新規事業のサービスアイデアを検討する際は、ペルソナの本質的なニーズを満たしているサービスである必要があります。
UXデザインプロセスでは、ペルソナの抱える本質的なニーズや提供するべき体験価値を明確にした上で、サービスアイデアを検討していきます。
アイディエーションのフェーズでも、上記を前提としてサービスアイデアの発散を行いますが、アイディエーションでは量を重視して自由に発散を行う方が、新規性が高い独自のアイデアが出やすく、良い結果に繋がります。
そのため、発散後の収束のフェーズでは、サービスアイデアがペルソナの抱える本質的なニーズや提供するべき体験価値と結びついているかどうか確かめながら、アイデアをアップデートしていく必要があります。
本記事では、発散されたサービスアイデアをブラッシュアップしていくフェーズで効果的な「UXデザインコンセプトシート」の作り方についてご紹介します。
目次
UXコンセプトシートとは
UXコンセプトシート(以下、「コンセプトシート」と記載)とは、サービスアイデアを整理する時に使用するUXデザインの手法の一つです。
新規サービスを検討する際に、検討しているサービスアイデアが対象ペルソナの持つ本質的なニーズに対応している必要がありますが、コンセプトシートを使用することで、アイデアとユーザーニーズとの結びつきがあるか確かめることができます。
どんな時に使用する?
コンセプトシートを使用するタイミングとしては、サービスアイデアのアイディエーションを行った後の収束フェーズになります。
サービスアイデアを決定する際には、ペルソナに該当する方に対してコンセプトテストを実施することが多いですが、コンセプトテストに進める複数案に対してサービス内容のブラッシュアップと具体化を行う際に効果的な手法になります。
コンセプトシートを構成する要素
①ペルソナ
②UXデザインコンセプト
③シナリオ
④使い続けた時の心の声(累積的UX)
⑤実現するべき体験価値
⑥ユーザーの心の声
コンセプトシートの作り方
①ペルソナ
サービスの対象となるペルソナの情報を記載します。ペルソナが複数存在する場合は、メインペルソナを記載します。
ペルソナを記載する際は、数ある特徴の中で体験に影響する特徴・強調するべき特徴を抽出して記載します。
②キーフレーズ
サービスアイデアを端的に表現するキーフレーズを記載します。
おおよそどんなサービスかが分かることはもちろん、「ペルソナにとってどんな魅力があるサービスか」が分かるように記載されたキーフレーズが望ましいとされています。
③実現するべき体験価値
サービスアイデアを通じてユーザーに提供するべき体験価値を記載します。
アイデアを発散する際にも軸となっていると思いますので、新たに考えるというよりはこれまで軸としてきた体験価値を記載すると良いでしょう。
アイデアを通じて提供できる体験価値は複数存在することが多いです、その中でもメインで提供するべき体験価値(この体験で重視する体験価値)が何かが分かるように記載します。
また、体験価値の中には、他社サービスでも当たり前に提供している「当たり前品質の価値」と、相対的に見て自社サービスの魅力となる「魅力的品質となる価値」があります。それぞれが当たり前品質か、魅力的品質かが分かると良いでしょう。
④使い続けた時の心の声
ユーザーがサービスをある程度使用し続けた時の事を想定し、心の声を記載します。この時記載する心の声は、「③」の体験価値と一貫性のある状態となる必要があります。この2つにずれが発生している場合は、どちらかを修正します。
⑤UXデザインコンセプト:シナリオ
「②」のキーフレーズに沿って、「どんな時に、サービスをどのように利用すると、ユーザーにとってどんな良いことがあるか」が分かるように、ユーザーシナリオを記載します。
サービスを利用する時間軸に沿って、サービスの利用前・利用中・利用後に分け、それぞれのフェーズでアイデアが提供する体験がどのようなものになるか、端的に記載します。
⑥ユーザーの心の声
ユーザーがサービスを利用する前後の「ユーザーの心の声」を記載する。
サービスを利用する時間軸に沿って、「利用前の期待・不安」「利用中の声」「利用後の感想」が分かるように記載します。
利用前の期待では、サービスを利用する前にユーザーが感じている期待と不安が分かるように記載することで、アイデアのどこが重要かが分かるように書きます。
利用中の声では、サービスのどんな機能を利用して、どんな嬉しいことを感じているかが分かる様に書きます。「④」で記載した使い続けた時の心の声と関係している内容であると良でしょう。
利用後の感想では、「⑤」で記載した利用シーンを想定し、利用シーンが終了した時の感想が分かる様に書きます。
コンセプト作成時の注意
テキストだけでなく、写真も使いながら、よりイメージしやすくなるように記載する
コンセプトシートでは、サービス利用時の体験をより具体的にイメージできることが重要になります。シナリオを記載するときは特に、テキストだけではなく写真も使いながらシートを作成していくと良いでしょう。
サービス機能の詳細は、サービスコンセプト後に設計する
サービス案の収束フェーズでは、サービスの機能設計を行うことが多いが、UXデザインプロセスでは、機能の具体化はなるべく最後の方まで残しておき、先に提供するユーザー体験を明確に定義します。
機能の設計が先行してしまうと、提供したいユーザー体験と齟齬が発生してしまい、ペルソナが抱える本質的なニーズに対して価値提供できていないサービスとなってしまう可能性が発生するためです。
今回ご紹介したコンセプトシートで、実現した体験やユーザーの心の声を記載することで、ペルソナの特徴を捉えた体験価値が明確になり、体験を実現するために必要な機能が備わった「ユーザーに求められるサービス」の実現に効果的なシートとなるでしょう。
参考文献:安藤 昌也『UXデザインの教科書』丸善出版 (2016/6/1)