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デザイナーは経営ビジョンの伴走者。ビジネスとクリエイティブの統合の一歩目を、マネーフォワードCDOのセルジオさんと考える

デジタル化にともない、ビジネスにおける体験デザインの重要性が高まっている現代。デザインやクリエイティブをどのようにビジネスに活かし、統合していくかについて、さまざまな議論が進んでいます。

そこで、ビジネス戦略からクリエイティブ制作まで一貫して支援するセブンデックスでは、「ビジネスとクリエイティブの統合」をテーマに新連載をスタート。ビジネスとクリエイティブの統合に先進的に取り組む企業が、両者の関係性をどう捉え、どのような実践をしているかを紐解きます。

連載3回目となる今回は、株式会社マネーフォワードの執行役員 グループCDO(Chief Design Officer)伊藤セルジオ大輔さん(以下、セルジオさん)にお話を伺いました。2018年にマネーフォワードと出会い、2020年にCDOに就任したセルジオさんは、同社のデザイン経営を推進し、デザイン組織やブランド戦略の強化に取り組んできました。

「ビジネスは分析、デザインは統合」という視点のもと、デザインが経営の中で果たす役割や、デザイナーが経営ビジョンの伴走者となるために必要な考え方、そして同社の目指す「感動レベルの顧客体験」を生み出すための挑戦について詳しくお聞きします。

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ビジネスは分析、デザインは統合。2つの密接な関係性

—まず、セルジオさんのキャリアから伺いたいと思います。マネーフォワードに入社するまでの経緯と、当時の会社の状況について教えてください。

2020年9月からマネーフォワードのCDOを務めています。それ以前は、自分でデザイン事務所を運営しており、2018年に新規事業のプロダクトのUIデザインの依頼をいただいたのが、マネーフォワードとの最初の関わりでした。

その後、社内デザインも見てほしいとご相談いただき、業務委託としてB2B部門のデザインなどを支援。その流れでCDOのオファーをいただきました。マネーフォワードのメンバーの前向きな姿勢や「社会を良くしていこう」という想いに共感し、入社に至りました。

たしか、当時のマネーフォワード、すでに20くらいのサービスを展開していたと思います。社長の辻さん(辻庸介)はデザインに理解のある方だったため、UIやブランドデザインの取り組みもある程度進んでいました。

さらなる事業の多角化を目指し、シングルブランドのマルチプロダクト展開(マスターブランド戦略)を推進し始めた変革期。難しいフェーズにおいて、デザインをどう機能させていくのか、というのが自分の挑戦でした。

—セルジオさんは以前から、ビジネスとデザインは密接につながっていると発信されています。その考えを持ったきっかけはなんだったのでしょうか?

学生時代から、より良いものづくりにはビジネス的な視点が不可欠だと感じていましたが、本格的に考え始めたのは、新卒で入社したスタートアップで社長室に配属され、経営戦略などに関わり始めてからです。

当時はiTunesやiPodが出始めた時代。「UI/UX」という言葉すら一般的ではないなか、スティーブ・ジョブスは、デザインとテクノロジーによってものすごいスピードでビジョンを実現していきました。その姿を目の当たりにして、ビジネスとデザインの関係を意識するようになったんです。

—両者の特徴や機能の違いについてはどのように考えていますか?

どちらを重視しやすいかという意味で、「ビジネスは分析で、デザインは統合」と整理しています。

ビジネスの世界では、成果や効率を重視し、物事を分解し、計測可能な状態にすることが求められます。そのため、例えばサービス開発部署とサポート部署を分け、個別最適化するという発想が生まれやすい。

しかし、お客様から見たら、サービスはひとつであり、どの部署がどうというのは関係ありません。顧客体験を統合的に考えて、全体最適でサービスをつくることが大切です。それを得意とするのが、デザインだと思います。

分析に強いビジネスと統合に強いデザインを掛け合わせ、個別最適と全体最適、会社目線と顧客目線、短期視点と中長期視点といった、相反しやすい要素を両立していくことこそ経営だと考えています。

デザイナーは経営ビジョンの伴走者

—まさに、クリエイティブとビジネスの統合という連載テーマのひとつの答えだなと思います。ここからは、マネーフォワードのCDOとしての取り組みについて聞かせてください。

マネーフォワードにおけるCDOの仕事は、「経営にデザインを取り入れる」「デザイン組織の強化」「プロダクトデザインの品質向上」「プロダクトやコーポレート全体のブランディング」の4つと定義しています。就任して最初に取り組んだのは、「3年後、この4つがどのような状態であるべきか」を示したデザイン戦略ロードマップの作成でした。

事業ロードマップの一部として、デザイン戦略を描く会社さんは多いと思います。ただ、僕のミッションは、会社のビジョンを実現するための「デザインの力の最大化」。デザインシステムの開発やデザイン組織強化なども含め、事業ロードマップだけでは抑えきれない点を補強する役割としてデザイン起点のロードマップをつくり、経営陣のコンセンサスを得ました。

—ロードマップを作成する上で意識されたことはありますか?

重要なのは、デザイン戦略と経営ビジョンをつなげることです。そこが不十分だと、経営陣と合意形成するのは難しい。理想をいえば、デザイン戦略ロードマップをつくるのではなく、デザイナーが会社全体のロードマップを描くのがベストだと考えています。経営者とともに全体のロードマップを策定し、そこからデザイン戦略に落とし込むことで、自然とデザイン施策と経営ビジョンがつながります。

最初からそこまで踏み込めていたかはわかりませんが、現在は社長の辻さんと常に会社の方針について議論し、そこからデザイン戦略をアップデートしています。「デザイナーが経営ビジョンや会社の方向性をつくりにいく」というのは意識できるといいかもしれません。

—経営者とデザイナーが、横並びになって考えるのが大切だと。

そうですね。マネーフォワードがデザイナーに求めている姿も、「経営ビジョンの伴走者」であることなんです。それは、社長とCDOだけではなく、事業部部長とその事業のデザイン責任者も同じ。

デザイナーが経営や事業に関与するのは難しいと感じるかもしれませんが、自身の経験をもとにいえば、対話の機会が少ないだけだと思います。僕自身も、社長室で働く経験を通して、社長の考えを理解することができた。特別な手段ではなく、対話を重ねてきた結果です。

まずは会社や事業の発信するメッセージを一緒につくったり、資料作成をデザインの観点でサポートしたりする。そこで経営者との対話の機会を増やしていくのが、デザイナーが伴走者になるための近道だと思います。

感動レベルを目指して。デザイナーが顧客体験の基準を引き上げる

—セルジオさんがCDOになってから、マネーフォワードのデザイン経営はより推進した印象があります。理想とする状態はどの程度実現していると考えていますか?

僕らの理想は「感動レベル」のサービスをつくることですが、現状ではまだまだ遠いなという印象を持っています。例えば、Appleの製品は箱を開ける瞬間すら感動する。Genius Barのようなサポート体験も含め、すべてのタッチポイントでユーザーの心が動く瞬間が設計されています。

自分たちのプロダクトは、まだそのレベルには達していないというのが正直なところ。デジタルプロダクトとしての「使いやすさ」「わかりやすさ」といった“当たり前品質”を確実に実現した上で、ユーザーの期待を超えるような体験を届けるための工夫を積み重ねていきたいと思っています。

—そのために取り組んでいることはありますか?

よく「うちのプロダクトにおける“感動レベル” とは何か?」について議論しています。この対話自体に意味があると考えていて、シンプルにいえば、メンバーの目線を上げ、基準を引き上げることが大切だと思っています。

また、「感動レベル」はデザイナーだけで実現できるものではありません。プロダクトマネージャーやエンジニアを含む、サービスに関わるすべてのメンバーが「これを目指そう」と共通認識を持つことが必要です。どうすれば、目の前のプロダクト課題に向き合いながら目線を上げ続けられるのか、日々試行錯誤しています。

その中で、デザイナーの役割は重要だと思っているんです。デザイナーは、ユーザーの心の動きや感情に向き合うことを得意としている。その強みや経験を活かし、全社の顧客体験への感度や基準を高める役割を担えるのではないでしょうか。

説明よりも「体感」を。デザインと経営をつなぐヒント

—デザイナーは、企業においてさらに重要な役割をになっていきそうですね。そうした考え方やデザインを取り込んだ経営を、特に大手企業が導入していくためには、何が必要だと思いますか?

マネーフォワードも結構大きな組織になってきました。その観点からいえるのは、組織が大きくなると承認者が増え、さきほどの「分析」の世界が強くなりがちになるということです。

承認プロセスが多重化し、数値でしか判断しづらくなる。定性的な判断が求められるデザインやクリエイティブの提案は通りづらくなる傾向があります。

それを突破するひとつの方針としては、経営層や部長といった最終意思決定者に近いポジションの方に、デザインの価値を理解してもらえる機会をつくること。経営ビジョンの伴走者って、ある意味そういう役割でもあります。

—マネーフォワードの場合、社内の​​理念とカルチャーづくりに伴走したことをきっかけに、辻さんがデザインの価値を確信されたんですよね?

そうです。現在VP of Cultureの金井さんが、当時はデザイナーとして理念とカルチャーの策定に伴走しました。当初の想像を超えて、会社のDNAとなるような強度の高いものができたことで、辻さんはデザインの価値を深く理解したと聞いています。

経営陣と共創して何かをつくる機会はなかなかないですが、例えば、僕がマネーフォワードで担当している経営合宿の企画なんかはライトに取り組みやすいかもしれません。経営陣が集まる会で話すトピックを決めたり、グループワークを企画したりしています。

経営メンバーといっても、グループ会社まで含めるとかなりの人数になるので、「さあ話してください」と言われても、なかなか議論が深まらない。そこで、デザイナーの俯瞰的な視点から場の議論が深まるようにコーディネートする。

さらに、話した内容をグラフィックレコードなどで図式化したりもする。そうすることで、「デザイナーが同席したほうが、経営合宿でより良いディスカッションができる」といった認識を広げることができます。

—経営陣に対してデザインの存在感を表せる機会ですね。しかも、その後のデザイン施策などの取り組みにもつながりそう。

おっしゃる通りです。実は、その会をきっかけに「デザイン思考のワークをやりませんか?」と提案して、経営メンバー全員でサービス設計をするワークショップも後日開催しました。

自社のアプリを使っている社員にユーザー役をやってもらって、経営メンバーがユーザーインタビューなどを体験。それにより、デザイン思考を導入したときの投資対効果をイメージしてもらうことができました。

デザインやクリエイティブの価値を、すべて定量的に説明するのは難しい。だとしたら、デザインした場自体を体感してもらうほうが、最初のきっかけとしてはやりやすいのではないかと思います。

—定量化しきれないものは、体感してもらおうと。

企業の規模にかかわらず、デザインやクリエイティブの導入が進まないのは、ビジネス側がそれらの価値を知らないだけのケースが多いと思います。逆にいえば、デザイナーも経営について知らないだけ。お互いに温かい視点を持ちつつ、小さな取り組みを大切にしながら、時間をかけて共に学び合う姿勢が重要だと思います。

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