デザインをする際、アイディアを捻り出すためには良いインプットが必要です。インプットの方法は様々で記事やSNSでも多くのTIPSが共有されていますが、インプットをするときの思考に言及されることはあまりないかもしれません。
今の自分がデザインをインプットする際、どのようなことが無意識に行われているのだろうか?以下の記事を執筆されたあべさん同様、私も美術大学の試験のために通っていた美術予備校での経験が生かされてるかもしれないと思いました。
当時教わっていたことや意識していたこと、それが今の仕事にどう生かされているかを書いてみます。
目次
美術予備校で教わったこと
常に美しいものを感じようとすること、物理的にストックすること
美大受験には、「鉛筆デッサン」以外にも「色彩構成(平面構成)」という試験科目があります。デッサンよりも馴染みのない言葉なので、色彩構成がどういったものか少し説明したいと思います。
色彩構成とは色(色相、彩度、明度)と形を組み合わせ、一つの画面に仕上げたもので、画材はアクリル絵の具を使います。
アウトプットのイメージがつきづらいと思うので、ぜひ画像検索をしてみてください。
試験時間は数時間(大学や学科によりますが3時間or5時間がほとんど)で、時間内に課題に合わせた色彩構成を仕上げます。
課題文
1と2と3をモチーフとし、「Ranking」の文字を配して、色彩構成を制作しなさい。
多摩美術大学 入試ガイド2022
数時間という限られた時間の中で試験に挑む訳ですが…
その場で思いついたアイディアや、やったことのない手法では戦えません。
ここからアイディアを蓄えるためのインプットについてお話しします。
かっこいいポスターも参考にしますが、身の回りの美しいと感じるものにアンテナを貼ってインプットしていきます。たとえば水を例にすると「プールの水面の煌めき」「暑い日、ペットボトルの表面に現れる水滴」「雨の日の水たまりの波紋」などなど…。
最初、予備校の先生に「こういうの美しくない?」と言われた時は正直ピンと来ていませんでしたが、自分のココロが動く瞬間に目を向け続けていると、アンテナが鋭くなって感性が育まれていった感覚があります。
そして「綺麗だな」と思ったものは記憶に残しておくだけではなく、写真用光沢紙に印刷してファイリングしストックしていきました。スマートフォンなどの写真フォルダでもいいのですが、手元にあってパラパラと見返せること、そして自分が厳選した美しいものファイルが溜まっていくことで、自分が美しいと思う感性と面と向きあえた気がします。
自分のもっているカードを組み合わせること
受験当日その場で思いついたアイディアではレベルの高い作品と戦えません。自分の持っている表現技法を組み合わせて課題に挑みます。
私が思う色彩構成の方程式は
「自分のカラーパレット × 表現技法 × アイディア」で、
例えば下の作品を例にすると
ブルーバイオレット/薄グレー/サーモンピンク/スカイブルー × 直線 × 見上げる構図
といった感じになります。
受験当日までに「カラーパレット × 表現技法 × アイディア」をそれぞれ複数持ち、表現技法のレベル上げをしていきました。
素直に表現すること
パッと見で何を表現しているか相手に伝わらない色彩構成をつくると、「お前にしかわからない」と一蹴されます。(これは今でもたまにやってしまいがちです。。。)
切り口を変えることも大事ですが、捻りすぎたアイディアは相手に伝わりません。「個性的な表現」と「自己満足な表現」の境界を学びました。
デザイン業務でどう生かされているか
引き出しの組み合わせ方
インプットしたらそのまま真似るのではなく、自分のモノにする。デザイン制作で最初に躓くポイントとして「パクりとの境界線がわからなくなる」ということがあります。
自分はそこでとても躓いたという感覚はなく、おそらく色彩構成をしてきた中で得た
- インプットする対象物は切り口次第で多岐に渡るということ
- 印象を形成しているのは、色や形などのそれぞれの要素だけはなく全体の構成も含むということ
が大きく影響しているのかもしれません。
課題を前にして表現しようとする力
自分の持ち合わせている武器でしか戦えない、ということが身に染みているので、今でも最終アウトプットはこれまで作り上げてきたアウトプットの延長線上にしかないと考えています。
どうしたら今の武器でいいアウトプットができるか?無理そうな課題に直面した時でも思考を回して解決できているのではないかなと思います。
個性を出しつつ、 “伝わること” を大事すること
「伝わるデザインになっているか?」という問いは、自分のデザインにフィードバックをもらうシーンでも相手のデザインにフィードバックをするシーンでも常に大事にしています。
才能は開花させるもの センスは磨くもの
「才能は開花させるもの センスは磨くもの」はハイキュー!!に登場するキャラクターの言葉です。
デッサンと違いスキルの取得方法が見えづらい色彩構成をモノにするには、膨大な量のインプットとアウトプット、そして時間が必要でした。センスが良くないといい画がつくれませんが、センスは必ず磨けます。受験対策はとても大変でしたが、このとき取得したモノの見方や抽出する力は今に生きているなぁと感じています。