから、ぜひ反映させてみてください。
参考文献
- インターフェースデザインの心理学 Susan Weinschenk
- 続・インターフェースデザインの心理学 Susan Weinschenk
- UIデザインの心理学 Jeff Johnson
- Human Interface Guidelines