ユーザビリティテストは、Webサイトやアプリの操作性・有効性をユーザーの視点から検証し、UI/UX改善やサービス価値の向上につなげるための重要な手法です。プロダクト開発やマーケティングに携わるビジネスパーソンにとっては、顧客体験の質を高めるうえで欠かせない知識となります。
本記事では、ユーザビリティテストの基本的な概念から、実施の手順・評価指標・対象者の選び方に加え、ユーザーテストとの違いや活用すべきタイミングまで、実務で役立つ内容を網羅的に解説いたします。
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ユーザビリティテストとは?
ユーザビリティテストとは、あるデザインがユーザーにとって「使いやすいか」「目的を達成しやすいか」というユーザビリティ(有効性・効率性・満足度)を確認するためのテストです。特に、WebサイトやアプリなどのUIを対象として、ユーザーが実際に使用する前後、または使用中にその操作性や問題点を検証する目的で行われます。
このテストでは、想定されるユーザー層に対してプロトタイプや実際のデザインを操作してもらい、その際の行動や発言を観察・記録します。これにより、ユーザーが感じる違和感や不便さ、期待とズレたUI挙動などの課題を抽出し、リリース前にそれらを改善することができます。
たとえば、ある企業のコーポレートサイトにおいて、「必要な情報にたどり着きやすいか」「ナビゲーションが分かりやすいか」などをユーザーの視点で確認することで、実際に利用される前にUIの課題を発見し、より優れたユーザー体験を提供できるデザインへと改善することが可能になります。
ユーザビリティを構成する要素
ヤコブ・ニールセン『ユーザビリティエンジニアリング原論』によるとユーザビリティを構成する要素は主に5つあります。この5つの要素は、デザインがどれほど効果的か使いやすいかを確認するために不可欠な判断基準となります。
学びやすさ(Learnability)
システムは、ユーザーがそれをすぐ使い始められるよう、簡単に学習できるようにしなければならない。
効率(Efficiency )
システムは、一度学習すれば、あとは高い生産性を上げられるよう、効率的に使用できなければならない。
覚えやすさ(Memorability)
システムは、ユーザーがしばらく使わなくても、再び使うときにすぐ使えるよう、覚えやすくしなければならない。
エラーの少なさ(Errors )
システムはエラー発生率を低くし、もしエラーが発生しても簡単に回復できるようにしなければならない。また、致命的なエラーが起こってはならない。
満足度(Satisfaction)
システムは、ユーザーが個人的に満足できるよう、また好きになるよう、楽しく利用できなければならない。
引用:ヤコブ・ニールセン『ユーザビリティエンジニアリング原論』
ユーザビリティテストにおける対象者の選定と最適な人数
ユーザビリティテストを効果的に実施するためには、「誰にテストに参加してもらうか」と「どのようにして対象者を集めるか」を慎重に検討する必要があります。テスト対象となる製品やサービスの特性、そして調査したいポイントに応じて、参加者はできるだけ実際のユーザー像に近い条件で選ぶことが重要です。
たとえば、以下のような条件が選定基準となります:
- 性別や年齢層
- 類似製品・サービスの利用経験
- スマートフォンやPCなどデバイスの利用頻度・スキルレベル
- 日常生活や仕事におけるITとの関わり方
このような条件に合致する人を探すためには、インターネット調査やアンケートを活用した「スクリーニング」を行い、選ばれた人に対してテスト日時や会場を調整する「リクルーティング」のプロセスが必要です。これは、テストの信頼性と実用性を確保するための非常に重要な工程です。
何人集めるべきか?
理論的には、ユーザビリティテストに参加するユーザーの数は5人程度が最適とされています。NielsenとLandauer(1993年)の研究によると、5人のユーザーをテストすることで、全体の約85%のユーザビリティ上の問題点を発見できるとされています。10人以上を一度に集めて実施する大規模なテストよりも、5人程度の小規模なテストを複数回に分けて実施するほうが、コスト効率がよく、継続的な改善にもつながります。
ポイント:
- 最初のテストで得られた課題に対処したうえで、次の5人に再テストを行うサイクルを回す
- 各回ごとにフィードバックを取り入れ、プロトタイプやインターフェースの改善を図る
- 異なるペルソナに基づいた複数のグループを用意することで、幅広い視点を得る
ユーザビリティテストとユーザーテストの違い
「ユーザビリティテスト」と似た言葉に「ユーザーテスト」がありますが、この「ユーザーテスト」という言葉には大きく2つの意味があります。1つは「ユーザビリティテスト」と同じ意味で用いられるケースで、もう1つは「コンセプトテスト(またはソリューションインタビュー)」を指すケースです。
「ユーザビリティテスト」は、既存のWebサイトやアプリ、あるいは実際に操作可能なプロトタイプを対象に、ユーザーがどれだけスムーズに使えるか、どんな操作の困難があるかを明らかにするために実施されます。つまり、ユーザー視点で「使いやすさ」を検証することが目的です。
一方で「ユーザーテスト」が「コンセプトテスト」の意味で使われている場合、それはアイデアやサービスの受容性を評価することを目的としています。たとえば、開発中のWebサイトやアプリのコンセプトがユーザーに受け入れられるか、ニーズに合っているかなど、仮説の検証を行うためのものです。このテストは、操作可能なプロトタイプではなく、コンセプトシートやイメージ図のような資料を使って実施されることもあります。
重要なのは、この2つのテストが明確に異なる目的を持っている点です。「ユーザビリティテスト」は使いやすさの評価に焦点を当て、「ユーザーテスト(コンセプトテスト)」は受け入れ可能性や市場との適合性を確認するために行われます。そのため、「ユーザーテスト」という言葉を目にしたときは、それがどの意味で使われているのかを文脈から読み取ることが大切です。使われ方を誤解すると、検証すべき内容や方法がずれてしまう可能性があります。
ユーザビリティテストにはどのような種類がある?
定量・定性の2軸を測定できる
ユーザビリティテストでは、数値で表せる部分に着目した「定量的データ」と、数値化できない部分に着目した「定性的データ」の2軸を測定可能です。
定量
ユーザビリティテストにおける定量的データとは、ユーザーの行動や評価を数値で捉える情報のことです。具体的には、タスクの成功率、エラーの発生回数、操作完了までの時間、アンケートでの満足度スコアなどが該当します。これらはユーザーにWebサイトやアプリを実際に使ってもらい、その操作結果を記録・集計することで得られます。定量データは客観的で比較がしやすく、全体の傾向や成果を明確に可視化できるという利点がありますが、数値だけでは「なぜそうなったのか」という背景までは分かりません。
定性
一方の定性的データは、数値化できないユーザーの反応や意見、行動の背景などを捉える情報です。たとえば、操作中のつぶやきや戸惑いの表情、「この画面は分かりにくい」といったコメントなどが含まれます。これらはユーザーの操作を観察したり、インタビューを行ったりすることで収集され、ユーザーの視点から問題の本質や改善のヒントを得るのに非常に有効です。ただし、定性的データは主観的な側面が強く、分析や解釈に時間がかかるという課題もあります。
そのため、ユーザビリティテストでは定量データと定性データの両方を組み合わせて活用することが重要です。数値で「何が起きているか」を把握しつつ、その理由をユーザーの声や行動から読み取ることで、問題の発見から改善策の立案まで、より深く実効性のあるUX改善を実現することができます。
ユーザビリティテストにおける評価項目
ユーザビリティテストの評価項目は、対象となるサービスやプロダクトの性質によって大きく異なります。評価の際には、一般的な判断基準(例:使いやすさ、理解しやすさ、効率性など)に加えて、そのサービスにおけるユーザーの主要な目的や利用文脈を踏まえることが重要です。つまり、ユーザビリティの評価項目は画一的なものではなく、事業の内容や利用目的に応じてカスタマイズされるべきものと言えます。
Q:たとえば、ECサイトにおける「学びやすさ」とは、どのような点を指すのでしょうか?
A:ECサイトにおいての「学びやすさ」とは、ユーザーがスムーズに商品を探し、購入までの操作を理解できるまでの簡潔さ・直感性を意味します。ショッピングが主目的であるため、「使い方を学ぶ」ことは、「購入にたどり着くまでの流れをどれだけ迷わず進められるか」という観点になります。
そのため、具体的な評価項目は以下のようなものになります:
- 商品を探しやすいナビゲーションがあるか
- 商品の詳細情報が十分に記載されているか
- 商品ページからカートへの導線が分かりやすいか
- カートに入れた商品の内容が視覚的に確認しやすいか
- 決済までのステップが直感的かつ最小限か
- 初めての利用でも、操作方法がすぐに理解できるか
このように、ECサイトでは「学びやすさ」は単なる操作マニュアルの習得ではなく、ショッピング体験全体のスムーズさが評価の中心になります。
ユーザビリティテストで分かること・メリット
ユーザビリティ問題の抽出
ユーザビリティテストを実施することで、リリース前にデザインの適切性を確認することが可能になります。これにより、問題の少ない完成度の高いデザインを世に出すことができ、企業にとって大きなプラス効果をもたらします。エラーが少なく、使いやすいデザインを自社のWebサイトに実装できれば、ユーザー体験が向上するだけでなく、企業イメージやブランドへの信頼感の向上にもつながります。
ユーザー視点(心理)が理解できる
ユーザビリティテストでは、ユーザーがどこに不快や混乱を感じているのかを実際の操作を通じて把握することができます。これにより、ユーザーの立場に立った施策の検討が可能となり、より本質的で効果的なUX改善を実現できます。また、こうした理解は単なる短期的なデザイン改善に留まらず、自社の顧客理解を深める長期的な視点の強化にもつながります。テストを重ねることで、施策の解像度が上がり、より具体性のある意思決定が可能になります。
社内で課題感の浸透ができる
ユーザビリティテストを通じて得られた具体的な課題やユーザー理解を社内で共有することで、組織全体に「何が問題か」「どこを改善すべきか」といった共通認識が醸成されます。この課題感の共有は、社員一人ひとりのサービスへの理解やユーザー視点への意識を高め、結果として、改善に対する全社的な協力体制や効率的な推進を実現する基盤となります。つまり、ユーザビリティテストはUXの改善だけでなく、社内文化の醸成にも貢献するのです。
ユーザビリティテストのやり方(3ステップ)
ユーザビリティテストにはさまざまなやり方がありますが、おおまかに分けると3つになります。
設計
ユーザビリティテストを始めるにあたり、まず行うのが「テスト設計」です。この段階では、どのような形式でテストを実施するか、誰を対象にするのか、どのような手法を取るかを決めていきます。形式の選定には、リモート(オンライン)か対面か、モニタ(調査協力者)の人数、属性(年齢層、デジタルリテラシー、職業など)など、さまざまな要素を考慮する必要があります。
たとえば、対象が高齢者向けの老人ホームのWebサイトである場合、ユーザーである高齢者の多くはPCやスマートフォンの操作に不慣れな可能性があります。このようなケースでは、リモートテストではなく対面形式の方が安心感と操作の正確性が得られやすいと判断できます。また、高齢者の利用体験では数値よりも「感じたこと」や「困りごと」に重きが置かれるため、定性的なアプローチを中心とした設計が適しています。
設計フェーズではこのように、テスト対象ユーザーの特性や目的に応じて、最適な形式・手法を選定することが重要です。
実査
設計が終わったら、次は実際にユーザビリティテストを実施する「実査」フェーズに進みます。ここでは、あらかじめ用意したシナリオやタスクに基づいて、モニタにWebサイトやアプリを実際に操作してもらいます。
テスト中はモデレーター(調査進行役)が同席し、操作の背景や目的を伝えたうえで、ユーザーの行動を見守ります。重要な手法として、「思考発話法(シンク・アラウド法)」があります。これは、ユーザーに操作中の考えや感じていることを声に出してもらう方法で、ユーザーの認知や判断の流れをリアルタイムに捉えるのに非常に有効です。
実査はZoomなどのビデオ通話ツールを用いて行われることが多く、モニタに画面共有をしてもらいながら、操作の様子を観察します。テスト中の操作や発話は録画しておき、後の分析のための資料として活用します。この録画が、定性的な洞察を得るための最も重要な情報源になります。
分析
テストが終わったら、録画した映像や記録データをもとに「分析」を行います。このフェーズでは、ユーザーがどのような行動を取り、どこでつまずき、どんな発言をしたのかを一つ一つ確認しながら、Webサイトやアプリの課題を洗い出していきます。
分析の観点には、ISO 9241-11にもとづく「有効性(目的達成のしやすさ)」「効率性(操作のスムーズさ)」「満足度(ユーザーの主観的評価)」があり、それぞれに基づいて課題の重みや優先順位をつけて整理します。加えて、発見された課題に対して「なぜ起きたのか」という背景にも注目し、ユーザー心理の分析も加えていきます。
このようにして整理された結果は、今後の改善設計やUI/UXデザインの根拠資料となり、説得力のある改善提案につながります。とくに、数値化できる定量データだけでなく、ユーザーの言動や感情といった定性的なデータを踏まえた分析は、深いインサイトを得るうえで不可欠です。
ユーザビリティテスト実施するときの注意点
目的と検証項目を明確にする
ユーザビリティテストを実施する際は、まず「なぜこのテストを行うのか」という目的を改めて見直すことが重要です。目的が明確になることで、何を検証すべきかというポイントも自然と浮き彫りになります。検証項目が実際の課題感と適切に結びついていれば、より本質的な示唆を得ることができ、その後の施策検討にかかる時間も短縮されるでしょう。反対に、目的や検証項目が不明確なままでは、テスト参加者やモデレーターの間で「なぜこのテストをしているのか」が共有されず、形だけの調査に終わってしまう恐れがあります。
中立的な態度で進行する
ユーザビリティテストはあくまでユーザーの反応や課題を客観的に把握するためのものであり、「こうあってほしい」といった過度な期待や先入観は持たないようにしましょう。特に、ユーザーが予想外の行動をした際にモデレーターが過剰に反応してしまうと、ユーザーの本来の行動や思考に影響を与えてしまいます。バイアスや誘導が生じることを避け、意味のあるデータを収集するためにも、モデレーターは常に中立的な姿勢を保ち、冷静に対応することが求められます。
課題に優先順位をつける
テストによって多くの課題が発見された場合でも、すべてを一度に改善するのは現実的ではありません。そのため、各課題の影響度や頻度、改善にかかるコストなどの観点から、優先順位をつけることが重要です。どの課題から手をつけるべきかを明確にすることで、改善作業の効率が高まり、リソースや時間を無駄にせず、成果に直結するアクションが可能になります。課題整理は、テストから得たデータに価値を与える工程でもあります。
ユーザビリティテストを行うタイミング
ユーザビリティテストは、製品・サービスの開発プロセスにおける各フェーズで実施できる柔軟な調査手法です。テストを実施する「タイミング」によって得られる気づきや目的が異なるため、以下に代表的な実施タイミングをまとめました。
- 初期:間違った方向性を防ぐ
- 中期:UIの質を高める
- 直前:重大な不具合の見落としを防ぐ
- リリース後:継続的改善のヒントを得る
ユーザビリティテストは一度きりの取り組みではなく、複数回にわたり実施することで価値が最大化されるプロセスです。各段階に応じて適切なタイミングと方法を選ぶことで、ユーザーにとってより良い体験を提供することが可能になります。
まとめ
ユーザビリティテストは、Webサイトやアプリの使いやすさを検証し、ユーザー視点から課題を発見・改善するための重要な手法です。学びやすさや効率性、満足度などの観点をもとに、実際のユーザーに操作してもらうことで、リリース前にUIの問題点を洗い出すことができます。
テストでは、定量データ(数値)と定性データ(ユーザーの声や行動)の両方を組み合わせて分析することで、表面的な課題だけでなく、その背景にあるユーザー心理まで深く理解することが可能です。さらに、対象者の選定や適切な人数設定、テスト設計の工夫によって、効果的な調査が行えます。
ユーザビリティテストは、プロダクト開発の各フェーズで繰り返し実施することで、その都度の気づきを改善に活かし、ユーザー体験の質を高めるサイクルをつくることができます。単なるデザイン評価にとどまらず、企業価値の向上や社内のUX意識の醸成にもつながる、有効なアプローチです。
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