昨今、モノづくりにおいて消費者の視点は無視できないものになっています。
この視点を取り入れるためには消費者のインサイトを発見し、理解することが重要です。
今回はインサイトの概要と、実際の調査の流れについて事例を交えながらご紹介します!
インサイトとは
インサイトとは消費者が抱く隠された欲望、サービスや商品の利用、購買動機のことです。買い物に出かけた場面を想像してみてください。購入する商品をどのように選んでいますでしょうか。価格だけを見て購入している!という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、「なんとなく良いな」と感じて購入しているものも少なくないでしょう。この「なんとなく良い」を生み出す鍵となるのがこのインサイトです。
私たちは自分の「本当にしたいこと」や「本当に欲しいもの」を把握できていません。というのも、普段はそういった欲求を隠して生きているからです。例えば大事な会議中にお腹が減ったとしても、まさかお弁当を広げて食事を始めるなんてことしないですよね?このように普段から社会規範や常識に基づいて自らの欲求を抑制しているため、私たちは自身の真の欲求に気づくことが困難なのです。
インサイトの調査実施の流れ
それでは、インサイト調査の大まかな流れをご紹介します。
一人インサイト、グループインサイト調査
消費者のインサイトを調査する前に、自分自身、複数名の場合はグループメンバーのインサイトを知ることから始めましょう。そのために自分で商品やサービスを使ってみてください。どんな時、どんな感情でこの商品を使い、その結果どう思ったのかといった観点からその商品が持つ価値を洗い出していきます。
続いては1度、常識から離れた視点で商品やサービスが与える代替不可能な価値を抽出します。ここでは「当たり前」をより深く、異なった視点から捉えることが重要です。当たり前だと思っていることを「本当に?」「何故そう思う?」というように改めて問い直すと良いでしょう。
どういうことか、車を例に考えてみます。まず、車とはなんでしょう。車にこだわりがある方やそうでない方で考えは異なるかと思いますが、つまるところ「移動手段」の1つですよね。これは誰もが共有する一般的な認識だと思います。そこで、車が持つ「移動手段」以外の価値は何かを考えます。例えば、自分のステータスを示す情緒的な価値や趣味に没頭できる空間、簡易的な居住スペースとしての機能的価値などが挙げられます。仮にターゲットを車ブランドのファンだとすると、ターゲットに対しどんなステータスを付与しているのかを考えることで、消費者インサイトの仮説を立てることができます。この仮説は実際に消費者を調査する際、より核心に近いインサイトを発見する一助となります。
消費者インサイト調査
そしていよいよ消費者インサイト調査です。ターゲットになる消費者を特定してインタビューや行動観察調査など様々な手法を用いて調査を行います。手法自体はたくさんあります。しかし、重要なのはどのような形式が1番インサイトを引き出しやすいかを考えて手法を選択することです。
例えば、インサイトの名人と言われた阪急電鉄創始者である小林一三氏の例をご紹介します。
彼は当時阪急電鉄の社長でした。にも関わらず、 自ら車掌の服を着て電車に乗り込み、乗客を観察することを頻繁に行っていたそうです。
そうして得られたインサイトを元に彼は自分で広告も作っていました。当時、阪急電鉄はあまり人が住んでいない地域に路線が通っており、乗客が少なく、かなり空いていました。その状況を逆手に取り、「綺麗で、早うて、ガラアキで眺めの素敵に良い涼しい電車」というコピーで新聞広告を制作したのです。これはまさに自分自身で電車に乗り込み、目の当たりにした状況から価値を見出した結果生まれた素晴らしい広告です。
その後も小林一三氏は乗客の観察を続け、その結果、駅周辺に宝塚や百貨店、温泉施設を展開し、阪急鉄道の利用者を増やすことに成功しました。
小林氏は直接乗客にインタビューをするのではなく、車掌としての視点と乗客としての視点を持って電車に乗り込んだからこそ、乗客が少ないというネガティブな状況をポジティブに捉えられるインサイトを発見するに至りました。
このように状況によって最適の調査方法は変わってきます。より核心に近いインサイトを発見するためにはどの方法を選ぶべきか吟味する必要があるのです。
インサイト分析の事例
それではインサイト分析の事例を2つご紹介します。課題や調査方法、その分析結果を中心にまとめています。
角栓除去パック
とある企業の角栓除去パックにまつわるインサイト発見までの流れをご紹介します。
この角栓除去パックは販売開始直後、予想を大きく上回る大ヒットとなりました。
しかし、パックの使用が習慣として根付くまでには至っておらず、いかに習慣化するかという課題を抱えていました。
そこでインサイト調査の必要性を感じ、まずはグループインサイトを実施しました。汚れを落とすという行為にどういった意味合いがあるのかを議論しました。日中外に出て仕事や勉強を頑張り、家に帰ったら汚れた体を綺麗にする。そのことから、汚れを落とすという行為は、仕事や勉強を頑張る自分を確認するという意味合いもあるというインサイトの仮説が立てられました。
次に、消費者インサイト調査です。ダイアリーメモ法という商品利用時の状況を消費者自身に録音してもらう調査方法を用いて、使用感の感想を聞き出していきました。角栓除去パックの価値が1番発揮されるのは「角栓を取り除く瞬間」です。その一瞬の出来事についてあとでインタビューしてもリアルな気持ちを聞き出すことはできません。そのため、商品を使う瞬間を録音してもらうダイアリーメモ法の採用に至りました。
そこから発見されたインサイトは、消費者にとってパックによって取れた角栓を見ることが楽しみであり、喜びにつながっているというものでした。このインサイトを広告に落としこんだ結果、見事多くの消費者の共感を呼び、角栓除去パックの使用を定着させることができました。
「got milk キャンペーン」
こちらは1993年にアメリカ、カリフォルニア州で始まった牛乳の消費量を増やす目的で始まったキャンペーンです。
当時、カリフォルニア州牛乳諮問委員会は牛乳の消費量減少に危機感を感じていました。そこで牛乳に対するネガティブイメージの払拭を図る広告を打つも、売り上げ回復には繋がりませんでした。
ネガティブイメージは払拭できたはずなのに何故…そう思った委員会は定性調査を行いました。普段から牛乳を飲んでいる調査対象者に1週間牛乳の無い生活を送ってもらい、その期間の食生活や感情を日記に記録してもらうというものです。すると、調査対象者の多くが牛乳のない食生活に苦痛を感じ、特にシリアル、クッキーやブラウニーを目の前にした時、食べづらくイライラしたという結果が得られました。
この結果から発見されたインサイトは「牛乳について考えるのは、シリアルやクッキーといった牛乳と相性のいい食べ物を食べようとして、家に牛乳がなかった時だけ」というものです。そこで、非消費者に対しイメージ回復を促すのではなく、消費者への訴求へと戦略を変更しました。結果、牛乳販売量は7.4億ガロンから7.55億ガロンへと上昇し、牛乳消費量をV字回復させることに成功しました。
おわりに
優れたインサイトは消費者と商品、サービスの間に強い絆を結ぶことを可能にします。
今回ご紹介した事例を参考に、インサイトを発見して商品やサービスの成長に役立ててみてください。