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生成AI時代にクライアントワークはどう変わる?「受託制作」を超えた支援のあり方と、その実現に向けた組織変革に迫る

クライアントワーク業界は、低予算化やインハウス化、さらには生成AIの進化によって大きな変革の時を迎えています。時代の変化を捉え、どのような支援の在り方が求められているのでしょうか——。

セブンデックス主催のイベント『クライアントワーク3.0〜時代に求められる支援パートナーのあり方』では、クライアントワークを行う企業の経営者を迎え、どのように業界の変化を捉え、未来を描いているのかが語られました。

登壇したのは、株式会社ベイジ代表取締役の枌谷力さん、株式会社ルート代表取締役の西村和則さん、株式会社セブンデックス代表取締役の中村伸啓の3名。モデレーターは、株式会社gaz代表取締役CEOの吉岡泰之さんが務めました。

イベントでは、クライアントワークの環境変化や生成AIの影響について、また、そこから考えられる組織や人に求められる進化について議論されました。本記事では、イベントの内容を整理し、クライアントワークの未来を考える上で重要なポイントをお届けします。

◼️登壇者

株式会社ベイジ 代表取締役 枌谷力さん
2010年、株式会社ベイジ設立。採用、BtoB、業務システムのUIなど主にウェブ制作を手がけ、現在は「脱ウェブ制作」を掲げ、組織変革に取り組む。2021年には、技術コンサルティングや開発、運用を行うクラスメソッド株式会社のCDO(Chief Design Officer)にも就任。

株式会社ルート 代表取締役 西村和則さん
2012年、サービス開発に特化したデザインコンサルティングファームとして株式会社ルートを創業。 数多くのスタートアップ立ち上げ、新規事業の成長支援をデザイナーとして支援。現在、Design Doing for Moreをビジョンに、組織単位でのデザイン理解の底上げと成果の最大化を実現し、事業の成長と発展に貢献することを目指している。

株式会社gaz 代表取締役CEO 吉岡泰之さん(モデレーター)
2017年に福岡のスタートアップ、Pear inc.にCDOとしてジョイン。SaaSのデザイン、動画クリエイション、各種DTP、コーポレートブランディング等を手がけ、デザイン業務と並行して、採用チームの立ち上げ、組織マネジメント業務を経験。その後、株式会社gazを設立。ノーコードツールStudioでのサイト制作やUIUXデザインの支援を行う。

株式会社セブンデックス 代表取締役 中村伸啓
2018年に株式会社セブンデックスを共同創業し、代表取締役に就任。「時代を席巻する会社」をビジョンに、ビジネス戦略からマーケティング、クリエイティブ制作まで一貫して支援する「ビジネス・クリエイティブ・スタジオ」事業等を展開。日本のビジネスシーンのアップデートに取り組む。

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ビジネスインパクトに向き合う伴走型支援が求められている

吉岡さん:
まず、クライアントワークを取り巻く現代の環境について、皆さんの考えを聞かせてください。

枌谷さん:
ベイジを創業した15年前と比べると、明らかに低価格化が進んでいますよね。価格を維持するためには、単なる受託制作ではなく、数字や売上に向き合いながら「ビジネスのパートナー」として伴走することが求められるようになっています。

株式会社ベイジ代表 代表取締役 枌谷力さん

西村さん:
お客様のニーズは、ものをつくることから、その上流にあるビジネス要件をつくることへと移り変わってきていると思います。そのため、以前はデザインの納品を主軸に支援していたルートも、この数年はクライアントの内部に入り込む「伴走型の支援スタイル」へと移行してきました。

また、この5年ほどで各社のデザインのインハウス化も進みました。特に生成AIの普及により、クリエイティブを内製できる企業が増えたことが、低予算化につながっていると思います。

中村:
セブンデックスでも、創業当初はUIデザインの相談が主流でしたが、その比率が減少しています。ただ、自社で内製できる企業が、より高いクオリティを求めて発注する流れもあります。専門性の高い第三者を入れることで、差別化を図り、競争力のある高品質なクリエイティブを生み出そうとする動きも、同時に強まっていると感じます。

さらに、社員の意識統一や会社の存在意義・ビジョン策定といった、ビジネスインパクトが大きく抽象度の高い依頼が増えているのも特徴だと思います。

個々のメンバーに求められる「ビジネス能力」はどのレベル?

吉岡さん:
ビジネスインパクトを生み出す伴走型の支援が求められる中で、どのように自社の強みや特徴を捉えていますか?

西村さん:
ルートの特徴は、新規事業やスタートアップのデザイン支援です。10〜20名規模のクライアントに入り込み、平均3年ほど伴走しながら、事業フェーズや組織の成長に応じた柔軟な支援体制を築いています。事業がスケールする過程で生じる課題には一定の再現性があるため、そこで得たノウハウを蓄積し、価値提供につなげているんです。

また、デザイナーのビジネスケーパビリティの向上にも力を入れています。依頼されたものをつくるだけでなく、プロジェクトのマイルストーンを自ら立て、オーナーシップを持って人を巻き込む力を養うということです。市場の構造上、デザイナーはこうした経験を積むのが難しいため、当社のデザイナーを自社の組織づくりのプロジェクト(サービスディベロプメントプロジェクトと位置付けています)にもアサインしています。そこで、組織づくり=サービスづくりをリードするプロジェクトの、プロジェクトオーナーとして経験を積むことができるようにしています。

株式会社ルート 代表取締役 西村和則さん

中村:
セブンデックスの強みの一つは、意思決定リスクを肩代わりすることです。顧客の要望をただ聞くのではなく、僕らなりの最善を考え、提案し、意思決定のコストを減らしていく。今は手法やノウハウが溢れている時代だからこそ、「これが最善だ」と言い切ることに価値を感じてくれるお客様も多くいます。

もう一つの強みは、クライアントの組織の推進力を高めることです。例えば、組織内の力学的な問題でプロジェクトの進行が遅れている場合、その領域にも踏み込み、解決に向けて動きます。こうした“野武士的な”スタイルを貫くには信頼関係が不可欠なので、クライアントとの初期接点の段階からアカウンタビリティを高め、クレジットを積み上げることを大切にしています。

枌谷さん:
前提として、大切なのは、現在の強みを維持することではなく、マーケットから求められるものを強みにしていく姿勢だと思っています。そういう意味で、これから強みにしていこうと考えているのは、先ほど話したようなビジネス課題を解決する力です。

社内のデザイナーやライターに対しても、ビジネスパーソンとしての力を身につけてもらえるように日々接しています。

また、組織構成としてもコンサルタントの比率を高めようとしています。例えば、デザイナーがコンサルタントやクリエイティブディレクターといった職能にキャリアチェンジできる機会をつくる。メンバーのキャリアとも真剣に向き合いながら、未来志向で事業や組織をつくっています。

吉岡さん:
メンバーのビジネスケーパビリティの重要性については、3社とも同じ認識ですね。どの程度のレベルを求めていますか?

枌谷さん:
コンサルタントやディレクターには、高いレベルのビジネス理解が求められると思います。デザイナーやライターは、経営層やCMOの話を正しく理解して議論ができるレベルでしょうか。アウトプットの提案時にビジネス課題から落とし込んでロジカルに説明できることが大切だと思います。

中村:
ビジネス理解については、上を考えればきりはないですが、例えばデザイナーなら、最低でもマーケティングについては理解できることが必要だと思います。つまり、「そのデザインで誰とどのような関係を築きたいのか」「そのためにどんな表現が最適か」まで考えられるということです。

それと、基本的なスキルとして「説明責任を果たす」「納期を守る」など、一般のビジネスパーソンにとっての当たり前は、同じレベルでできないと厳しいかなと思います。

株式会社セブンデックス 代表取締役 中村伸啓

西村さん:
経営者と対峙してデザインの計画やロードマップを策定するとしたら、「そもそも事業がどのようにつくられているか」「つくっている人たちが何を考えているのか」を知る必要がある。クライアントを支援するなかで、そうした知見やノウハウを吸収していくのが大切だと思います。

クライアントに合わせたピラミッド型組織のほうが合理的

吉岡さん:
組織づくりについてもう少し深掘りしていきたいと思います。まず、将来的にはどのくらいの組織規模を目指しているか教えてくれますか?

枌谷さん:
現在50名ほどですが、100名規模までは視野に入れています。ただ、採用基準を下げたり、無理に案件を増やしたりしてまで拡大するつもりはありません。

西村さん:
同じく100名規模を見据えていますが、規模の拡大自体が目的ではなく、クライアントのフェーズに応じた最適な支援体制を整えるための成長を考えています。

中村:
明確な人数目標はありませんが、ひとつの基準として、「マーケットに新しい選択肢をつくる」ための規模は必要だろうと考えています。僕らと近しい領域には、コンサルティング企業、広告代理店、制作プロダクションがありますが、そのどれでもない選択肢をつくるなら、ある程度の規模が必要だと思っています。

吉岡さん:
3社とも組織の拡大は視野に入れていると。そのためには、構造設計とミドルマネジメントの育成・採用が欠かせませんが、それぞれどのように取り組んでいますか?

株式会社gaz 代表取締役CEO 吉岡泰之さん(モデレーター)

枌谷さん:
以前はフラットな組織に魅力を感じていましたが、現在はピラミッド型にしています。支援先の多くがピラミッド型なので、同じ構造のほうがクライアントの社内事情を想像しやすくなる、というのも理由の一つです。

また、ミドルマネジメントはどちらかというと育成に注力しています。以前はチーム編成を職能別で分けていて、「デザインチームのマネジメントはデザイナーに」と考えていました。ただ、今年からプロジェクトごとにチームを編成し直し、マネージャーには、マネジメントのケーパビリティがある人、挑戦したいと思っている人についてもらうようにしています。

西村さん:
ルートもピラミッド型組織です。そのほうが、クライアントの誰がどのような責任と権限を持っているかなどがイメージしやすく、コミュニケーションが円滑になるからです。

ミドルマネジメントに関しては、2種類に分けて育成しています。デザインの品質、クライアントとの成果目標の責任をもつ「デザインプログラムマネージャー」と、売上やデザイン深耕に責任を持つ「マネージャー」です。後者は、ビジネス数値を見る素質がある人を引き上げ、育成していく方針にしています。

中村:
セブンデックスは最初からピラミッド型を採用しています。また、ミドルマネジメントは採用できるなら理想ですが、求める人材は市場に少ないため、どちらかといえば社内での育成を重視しています。

マネジメントに必要なのは知識やスキルだけでなく、リーダーシップと人間力です。会社ごとに求められるリーダー像が異なるため、外部採用よりも、カルチャーや思想を共有している社内の人材を育成するほうが確立が高いのかなと思います。

生成AI時代も変わらないクライアントワークの本質的な価値

吉岡さん:
イベントも終盤です。クライアントワーク業界全体の今後について話していきたいと思います。ここまであまり触れてきませんでしたが、生成AIの影響についてはどう感じていますか?

枌谷さん:
今のところ、納品レベルのデザインをAIで生成するのは難しいですが、制作プロセスの叩き台としては十分活用できると思います。また、フォーマットが決まったインタビュー記事などは、生成AIで大幅に時短しています。最近は僕が執筆した過去記事をもとにプロンプト等をまとめた「枌谷AI」をエンジニアが開発していたりと、生成AIを使おうという動きは社内で活発ですね。

西村さん:
ルートでも、リーンキャンバスの作成や中間制作物にAIを導入しています。海外ではノーコード開発も進んでおり、デザイナー自身がコードベースのプロトタイプまでつくるのも、当たり前になるかもしれませんね。

中村:
そうなるとワークフローも変わりますよね。例えば、これまでサイトのワイヤーフレームの提案ではビジュアルを省略していました。論点を増やさないためです。でも、AIで即座に制作・修正できるなら、最初からビジュアルを入れて提案するほうが、出戻りが少なくなるかもしれません。

枌谷さん:
それに関していえば、ベイジでは、小〜中規模のサイト制作においてワイヤーフレームの提案自体を省くようになりました。生成AIをうまく活用して、ワークフローの生産性を高める動きは、これからも加速していくだろうと思います。

吉岡さん:
プロセス自体が変化していくということですね。では、それも踏まえて、今後のクライアントワーク業界がどう変化していくのか、その中で企業としては何を意識していけばいいのか、コメントをお願いします。

枌谷さん:
「顧客の要望の一歩先をリードする」という本質的なクライアントワークの価値は変わらないと思います。スキルとしては、AIなど新しく学ぶべきものは出てきますが、根幹にある仮説思考やロジカルシンキングの重要性も変わりません。

なので、どれだけ市場が変化しても、「自分ならやれる」と自信を持って言える土台を築くことが大切。そのためには、ビジネスケーパビリティやクライアントとの関係構築の力を引き続き高めていく必要があると思います。

西村さん:
AIの進化は、クライアントワーク業界にとってむしろチャンスだと考えています。SaaS企業などテクノロジー中心の企業は、技術の急速な進化についていくのに必死ですし、その技術すらもすぐにコモディティ化していく。

一方、クライアントワークは人が根幹にあるビジネスです。人が何を考え、どう合意形成をして、どう行動するかがビジネスの差別化要因であることは間違いないので、そこまで働きかけられるクライアントワークならば、価値は高まっていくと思います。

中村:
僕も、クライアントワーク自体は必要とされ続けると思います。ただ、業界全体の企業数は減り、「クライアントワークの会社」として名が上がる企業の顔ぶれは変わるかもしれませんね。AIの強みを取り入れつつ、クライアントと伴走しながら抽象度の高い課題を解き、ビジネスインパクトを生みだしていける企業は、今後も活躍し続けると思います。

会社紹介資料

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美容専門学校を卒業後、美容室の広報として新卒入社。マーケティング知識を広げるため、芸能プロダクションへ転職し新規事業開発に携わる。その後、セブンデックス一人目の広報として入社し、社内・社外広報として従事。