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必ず新規事業が成功する特効薬…なんてない。トライバルメディアハウスの新規事業「MARPS」の順調な立ち上げから学ぶ

「新規事業開発が黒字になる確率は7%」という衝撃の調査結果をご存じですか?

2018年にアビームコンサルティングが年商200億円以上の780社を対象に実施した調査によれば、取り組み始めた新規事業のうち、ローンチできたものは「43.9%」、開発コストを上回る利益創出(累積黒字)に至ったものはたったの「7%」であることがわかりました。経済停滞や人口減によってイノベーションの重要性が高まるなか、再現性のある新規事業開発が求められています。

2024年1月、株式会社トライバルメディアハウスは、マーケティングに特化したオンライン無料学習プラットフォーム『MARPS(マープス)』を新規事業としてローンチしました。広告をほぼ用いず、2024年1月の正式サービス開始以降、2024年8月現在の会員数は3000名以上という順調な立ち上がりを見せています。

MARPSの開発初期から伴走支援をしたセブンデックスBCS事業部マネージャーの西野と亀井さんが登壇したイベント「BCS night」から、「新規事業立ち上げを成功に導くキーファクター」を探ります!

▼登壇者

亀井 大樹(Daiki Kamei)
株式会社トライバルメディアハウス キャリアディベロップメント事業部 部長(取材当時)

2015年に入社。ソーシャルメディアマーケティング関連サービスの営業担当を務めた後、2018年からは同社のマーケティング部門を立ち上げを担う。その後、2022年よりトライバルメディアハウスにおけるマーケティング人材のキャリアを豊かにするための新規事業として人材紹介事業ならびにマーケティング無料学習サービス『MARPS(マープス)』の事業責任者を務めている。

西野 慎一郎(Shinichiro Nishino)
株式会社セブンデックス BCS事業部 事業責任者

新卒でマイナビに入社、求人広告の企画営業に従事し、全社表彰/社長賞を獲得。セブンデックスに入社後、UXデザイナー/PMとして新規サービスの設計、ブランド戦略策定、グロース支援など幅広く担当。セールスで培ったユーザー視点を活かして、クライアントと共に事業成長を加速させることが強み。現在はマネージャーとしてプロジェクト統括に従事。

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売上観点だけではない「やりたい」の重要性

新規事業の失敗要因としてよく聞かれるのが、「なぜ、その事業がやりたいのか」という目的や意志が明確ではないことです。たとえば、売上のみを目標に開発が始まってしまう場合。「売上がつくれればなんでもいい」と考える結果、打ち手が絞れず、リソースが分散して途中で頓挫してしまうケースが見られます。

その点、MARPSの事業開発は「やりたい」ことがクリアに決まっていました。もともとソーシャルメディアを中心としたマーケティング支援事業を展開していたトライバルメディアハウスは、「大企業を中心にマーケティングコミュニケーション活動の内製化など、広告宣伝費の利用方法の見直しが進んでいる」ことを受けて、早いうちから新しい事業の柱を模索してきたのです。

2022年の年末にMARPSの構想が誕生したきっかけは、トライバルメディアハウス代表の池田紀行さんのとある気づきだったといいます。

トライバルメディアハウス・亀井さん「社長が『トライバルを卒業したマーケターが、大手企業を中心にマーケティング担当者として活躍しているのだから、このマーケター育成力やコンテンツを活かしたビジネスをはじめたい』と言いました。それで、無料の学習プラットフォームをつくり、そこで学んだマーケターの転職支援までしようというアイデアが生まれたんです。

マーケターのキャリアがどうなっているかというと、たとえばMeta広告の運用をやってきた人が人材サービスに登録すると、紹介されるのは同じくMeta広告の運用を行う求人のみだったりします。仕事の幅を広げたいとか、上流の戦略に関わりたいと思っていても、そもそもの機会がない。MARPSのような場所があれば、行動力と成長意欲が強いマーケターが幅広いマーケティングを体系的に体得して、より幸せに働ける世界をつくれると考えました」

プロジェクト開始時に、池田さん・亀井さんの両名にヒアリングを行ったセブンデックスの西野は、「最初から明確な思想を感じた」といいます。そして、それが新規事業開発の進めやすさを決めたと振り返りました。

セブンデックス・西野「MARPSは『優秀なマーケターを世の中に増やしたい』『企業もそういう人を採用できるようになってほしい』というトライバルメディアハウスの思想が明確に現れていました。印象的だったのは、初期フェーズで実施した池田さんへのエグゼクティブインタビュー。マーケターのキャリアについて話していただいた際、会議室の壁一面のホワイトボードが埋まるくらい網羅的に、成長ステップの概念図が書かれていたんです。他にも、書籍やメディアへの寄稿を通して、池田さんの思想が発信されていたのも、サービスを構想するうえで非常に参考になりました」

書籍や講演の機会を通じて考えを発信してきたトライバルメディアハウス

亀井さんいわく「ちょうど1年前にパーパスやコーポレートサイトのリニューアルをしたタイミングだったこともあり、代表が持っている思想の言語化が進んでいた」のだそう。やりたいことが明確だったから、逆に「やらないことも決まっていた」といいます。新規事業開発の目的が明確に定まり、迷ったときに立ち返るところがあったからこそ、MARPSは順調な滑り出しを実現したのです。

地道な試行錯誤で顧客の「ほしい」を見抜く

新規事業の失敗要因としてもう一つ聞かれるのは、「ローンチはできたが、顧客がいなかった」というもの。つまり、顧客の「ほしい」に応えられないことです。大小様々な事業に伴走してきた西野は、企業が陥りやすいケースについて以下のように語ります。

西野「特に、初期フェーズで自社の『やりたい』を盛り込みすぎると、事業構想が大きくなっていきます。『この人たちも喜んでくれそう』という発想でターゲットがどんどん広がり、なんでもできるプラットフォームのような構想になっていくのです。その結果、『そのサービスを選ぶ理由』が見えなくなってしまいます

実際、トライバルメディアハウスが過去に失敗した新規事業についても、その傾向があったそう。MARPSはその反省も踏まえて開発されたといいます。

亀井さん「MARPSはユーザーインタビューやペルソナ策定に時間を使いました。また、マーケターの特性や私たちが考える理想の成長ステップをセブンデックスさんにも詳しく共有した上で、ソリューションを考えていったんです」

トライバルメディアハウス キャリアディベロップメント事業部 部長 亀井さん

顧客理解の重要性はいまや誰もが知るところです。しかし、言葉でいうほど簡単ではないのも事実。なぜなら、顧客の本当の「インサイト」は「基本的には言語化できないものだから」と亀井さんは指摘します。

亀井さん「ユーザーインタビューで聞いた『顧客がほしいもの』が、本当のインサイトとは限りません。インサイトは氷山で言うところの海中にあって、基本的には言語化できない。以前、MARPSの授業に出ていただいたノバセルの田部正樹さんは『ユーザーインタビューで聞くべきことや設問づくりのコツはありますか?』という受講生からの質問に対して、『どんなケースでも使える万能な質問リストなんてものは存在しない』と答えていらっしゃいました。

結局、相手を理解しようとして話を聞くうちに、こちら側に仮説が浮かび、それをぶつけてみたときのリアクションから判断するしかないということです。マーケターには言葉の真意や反応を見抜く『感性』を磨くことが求められています」

続いて、「顧客の声をそのまま反映するのでは不十分」である事に賛同しつつ、特にBtoB事業の場合の難しさを西野が説明します。

西野「BtoB事業の場合、営業が顧客から直接要望を聞いている。しかしその要望を全部取り入れようとすると、先ほど言ったように色々なものが集約されたサービスになってしまい、うまくいかない」

このことに関して、冒頭で紹介したアビームコンサルティングのレポートで示唆深い結果が提示されています。既存顧客とよく話している事業部門と、そうではないコーポレート部門(経営企画など)のどちらが新規事業に取り組むかによって、成功確率を高める「顧客の声の取り入れ方」に違いがあったというのです。

「既存顧客向けの新規プロダクト/サービスの提供においては事業部門が担うことが成功につながっているが(中略)、新規顧客向けについては(中略)コーポレート部門が担うほうが成功確率は高くなっている。既存顧客向けには深く顧客を理解していること、新規顧客についてはバイアスなしに顧客と向き合える部門が担うことが成功の要因といえるだろう」

注目すべきは、日常から顧客の声を聞いている人には、良くも悪くもバイアスがかかっているということです。そのバイアスは既存顧客をより満足させるサービス開発には有効ですが、新規顧客向けのサービス開発にはネガティブに働く場合もあります。

自社のバイアスを意識しつつ、顧客の真意を見抜いていくための地道な仮説検証の繰り返しが、自社の「やりたい」と顧客の「ほしい」を重ねる唯一の方法だということがわかります。

「やりたい」「ほしい」「できる」の重なる新規事業を

「やりたい」「ほしい」の他に、もう一つ新規事業が成功するために必要なものを、亀井さんは「できる」だと語ります。「できる」とは、話された内容を踏まえると2つの意味があり、1つ目は「既存事業とのシナジー」もしくは「コア技術の転用」といった意味です。MARPSの開発においても、マーケティング支援事業の知見が学習コンテンツの制作に活かされています。

2つ目は「実行できる」ということ。つまり、「適切な計画を立てることができ、やり切れる」ということです。計画の重要性について、亀井さんは『起業の科学』の著者・田所雅之さんの『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』を引用して、以下のように語ります。

亀井さん「起業参謀に必要な『5つの眼』の3つ目は『魚の眼』と言われています。これはなにをどの順番で実現していけば良いかというプロジェクト全体の『流れ』を捉えたり、作ったりする力。各フェーズごとの目標を明確に立てて、進捗を見ていくことも重要な要素の一つです」

実際、MARPSの開発の流れは以下のように整理され、関わる全員が共通認識を持っていたといいます。

西野「第1フェーズがプロダクトの構想。ユーザーインタビューの内容からペルソナや『ターゲットにとっての未充足の価値』を定めて、どのようなプロダクトにするかを考えました。第2フェーズではサービスのプロトタイプをつくり、第3フェーズでは仮説検証をしながら、グロースの土台をつくりました」

セブンデックス BCS事業部 責任者 西野

また、亀井さんは、各フェーズを確実に実行していくためのポイントとして「言語化」を挙げます。

亀井さん「セブンデックスさんは、『いま自分たちがどこにいて、次になにをしようとしているか』を必ずドキュメントに残して共有してくれました。言語化できるということは、理解できているということです。おかげで迷うことなく進めました」

とはいえ、計画通りに進まないのが新規事業開発というもの。特に立ち上げ時は不確実性が高く、計画に縛られることも成功確率を下げる要因となります。それを避けるためには「組織のアジリティ(柔軟性)」が必要だと、西野はいいます。

西野「新規事業の立ち上げフェーズでは、完璧ではない状態を受け入れながら、いかに早く価値をつくり、届けるかが大事です。チームのアジリティがないと、試行錯誤を繰り返すスピード感を担保できません」

アジリティとはなにか、その要素について亀井さんは「スピード」「少人数」「会話量」の3つを掲げました。

亀井さん「この3つは密接に関わっています。少人数のほうが意思決定も早いですし、会話量も増やせて結果的にプロジェクトのスピードが加速します。今回セブンデックスさんとのやりとりでは、1日のうちに朝会と夕会を両方実施したり、物理的な距離を近づけるためにオフィスを行き来する頻度をあえて多めに設定したりするなど、会話量をかなり確保したのがよかったのだと思います」

亀井さんは「社長直下で進行を任せてもらったおかげで、意思決定が早くできたのもよかった」と付け加えました。

開発プロセスやチームビルディング、意思決定フローの設計によって「実行し切る体制」を確保したMARPS開発のプロジェクトは、「やりたい」「ほしい」「できる」の3つを揃えた結果、これまでの事業開発とは違った成果を出すことができたのです。

「必要なキーファクターの策定」が成功のキーファクター

上に書いた通り、新規事業立ち上げの成功のキーファクターは多様にあります。逆にいえば、「これさえあれば新規事業立ち上げは成功する」という特効薬はありません。そのことについて、亀井さんはイベントの終盤で「それぞれの会社の、それぞれのフェーズにおけるキーファクターを定められるかどうかが、一番のキーファクターかもしれない」と語りました。

亀井さん「あるフェーズにおいて、チームビルディングが最優先となる場合もあれば、社長と意思疎通しておくことがキーファクターの場合もある。また、技術力がある企業なら、それをどのターゲットのニーズに当てるかを考えることもキーファクターになりうる。事業を前に進めるために、今は、そして将来的には何をクリアすべきなのか。各企業ごとにその照準を定めていくことが大事だと思います」

また、西野は最後に、各フェーズでなにをすべきかを意思決定して「旗を振り続ける存在」がいることの重要性を語りました。

西野「どんなときも、『こっちにいくんだ』と方向が示され続けていることが大切です。開発初期はユーザーの存在が一つの軸になるけれど、求められるプロダクトができた次のステップは、やはり『思想』が大事になってくる。そこに、競合優位性などの観点も絡んできますが、それらを多角的に捉えながら、旗を振り続ける人が必要です。今回はそこを亀井さんが担ってくれました」

イベントを通じて、「やりたい」「ほしい」「できる」の3つが重なるような事業構想、明確な計画と開発フェーズごとのキーファクターの策定、方向を示し続ける責任者とアジリティの高い組織。構想・計画・体制の三位一体によって、新規事業立ち上げの成功確率は大きく変わるということがわかりました。

現在、新規事業を立ち上げ中の方やこれから立ち上げようとしている方は、どの要素に自社の強みがあり、どの要素が不足しているのかを意識しながらプロジェクトを推進してみてはいかがでしょうか。また、今回は「立ち上げ」に着目しましたが、今後はその後の「グロース」や「ブランディング」にまつわるティップスもお届けしていければと思います!

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美容専門学校を卒業後、美容室の広報として新卒入社。PR業務の楽しさと奥深さを学ぶ。さらにマーケティング知識を広げるため、芸能プロダクションへ転職し新規事業開発に携わる。その後、セブンデックス一人目の広報として入社し、社内・社外広報として従事。