なぜ企業理念の浸透? 基本概念の解説
インナーブランディングとは、文字通りインナー(内部)に対するブランディング活動のことを指し、自社の理念やブランド価値を社員に伝え、浸透させる活動のことを言います。
自社が掲げるビジョン・ミッションを実現するためには、社員一人一人が自社のビジョン・ミッションや大切にする価値観を理解し、会社と同じ方向を向いて能動的に活動していくことが求められます。
企業を内側から変革していくことで企業価値を向上させ、企業としての成長を実現していくための手段として、近年インナーブランディングの重要性が注目されています。
企業理念のフレーム
企業理念とは、企業の思想や価値観、あるべき姿や達成したい使命など、企業の根本の考え方・あり方の特徴を言語化したものです。
インナーブランディングを推進していくためには、社員が同じ方向を向いて行動している状態を作る必要がありますが、そのためには会社として「ここを目指していくよ」という共通の指針を掲げる必要があり、その役割として企業理念が存在しています。
企業理念には、ビジョン・ミッション・バリュー・パーパス・経営理念・創業理念など様々な理念体系がありますが、これらは全て企業理念を体系的に表すためのフレームであり、各社で自社の特徴を最も表現しやすい形で理念を体系的に表現しています。
一般的に多くの企業が活用している「MVV(またはVMV)」というフレームでは、下記のように、自社の特徴を体系化して整理しています。
・ビジョン:企業として実現したい姿・なりたい姿
・ミッション:社会に対して果たしたい使命・実現したいこと
・バリュー:ビジョン・ミッションを実現する上で組織として持つべき価値観・体現するべき行動
(バリュー=行動指針となる場合も多くあります)
インナーブランディングを推進していくということは、この企業理念に社員が共感し、理念に沿った行動を起こしている状態を作るということです。
理念浸透のプロセスの全体像
社員が企業の目指す姿に共感し、それを実現するための行動指針に沿った行動を体現している状態を実現するためには、下記のような5つのステップがあると言われています。
- 認知:自社がどんな企業理念を掲げているか認知している状態
- 理解:自社が掲げている企業理念に込められた意味や背景を理解している状態
- 共感:自社が掲げている企業理念に対して、社員自身が共感している状態
- 行動:自社の企業理念を実現するための行動を意識的に体現している状態
- 習慣化:自社の企業理念を実現するための行動が習慣化し、無意識に体現できている状態
まずは自社の企業理念を認知する事から始まり、理解・共感する事で、理念を実現するための行動(=行動指針になることが多い)を起こすようになり、最終的にはその行動が習慣化していることをゴールとしています。
企業理念の浸透を推進していく際は、自社が今どのフェーズにいて、次にどのフェーズに進めていかなければならないのかを理解する必要があります。
その上で、「認知させるための施策」「理解させるための施策」「行動させるための施策」といった形で、次のステップに進めることゴールとした施策の設計を行いましょう。
よくあるケースとして、「とりあえず社内報!」「とりあえず飲み会を増やそう!」といった形で目的を持たず場当たり的に施策展開をしてしまうケースがありますので、ちゃんと施策が機能するものになっているかどうか精査する視点が必要です。
理念の浸透を阻む5つの壁と、それぞれのフェーズで有効な施策
上記のステップを進めていく施策を検討する上で、もう一つ知っておくべきことがあります。それは、理念の浸透ステップで発生する「5つの壁」についてです。
未認知→認知状態、認知→理解状態と浸透ステップを進めていくにあたって、実際の推進プロジェクトでは下記のような5つの壁が発生します。
上記の構造を理解した上で、各壁を突破するために有効な施策も合わせてご紹介します。
接触頻度の壁
未認知→認知のフェーズでは、そもそも認知してほしい対象と社員との接触頻度が少ないと、一度覚えても忘れてしまいます。より高頻度で目や耳に触れることで自然と記憶に定着してくるため、はじめのうちは必要以上の接触頻度を設けることが重要となります。
このフェーズでは、発表イベントのような単発で目に触れる施策だけでなく、ポスターやサイネージなど、企業理念が社員の目に触れる機会を増やす施策が有効です。
論理の壁
認知→理解のフェーズでは、「知っている」から「理解している」という状態へシフトする必要がありますが、そこでは企業理念に込められた意味や背景、理念体系について、論理的に且つ分かりやすく伝えることが重要です。
社員数が多い企業では、一人一人に対して口頭で伝えていくことのハードルも高いため、カルチャーブックのようなブランド理解のための制作物を活用する施策が有効でしょう。
感情の壁
理解→共感のフェーズでは、社員が心から「達成したい」と思えるような、情緒的なアプローチが必要になります。この後の「行動」フェーズに繋げていくためにも、社員が自社の企業理念を自分ごと化した考えている状態を作る必要があり、そのためには社員一人一人が自社の理念を実現したいと思っている必要があります。
「共感」は「理解」の流れで形成しやすいため、上記の「認知→理解のフェーズ」で活用したカルチャーブックも有効ですし、より情緒に訴えていく施策として、ブランドムービーを活用する企業も増えてきています。
具体化の壁
共感→行動のフェーズでは、「理念を実現するための、具体的な行動」をイメージできるかが重要になります。
推進する側としては、「自分の仕事をどのように頑張れば会社の成長に繋がり、結果として企業理念の実現に繋がるのか」を考える機会を提供する必要があり、
「行動指針を体現した行動について考える社内ワークショップなどが有効な施策になるでしょう。
継続の壁
最後に、理念を体現するための行動を日々継続していくための施策を検討していきます。
「理念を実現したい」という共感の意識だけで、行動を習慣化させることは非常に難易度が高いため、定期的な1on1や評価制度、表彰制度などを活用し、中長期的に行動し続けるための仕組みの検討が必要になります。