9月28日、株式会社セブンデックス主催のトークイベント「業界を牽引するリーダーたちに聞く〈デザインとビジネスの未来〉」が開催されました。
BCG XのVice President – Experience Design 花城泰夢氏と、株式会社Algomaticの執行役員CXO 野田克樹氏を特別ゲストとしてお招きし、弊社代表取締役の中村伸啓含む3名でパネルディスカッションを行いました。
本記事では、3名による「デザインとビジネスの未来」についての熱い議論をレポートとしてお届けします。スピーカーの花城氏が、話しながら作成してくださったグラフィックレコードも合わせてご覧ください!
目次
登壇者紹介
花城 泰夢|Hanashiro Taimu
2016年4月、BCG Digital Ventures(現BCG X)の東京拠点の立ち上げから参画。東京のExperience Designチームを牽引し、ヘルスケア、保険、消費財、金融などの領域で新規事業立ち上げやカスタマージャーニープロジェクトを実施。日本のみならず、韓国でも金融や小売業界にて新規事業立案やカスタマージャーニープロジェクトを行ってきた。UI/UXを専門領域としている。前職、株式会社トランスリミットにて、脳トレアプリ『BrainWars』、『BrainDots』のクリエイティブをリードデザイナーとして担当。6000万ダウンロードを記録した。
野田 克樹|Noda Katsuki
2017年4月からGoodpatchにてUXデザイン/プロジェクトマネジメント、及びデザインマネージャーを経験後、2021年4月からTBSテレビのデザインセンター デザインマネジメント部に転職。TBS NEWS DIGのデザイン、プロダクトマネジメントをはじめ、主にTBSのデジタルタッチポイントのUI/UXディレクションに従事。2021年4月から兼業で副業・フリーランスのエンジニア・デザイナー組織のBison Holdingsの非常勤取締役としてデザインプロジェクトの管轄等も担当。Bison Holdingsを株式会社Algomaticに売却し、同時にAlgomaticに創業メンバーとして参画。 執行役員CXOとして横串でデザイン組織の組成、各事業のプロダクトデザイン/コミュニケーションデザインのディレクションをはじめ、コーポレートブランディングや広報などを管掌。
中村 伸啓|Nakamura Nobuhiro
ベンチャーで業務経験を積み、大学卒業後に広告営業としてマイナビに入社。24歳で同社事業部最年少でマネージャーを務める。その後メディア開発、アプリの企画開発を経験し2018年にSEVEN DEX Inc.を設立。代表取締役に就任。
トークセッション① 事業を成長させるデザインとは
ビジネスとデザインの関係性とは
花城:
「ビジネスとデザインの関係性」について、まず皆さんに図を書いていただきました。
僕は経営コンサルティングファームにいるっていうのもあって、ビジネスとデザインをどうにか融合させようとしているけれど、まだ分かれている感覚でいます。
中村:
僕はビジネスとデザインはほとんど一致していると考えています。
これはデザインの対象をどこに置くかだと思っていて、会社っていう単位で考えるとステークホルダーを幸せにするのが会社のミッションですよね。それらの行為を設計するとなると営利活動のほとんどがデザインの対象になってくるため、ビジネスとデザインはほぼ一致してきているというのが僕の考え方ですね。
野田:
3人の中で、僕は図にしたときの「デザイン」のサイズが一番小さいですね。僕は、ビジネスとデザインは比較する抽象度が同じではないと捉えています。つまり、営業もマーケも人事も、1個のビジネス(事業)を成長させるためにやっていると考えると、one of themのスペシャリティとしてデザインが存在しているという感覚でいます。
戦略の可視化をデザイナーがすることで、大きい組織の中でコンテキストが共有されやすくなってマネジメントコストが下がる、みたいなことがありますよね。でもそれってもはやデザインの領域ではなくて、経営戦略の組織のインプットをデザインという形で溶けさせてレバレッジさせていると考えられると思うんです。
デザイナーは良いプロダクトを創るとか、各タッチポイントで爆発力のあるコミュニーケーションをデザインするとか、デザイナーだけが持つコアな部分は守りつつも、デザイン以外の職種をデザインでいかにレバレッジさせるかがデザイナーとして向かうべき問いなのではないか、と最近考えています。
事業における成長ドライバーは何か
中村:
成長ドライバーは「顧客」だと思っています。
体験を提供するというよりは、価値を提供する。それをデザインするのが事業を成長させるデザインだと思ってるんですよね。いくらUIが良くても、ユーザー価値を作れなければ意味がない。時にはバリューチェーンやビジネスモデル自体が1番の価値になることだってある。デザイナーは、ユーザーが何を求めているのかを探り、本当にユーザー価値になるものをデザインしにかからないといけない。だから、事業の成長ドライバーは顧客だと思うんです。
野田:
ビジネスって、「超壮大な言語ゲーム」という言葉がピッタリくると僕は思っているんです。インサイト、つまりお客さんの深層のニーズを探り、それをコンセプトに落とし込み、体験設計、そして具体的なプロダクトへと結びついて、初めてお客さんの手に届く。ビジネスっていうのはその一連の流れなんです。
ここで僕たちが直面するのが「伝言ゲーム」のような問題。つまり「情報の抜け落ち」です。これはまさにビジネスが失敗する本質だと思います。インサイトを具体のプロダクトに落とし込む流れの中で、情報の一部が抜け落ちる。これが避けられない現実として、どの現場にも存在しています。
でも、それを解決するのがデザインの役目なのかもしれません。情報を100で受け取って、その情報を100で伝える。全体と具体を最適化していく。それが、デザイナーの役割だと思います。
抽象と具体を行き来するだけではなく、これらを「なめらかに接続」する。「ビジネス=壮大な仮説検証(伝言ゲーム)」と捉えた時に、その仮説を具体化し、仮説自体を良いものにする、それがデザインの肝だと最近強く感じています。
花城:
コンシステンシー(一貫性)ってデザイナーにとって非常に大切だと思っています。それを任せられるからこそ、ビジネスの中でも責任をもってデザイナーとして立ち振る舞えるなと思っていて。
一貫性を出せると、ビジネスにインパクトを与えやすい、というのもこれまでの手応えとして感じているので、今までの話にすごく共感します。
野田:
お二人に質問があるんですけど、これまでの私の話、結構SaaSを作っているCXOの視点からになっていると自覚しています。前職でクライアントワークを手がけていた時は、伝言ゲームで例えるとコンセプトをデザインに落とし込むステップに力を入れていた気がしていて。もちろん、その時の職種がUXデザイナーだったことも、その感覚に影響しているかもしれませんが。
お二人の現在のクライアントワークの状況はどのような感じなのでしょうか。最近の傾向や、現場での具体的な変化などを聞いてみたいです。
中村:
例えばデジタル系のサービスを作るとして、市場が飽和してきていることで新たなサービスを立ち上げる際にポジショニングに悩むことがよくあります。
少し前までは、新しいアイデアを思いついて、それをきちんと磨けばスペースを作れていた感覚があったんです。でも今は、市場の動向をしっかり見て、リスクをちゃんと評価しないと新しいサービスを出すのが怖い時代になったな、と。既に競合が存在し、その戦闘力がかなり強いケースも少なくないですからね。
そこで、ストラテジーの重要性がより一層際立ってきていると感じています。最近はUIだけの案件は少なく、ブランディングや戦略といった側面も一体となって考慮するプロジェクトが増えています。デジタル分野に限らず、他の分野でも似たような動きが見られていて、領域は違えど向き合っているイシューって、結構似ているんですよね。
花城:
中村さんは色々紐解いていくことで、こういった課題感に辿り着くんですか?
中村:
課題感はわかるんですけど、解決しようと思うともっと複雑な問題だと思っていて。
ビジネスのアジリティが、そもそも価値を生み出すアジリティになっていない、みたいなことが起きていると思います。
そもそもアジリティとはプレイヤーの敏捷性のことで、行動や思考の質、思考様式が合うという状況を「アジリティが合う」と表現しています。
アジリティが合っている組織では、あることをやりたいとなった時に皆一斉にAと答えられる。その粒度感、ベクトル、期間などが同じ状態になっています。
野田:
アジリティの要素で言うと、方向転換のスピードも重要ですよね。例えば、Aのアプローチがうまくいかないと分かったら、すぐにBにシフトする、とか。アジリティという言葉はアジャイルから来ているので、アジャイル開発の考え方がまさにそれを体現しています。アジャイル開発では、1-2週間のスプリントでプロダクトをリリースし、そのフィードバックをもとにすぐに改善を重ねていくスタイルですから。
特にソフトウェアのデザインにおいては、アジリティが大切だと感じます。時には「今回は完璧を目指さず、30点でもいいから明日までにリリースする」という思考で、スピーディに学びと改善を繰り返すことが重要ですよね。
中村:
ソフトウェアの業界では、スピード感がものすごく速くてアジリティーが高くないとついていけない、それがもはや前提です。一方で、メーカーなど物理的な製品を扱う分野って、結構不可逆な部分もあるんですよね。物質が絡むと、なかなか思い通りに変更することができない、そんな現実もあります。旧態依然としたアプローチではもはや対応できない状況の中で、どのようにスピード感速くアプローチするかが課題になっていたりもしますね。
花城:
システムとか業務プロセスとか、そもそもの会社のカルチャーとか、これがアジリティとの対立構造になってたりもしますよね。
トークセッション② デザイン組織の作り方
デザイン組織をどう作るか、どう評価するか
リスナーからの質問: 最近デザイン組織のマネージャーになったのですが、どのようにデザイナーを評価すればいいでしょうか。何をデザイナーの価値だと定義し、評価するのか、悩みながら進めています。
花城:
最近組織が統合したことで、これまで自分で採用してきたデザインチームに加えて、色々なバックグラウンドを持つデザイナーが一堂に集まる形になったんです。
私が行っている評価のセオリーはある意味シンプルで、私がデザインの統括として縦に見て、横からは、各プロジェクトの責任者・PdM(プロダクトマネージャー)とかに評価してもらって、その掛け合わせで判断しています。
例えば、私(縦軸で評価する人)は、Figmaを見ればそのデザイナーのアウトプットが一目でわかる。それに対して、横軸ではその人のデザイナーとしてのスキルだけではなく、プロジェクトの中でどのように動いているのか、それが見えるわけです。ここで重要なのが、この縦軸と横軸の評価者がしっかりとコミュニケーションを取ること。評価対象者にどのような期待値を持っているのか、どういったポイントで成長してほしいと考えているのか、それを事前にしっかりと擦り合わせておく。そうすることで、その人の成長をきちんと追うことができるんです。
組織のヘッドからの視点と、プロジェクトメンバーからの視点。この二つのマトリクスを重要視して、評価基準やフィードバックの方法も適時アップデートしています。
野田:
なるほど。僕は評価軸を細かく設定しようとするほど、逆にそのフレームに囚われてしまう気もするんですよね。
理想的には、プロダクトの人はプロダクト成果が評価軸となり、コミュニケーションの人は瞬発的なタッチポイントでどれだけの成果を出せたかが評価のポイントとなる、といったように、それぞれのポジション・役割に応じて評価軸を変えないと、腹落ちできる評価制度にはならないと思うんです。
ですので、人数にもよるんですけどデザイナーという一括りで評価軸を設定するのではなく、究極的には評価軸は無くしてしまってもいい気がします。その代わり、1on1で半年に一度何をやるかをしっかりと握り、その目標に対して評価する。
もしかしたら、「評価軸があるべきである」という呪縛から解き放たれた方がhappyな状態を作れるのではないかと考えています。ただ、これには中間マネジメント層の力量が大いに問われますね。
中村:
デザイン組織っていう言葉が結構一人歩きしている感じがしてるんですけど、デザイナーが集まる組織なのか、それとも企業全体がデザインを推進しようとしている組織なのかによっても異なると思っています。
そして、もし前者なのであれば、企業の組織論の話と全く変わらないのではないか、とも感じています。
企業の組織論的に良い組織とは何かを考えると、アジリティがいかに合っているか、といった話が大事になる。デザイナーの採用で、特にケイパビリティ等が重要視されがちですけど、僕はより「カルチャーフィット」を見てアジリティの合う組織を作っていくことが大事だと思います。
そして、アジリティーの定義自体もすり合わせていく必要がありますよね。
野田:
その中で、グラフィックのデザイン評価ってすごく難しくないですか?
中村:
例えば、競合が60点のビジュアルの時に、「120点とりに行くんじゃなくてそうじゃなくて80点を取りに行こう!」という戦略の認識が合っているかでも変わる気がしています。このようなアジリティは認識のすり合わせがしやすいんじゃないでしょうか。
野田:
たしかに。評価者がそのコンテキストを把握していることがとても大事ですね。Figmaを見た時に、100点中80点のアウトプットになっているけれど、それは競合が60点だから戦略的に行っている、という背景を理解しているかどうかですね。花城さん、ここまでのお話どうですか。
花城:
やはり、「デザイン組織」というフレームがそもそもバイアスかかっているかもしれないですね。
なので、最初の「デザイン組織の作り方」という問いに戻すと、普通の組織論の話と変わらないので「デザイナーの特性を理解してマネジメントを実行しよう」ということになりそうですね。
トークセッション③ これからのデザイナーのキャリア
花城:
僕は今、デザイナーとしてどうしたいのかという理想よりも、、目の前のプロジェクトをいかに成功させるかにフルコミットしている感じです。僕は組織デザインと新しいクリエイティブ作成にフォーカスして1日を生き切っていますね。
ただ、やはり最近はFigmaのテクノロジー等が進化しているので、普通の企業が制作に2-3ヶ月かかっているのを僕は1日で作ります。それがキャリアの何なのかはわからないですけど、仕組みを作っていくのが楽しいなと思っているので、とにかく事業を前に進めることにフォーカスしています。それがどうビジネスにインパクトを与えるのか、成長曲線を引き上げたらどのような世界がくるのかイメージしながら、ROI爆上がりのデザインを作ってますね。
中村:
野田さんはどうですか
野田:
ChatGPTが世界中で大バズりしていますよね。同じようなサービスがあるなかでChatGPTが勝てたのは、マーケティングと練り込まれたUXだったと思うんです。
変化の多い時代だからこそ、今後常識となってくるユーザー体験が「誰も知らない状態」になる。それを作りに行くのはデザイナーにしかできないので、UXができる人は今後もっと求められると思います。
野田:
少し別の角度からの話をすると、結局我々は資本主義の中で戦っている1ビジネスマンです。 そう捉えると、ビジネス成果が上がらないことにはデザイナーのキャリアも築かれないと思っています。
少しジャンプして結論を話すと、
Airbnb創設者のBrian Chesky(ブライアンチェスキー)になるのか、Appleでスティーブ・ジョブスの右腕だったJonathan Ive(ジョナサン・アイブ)のようになるのか、という点があると思っています。ただ、前者はごく稀なケースなので後者の話をすると、右腕であるということは「胴体」があるということです。つまり、「どの胴体を選ぶか」が今後のデザイナーのキャリアの本質なのではないか、と思っています。
僕は、事業自体が伸びていないとデザイナーのキャリアの世界も広がらないという前提に立っているので、どのビジネスが伸びそうか、どの人についていけばマーケットを切り開けるか、というように自分の軸足を置く場所を定めています。そして、いざ素敵だと思える胴体に出会った時に、いかにして「君とやりたい!」と胴体に言わせるかも考えておく必要がありますね。
つまり、クラフト力を極めるのと同じくらい、ビジネス側の嗅覚も大切なのではないか、というのが僕の意見です。
中村:
お二人からテクノロジーの話が出ているのは結構本質だと思っています。これからのデザイナーは、テクノロジーと共にある。
最近の仕事でいうと、パソコンを眺めている時間が増えたなと感じていて。つまり、AIが業務をやってくれるのを待っている時間ですね。初期仮説を作る最初の4割はAIに任せて、残り6割を自分で磨いていく、といった働き方になっています。
そして、知識で優劣がついていた差分がAIによって埋まっていく感覚があります。なので、情報をどう使うか、どのような発想や表現をするかの戦いになってくるわけですよね。そこで、テクノロジーと友達にならないとその土俵にそもそも乗れなくなってしまいますよね。
リスナーからの質問: これまでのお話聞いていた中で、「越境人材」が求められると思いました。そういったH型の人材に自分もなりたいのですが、世の中に求められる人材になるには幅の広さと深さをどこまで追求すればいいか悩んでいます。
花城:
コンサルティングファームとかだと、圧倒的な専門性の深さが求められますよね。1軸勝てないと戦えなくて、それとの掛け合わせですね。僕は必死でビジネスの深さを出そうとしています。
野田:
どこまで自分が掘れば深いと言えるのか、というのがさっきの質問の本質と捉えた時に、花城さんが「デザイン=深い」というコンセンサスが取れているのは何故でしょうか。
花城:
とりあえず、「やればできる」という前提で、全力でやるんです。
メニュー表作成だったり、ロゴだったり、初めてやることも全部「できます」と言ってやってみる。
そのためには圧倒的なリサーチすれば良いだけなんです。世の中には情報が沢山あるので、200個くらい見れば大体パターンが分かります。
ビジネスについても同じです。BCGの人が読んでいる本は全て読んで、経営のアジェンダについていく。そこにデザイナーとしてのオピニオンを付け加えることで、際立たせるという感覚です。
野田:
なるほど。なぜ僕がこの質問をしたかというと、この花城さんですらHを深掘り切ったと思っていないんですよね。そこが本質だと思っていて、結局は「ここまで深掘ったらOK」というのは無い。ハッタリをかましながら目の前のことを突き詰めていったその先に、後ろを振り返ったら深さがでているということなんじゃないでしょうか。
さいごに
イベントレポート、最後までご覧いただきありがとうございました。
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