ユーザー視点のプロダクト開発を行うにあたり、ユーザーインタビューを通じてユーザー視点を理解することは欠かせないプロセスであり、昨今では様々なインタビュー方法が活用されるようになりました。
そして、ユーザーインタビューで得た情報を正しくプロダクトに反映させるためには、「ユーザーの声」を整理・分析し、ユーザーが持つ本質的なインサイトを理解することが非常に重要です。
本質的なインサイトと言うのは、ユーザー自身が自覚しているという事はほとんど無く、「ユーザーインタビューで得られる発言=インサイト」にはならないため、
「ユーザーの声」を整理・分析することで、インタビューの情報を正しくプロダクトに反映することができます。
本記事では、ユーザーインタビューを通じて取得した情報からユーザーインサイトを抽出する方法の一つである、「上位・下位分析」についてご紹介します。
目次
上位・下位分析とは?
一つ目の上位・下位分析とは、インタビューやフィールドリサーチなどで得られた情報から、ニーズを階層的に抽出する方法のことです。ユーザーの事象を上位化する作業を通じて、階層的に分類し、それらの繋がりから本質的なニーズを抽出していきます。
上位化の考え方
上位・下位分析では、下記の階層にて整理し、上位化を行っていきます。
・ユーザーの本質的ニーズ(〜になりたい)
・ユーザーの行為目標(〜したい)
・ユーザーの事象・行動や発言(〜が欲しい)
インタビューで得られた情報は、「ユーザーの事象・行動や発言」に該当し、これらのニーズが発生する理由を考えながら上位化することで、ユーザーの本質的なニーズを抽出していきます。
最も下位概念にあたる「ユーザーの事象・行動や発言」は、ユーザーが置かれている状況の中で、起こしたい行為(Do)を実現するための「〜が欲しい」というニーズになります。Doを実現するために、「〜が欲しい」(Have)というニーズとなるため、これを「Haveニーズ」として位置付けます。
Haveニーズから、「Haveしたい理由は、どんな行動をしたいからなのか」というユーザーの行為目標として上位化します(これを「Doニーズ」と言う)。そこから、「Doしたい理由は、どんな状態でいたいからなのか・どんな自分でありたいからなのか」という観点で上位化します(これを「Beニーズ」という)。
・Beニーズ:〜になりたい(ユーザーの本質的ニーズ/ユーザーの本質的にニーズ)
・Doニーズ:〜したい(Beニーズを実現するためにDoしたい/ユーザーの行為目標)
・Haveニーズ:〜が欲しい(Doを実現するためにHaveしたい/ユーザーの事象)
上位・下位分析のプロセス
準備
まず、グループインタビューを通じて得られた情報に基づき、対象者の特徴的な行動とその理由、要望などを整理し、付箋などを使ってカード化していきます(このカードを「事象カード」とする)。
次に、模造紙などを使い、①で作成した事象カードを貼っていくために、3段の階層に分けられるように線を引きます。
この時、先ほどの説明の通り、一番下を「ユーザーの事象(Haveニーズ)」の欄、真ん中を「ユーザーの行為目標(Doニーズ)」の欄、一番上を「ユーザーの本質的ニーズ(Beニーズ)」の欄とします。
事象カードの整理
「①」で作成した事象カードを、一番下の「ユーザーの事象」の欄に置きます。この時、類似の事象カードはまとめて置きます。
事象カードの中で、それが事象なのか、行為目標なのかと言う上位概念・下位概念の整理をして行きます。行為目標に該当するものは、真ん中の「行為目標」の欄にカードを移動させ、対応する「ユーザーの事象」と線で結びます。
上位化
事象カードだけでは、上下関係を導出できないことが多いため、事象カードを元に上位のニーズを検討し、カード化します。カード化したものを「行為目標」の欄に置き、対応する事象カードと線で結びます。
すべての事象カードの上位化が完了したら、同様に「ユーザーの行為目標」の欄のカードも上位化を行い、「ユーザーの本質的ニーズ」を抽出。対応関係を線で結びます。
レベルの調整
本質的ニーズの抽出が完了したら、全体像を確認し、各階層でのレベルが揃うように表現を調整していきます。
作業する時のポイント
①事象カードを作成するときは、単語ではなくシーンが浮かぶように文章化する
上位・下位分析では、「事象カード」を元に全ての上位化が行われるため、一番初めの「事象カードの作り方」によって、分析全体のクオリティが変わってきます。
事象カードを作成する時は、単語で記述するのではなく、具体的なシーンが浮かぶような文章で記載することを意識しましょう。
うまく文章化できない時は、シーンへの理解が不十分だとし、インタビューの録音を聞き直したり、再度追加のインタビューを行ったりして理解を深めましょう。
②適度な抽象度で上位化を行う
行為目標を上位化し、本質的ニーズを抽出する際、どのレベルで抽象化するかがこの上位下位分析のポイントになります。
上位化を続けていくと、人間持つ普遍的な欲求まで変換することができますが、そこからだとサービスアイデアを抽出することは難しいため、適度な抽象度で上位化を行うことが大切です。
対策方法として、「ユーザーの本質的ニーズ」のさらに上位に、あえて「最上位ニーズ」という欄を設けることで、行為目標より上位だが、抽象度が高すぎない本質的ニーズを導出する(最上位ニーズが、人間の持つ普遍的な欲求になるため、その一段階下位層のニーズからアイデアを発散する)というやり方もあります。
参考文献:安藤 昌也『UXデザインの教科書』丸善出版 (2016/6/1)