ビジネスの検証、可視化に用いられる「ビジネスモデルキャンバス」、聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。なにか表のようなもので表すらしいけど、表の中に何を入れればいいのかわからない…、実際の企業をビジネスモデルキャンバスで表したものを参考にしたい…。そういった方に向けて、本記事ではビジネスモデルキャンバスの基本的な目的や構成要素、そして有名な6社のビジネスをビジネスモデルキャンバスに落とし込んだ例をご紹介します。
目次
ビジネスモデルキャンバスとは?そのメリットは?
ビジネスモデルキャンバスとは、経営学者のアレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールによって作り出された、ビジネスの構造を可視化するための以下のようなフレームワークです。
ビジネスモデルキャンバスの9つの要素
表が示すように、ビジネスモデルキャンバスは9つの要素で構成されています。ここではそれぞれの表すものについて見ていきましょう。
顧客セグメント(Customer Segment)
ビジネスが提供する製品やサービスを必要とする人々の、特定のグループを表します。これは年齢、性別、地理的場所、職業、行動、関心、ライフスタイル等を基に策定することができます。例えば、あるビジネスは若いビジネスパーソンを対象とするかもしれませんし、別のビジネスはすでに退職した高齢者を対象とするかもしれません。ここから想定される顧客は、そのビジネスが提供する価値提案を受け入れ、それに対してお金を払う意思があるということを前提としています。
価値提案(Value Proposition)
ここでは、顧客に対して提供する独自の価値を定義します。製品やサービスが提供する価値が顧客の問題を解決できるか、またはそのニーズをどう満たすかを明確にします。加えて、自社のビジネスを競合他社から区別する独自の特性や利点も示しましょう。例としては、製品の品質、価格、利便性、デザイン、ブランドのイメージなどが価値提案の項目に記入するべき要素です。
キーリソース(Key Resource)
キーリソースは、ビジネスが価値提案を達成し、顧客との関係を維持し、収益を得るために必要なリソースを表します。具体的には、物的なもの(ビル、機器、車両など)、知的なもの(ブランド、特許、著作権、データ、専門知識など)、人的なもの(従業員、パートナー)や財政的なもの(現金、クレジット、投資など)がキーリソースの構成要素となります。
キーアクティビティ(Key Activity)
ここにはビジネスの成功のために必要なタスクや行動を書き入れましょう。具体的に記入するべき情報は、製品の製造、ソリューションの開発、サービスの提供、新しい顧客の獲得、顧客との関係の維持、収益の獲得などが挙げられます。
主なパートナー(Key Partner)
ビジネスは通常、自社での活動やリソースを補うために、外部のパートナーと連携することが欠かせません。供給業者、製造業者、外部コンサルタント、広告代理店などがこの項目に含まれ、自身のビジネスが価値提案を提供するために必要な製品、サービス、専門知識を提供してくれるパートナーは誰なのかを明記します。
顧客との関係(Customer Relationship)
顧客との関係には、言葉の意味通り、ビジネスの対象とする顧客とどのように関係を築くかを記録しておきます。新規の顧客に売り切りの形で製品を売るのか?既存の顧客とサブスクサービスとして関係を続けていくのか?などについてここで考えます。
チャネル(Channel)
ここでは価値を顧客に届けるための特定のチャネルを定義します。例えば、物理的な店舗、オンラインストア、直接の販売チーム、パートナー企業などが構成要素になります。前述の「顧客との関係」との違いは、チャネルにはより物理的、直接的に顧客と接する場所を明記する、という点です。
コスト構造(Cost Structure)
ここではビジネスを通して発生するであろうコストを特定します。例としては、リソースのコスト、活動のコスト、パートナーシップのコスト、販売、マーケティング、製造などの運用コストが含まれます。
収益の流れ(Revenue Stream)
これはビジネスがどのようにお金を稼ぐか、つまり収益源を特定します。この要素の例としては、製品の販売、サブスクリプション料、レンタル料、ブローカージ手数料、広告収入などが挙げられます。
メリット1:ビジネスの構造を可視化できる
一枚の紙や画面上にビジネスの全体像を示すことで、各要素がどのように繋がっているかを視覚的に可視化することができ、要素間の関連性を明確にできます。これにより、特定の価値提案が特定の顧客セグメントのニーズをどのように満たしているのか、またその価値提案を支えるキーリソースやキーアクティビティは何であるのか、ということが理解しやすくなるのです。
また、ビジネスモデルキャンバスを使うことで、ビジネスモデルの弱点やビジネスチャンスも可視化されます。全体像を見ることで、ビジネスモデルに欠けている要素や、連携が取れていない要素に気付くことが容易になります。それによって新しい顧客セグメント、パートナーシップ、収益の流れなどの機会を見つけ出すことにもつながるのです。
加えて、ビジネスモデルキャンバスでビジネス全体を可視化することによって、ビジネスモデルをチームメンバーやステークホルダーとよりスムーズに共有できます。ビジネスモデルの各要素が一目で理解できるため、関係者の間で誤解や認識の齟齬が生まれることを防ぐことにも非常に効果的です。
メリット2:ビジネス全体の検証・確認ができる
ビジネスモデルキャンバスは、組織全体のパフォーマンス検証においても重要な役割を果たします。このツールを用いることで、組織の各要素がどのように連動して機能するか、また、特定の要素が他にどう影響するかを視覚化することが可能です。
さらに、このキャンバスによって、ビジネスモデルの動作を評価することもできます。新製品の価値提案が目指す顧客セグメントに実際に価値を提供しているか、また、その製品を支えるキーリソースや活動が適切に配置・実行されているかを見定めることができるのです。これらの理由により、ビジネスモデルキャンバスを用いれば、ビジネス全体の流れが機能しているかどうかの検証・確認がよりスムーズに行われます。
ビジネスモデルキャンバスの書き方
ビジネスモデルキャンバスを作成する際、決まった書き順といったものは存在しませんが、中でも特に重要な要素は顧客セグメントと価値提案の2つです。それでは、なぜその2つから書き始めるべきなのでしょうか。その理由を見ていきましょう。
ビジネスモデルキャンバスを作成する際、まず最初に「お客様」、つまり「顧客セグメント」について考えます。ビジネスの中心はお客様であるからこそ、どんな人物がどんな製品・サービスを求めているのかを把握することが大切なのです。
次は「価値提案」です。自社の製品やサービスが選ばれる独自の理由を定義します。どのように他社と差別化を図るのか、また、具体的にどのような価値をお客様に提供するのかを示します。顧客セグメントから抽出したニーズを基に価値提案を設計することで、お客様が必要とする解決策を具体的に提供するための方針が立てられます。
「顧客セグメント」と「価値提案」を最初に明確にすることで、ビジネスモデルキャンバスの他の要素もスムーズに組み立てやすくなります。「誰」に「何」を「どのように」届けるのかの内、「どのように」にフォーカスしやすくなるためです。ビジネスモデルキャンバスの9つの要素は相互に関連しているため、全体としての一貫性を保つためにも、顧客セグメントと価値提案の2要素から組み立て始めるのが良いでしょう。
6社の事例を紹介
ここまでは、ビジネスモデルキャンバスとはなんなのか、そしてどう書き進めるのかなど、比較的抽象的な内容を取り扱ってきました。この項目では、有名企業6社を例として、より具体的なビジネスモデルキャンバスの例をお見せします。これらの例を見てイメージの解像度を高められれば幸いです。Amazon、Spotify、Airbnb、Google、Tesla、OpenAIの6社について見ていきましょう。
Amazon
Amazonのビジネスモデルキャンバスにおいて特徴的なのは、「価値提案」の部分でしょう。豊富な品揃えが迅速な配送により手に入る、という価値をユーザーに提供しています。また、それを実現させるための物流・配送パートナーも、Amazonの大きな強みの1つです。
Spotify
Spotifyのビジネスモデルで特に特徴的なのは、「収益の流れ」でしょう。無料プランでは自由な曲の選択が制限され、シャッフルなしで再生するためにはサブスクリプションに加入しなければなりません。広告収入を主としたフリーミアムモデルと、サブスクリプションという2つの収入を得る仕組みをうまく組み合わせているのです。
Airbnb
Airbnbの大きな特徴は、なんといっても「主なパートナー」と「顧客セグメント」の2つでしょう。ただ旅行者に宿泊場所を提供するだけでなく、物件やアクティビティのホストにも収入が得られるという仕組みは非常に革新的です。結果として、Airbnbは従来の宿泊・民泊業界に変革をもたらしました。
Googleでは、「価値提案」と「収益の流れ」が特徴的です。人々は、今でこそ当たり前のようにインターネットを使っていますが、それはGoogleの提案する価値が人々のニーズに強く合致しているためでしょう。ニーズを満たすことによって、人々はGoogleに集まり、Googleに広告を出すことの価値を高めています。そして、その強みを活かして広告の掲載料で収益を出しているのです。
Tesla
ここで注目するべきは、「キーリソース」と「主要活動」です。Teslaは革新的な電気自動車とエネルギー技術を用いて、ビジネスモデルを作り上げているのです。Teslaに限らず、革新的な技術・テクノロジーを活用している企業のビジネスモデルは、特にこの2つの要素が優れているはずです。
OpenAI
最後はAIブームの火付け役であるChatGPTの開発元、OpenAIです。ここで特徴的なのは「価値提案」です。Teslaの項目でも述べた通り、革新的なテクノロジーの提供者は「主要活動」と「キーリソース」が優れているのはOpenAIも同様ですが、ここでは「価値提案」について述べていきます。OpenAIが提供しているAI技術と「社会全体の利益の最大化」という価値は、企業から研究者、一般のユーザーまで、多くの顧客層のニーズを満たし、これからの技術向上も期待できます。
6つの有名企業のビジネスモデルについて、ビジネスモデルキャンバスを用いて簡単に振り返ってみました。完璧な分析ではありませんが、ビジネスモデルキャンバスの具体例として何かしら得られたものがあれば幸いです。実際にビジネスモデルキャンバスを作成される際は、顧客セグメントと価値提案をはじめに定め、ほかの要素もシンプルにまとめるところから始めてみてはいかがでしょうか。
ビジネスモデルキャンバス作成に役立つツールとテンプレート
最後にビジネスモデルキャンバス作成に役立つ2つのツールと、コピーしてGoogle Slideなどで使用できるテンプレートをご紹介します。
Miro
まずご紹介するのはホワイトボードツールである「Miro」です。このサービスは無料版でも十分な機能が使用可能なことに加え、ビジネスモデルキャンバスのテンプレートも提供しています。それぞれの要素に何かを書き込む際は、付箋の機能を使って直感的に、まるで実際にホワイトボードと付箋を使っているような感覚で書き込めます。
FigJam
もう1つのツールは「FigJam」です。これはデザインツール「Figma」が提供するホワイトボードツールで、Miro同様、ビジネスモデルキャンバスのテンプレートを提供しています。Figmaとは同じ提供元であるため、Figmaとの連携が非常にしやすく、普段デザインなどの業務でFigmaを使っている方にとっては特に使いやすいツールとなってくれるでしょう。
テンプレート
ビジネスモデルキャンバスのテンプレートとしては、Miroが非常に使いやすいですが、Google SlideやPowerpointなどを用いる場合のために、画像としてコピーできるビジネスモデルキャンバスを添付しておきます。画像をコピーしスライドに貼り付け、その上からテキストボックスを追加するなどしてご使用ください。
おわりに
本記事ではビジネスモデルキャンバスについて、基本的な情報から具体例、そして作成ツールやテンプレートをご紹介しました。目的や書き方など、何か1つでも新しい発見がありましたら幸いです。ビジネスモデルキャンバスを作成する際に、この記事で解説された内容がヒントになることを祈っています。