目次
1. デザインを“共につくる”ということ
セブンデックスに入社して3年目。これまでいくつかのプロジェクトを経験してきた中で、東邦ガスさんとの仕事は、自分にとって少し特別な意味を持ちました。
というのも、今回のプロジェクトではシニアデザイナー(アートディレクター)と“ペア”で取り組むという、社内でもややめずらしい体制で進行したからです。
セブンデックスでは、プロジェクトごとにディレクターとデザイナーがペアを組んで進めていくスタイルが多く、同じ職能であるデザイナー同士がアサインされることは少ないため、互いの視点をぶつけ合いながら進めていく体制は新たな気づきも多くありました。
そんな体験を通して感じたことや、学びとして残ったことを、自分なりの言葉で綴ってみたいと思います。
2. プロジェクトの背景とクリエイティブコンセプト
東邦ガスさんは、東海エリアを中心に暮らしや産業を支えるインフラとして長い歴史を持つ企業です。 そんな企業が「未来に向けて、ブランドのあり方を見直したい」と考えたタイミングで、セブンデックスにお声がけをいただきました。
社会にどういう価値を届けたいのか。その姿を、誰にどう伝えていくのか。言語化と表現の両輪で、丁寧に整えていくことが求められました。
そんな中、クリエイティブの軸として掲げられたのが「シーンをつくる。“ショット”ではなく“シーン”を。そして“シークエンス”へ」というコンセプト。

このコンセプトは、すべてのクリエイティブの“軸”として機能していき、私が担当したポスターもその例外ではありませんでした。
3. 自分の役割と“ポスター”という挑戦
今回のプロジェクトで私がメインで担当したのは、ブランドポスターの制作です。
ポスターという媒体は、一見シンプルに見えます。 サイズも決まっていて、情報量も限られる。だからこそ“表現の純度”が問われる。どんなビジュアルを据えるのか、どこに目を引かせるのか。言葉とビジュアルのバランス、視線の誘導。些細な違いが、印象を大きく変えます。
そのうえで今回のポスターにはクリエイティブコンセプトを体現する役割として、見る人の中に何かが芽生え、それが次の行動や意識につながっていくような仕掛けを持たせたいと考えました。
そうした構想を進める中で、シニアデザイナーとそれぞれの解釈を照らし合わせながら、一歩ずつ形にしていきました。
4. 街へ出て、自分の感覚を探しにいく
アイデア出しに入る前、シニアデザイナーからひとつ“お題”をもらいました。
「外を見てきて。テーマは何でもいいから、自分が“いい”と思ったポスターを集めて、考察してみてほしい」
私は実際に街へ出て、ポスターや広告物を写真に収めたり、冊子を集めたり、本屋でデザインの参考になりそうな資料を探しました。そうして集めたクリエイティブを1つずつ、担当したデザイナーがどのような意図で、どういう表現を用いてデザインしたのか考察していきました。そうして「良さ」を言語化できたとき、初めて、自分なりの軸が立ったように思います。
そんな、小さな手応えを覚えた瞬間でした。


5. ボツの山から見えた“核心”
リサーチで得たインプットをもとに、アウトプットとして生み出したポスター案は構成違い・トーンや構図のバリエーション、イラストのスタイル違いも含めて膨大な数となりました。

最初期に出した案のひとつに、“明るい未来”をストレートに描いたビジュアルがあり、自分としては素直で力強い提案だと思っていたけれど、シニアデザイナーからは「これは“シーン”を生んでいるだろうか?」という言葉が返ってきました。
今回のポスターの役割は“伝える”だけではなく、“シーンを生み出す”もの。見る人の中で何かが始まる余白や、想像の余地があるかどうか。そこまで含めてデザインすべきだと改めて気づかされました。
そして、最終的にたどり着いたのが「未来の、まんなかへ」というタグラインを、自分たちの“手”で形づくるという構図です。その手の中に、くらし・地域・産業の未来をイラストで描き込み、見る人が自然とその世界に入り創造性が掻き立てられるような設計を目指しました。
このアイデアはポスターだけにとどまらず、後にサイトやムービー、ブランドブックなど、他のクリエイティブにも展開されていきました。プロジェクト全体を通して、“自分たちの手で未来をつくる”というモチーフが共通言語のようになっていきました。
デザイン提案の場では、クライアントの皆さんが実際に手で丸をつくって盛り上がる場面もあり、その様子を見て「このアイデアはちゃんと届いてる」と実感しました。
6. “共につくる”から得た視点と感覚
ポスターの制作を通じて、シニアデザイナーとの“共創”は、自分に足りないものに気づくきっかけとなりました。
特に、情報整理の解像度の高さの違いがありました。構図やトーンだけでなく「そもそも何を伝えたいのか」「そのためにどこを削ぎ、どこを残すのか」といった思考の基礎力が圧倒的に高く、表現の背景にある設計がすごくクリアでした。
「いいポスターは、伝えたいことが明瞭である」
ひとりで制作に潜っていると、基本的なことも見失ってしまうことがあります。そんな時でも視点の違いがあるからこそ、それを持ち寄って議論しながら進めることができたのはとても大きかったです。
7.“ペア体制”という選択の価値
デザイナー同士が並走することで、互いの判断や思考が見える。育成の観点だけでなく、アウトプットの精度を高める意味でも、こうした体制が広がると良いと思います。
今回のプロジェクトを通じて感じたのは、誰かと共につくることでしか見えない景色があるということ。思考の順番、視点の角度、問いの立て方。自分ひとりでは辿り着けなかった答えも、プロジェクトメンバーの存在があることで、少しずつ見えてくる。
共につくることの豊かさを、自分の中にちゃんと残しておきたい。 そして、それを自分も少しずつ次へ手渡していけたらと思います。