人は何かモノ(製品やサービス)を選ぶとき、何を基準に選ぶのでしょうか?機能性、安全性、デザイン性…。様々な要素で構成されていますが、モノは元来「使われる」ためにあるものです。そのため「ユーザビリティ(使いやすさ)」はモノの大切な特性なのです。
今回は、モノづくりにおいて非常に重要なユーザビリティについて、UXデザインの観点を踏まえながらご紹介いたします。UXデザインについては、以下の記事で詳しく取り扱っていますので、ぜひ合わせてお読みください。
目次
ユーザビリティの定義とは
まずはユーザビリティの語源から考えましょう。ユーザビリティは英語で”Usability“と書き、”Use (使う)“と”Ability (能力)“の2つの単語から成る言葉です。日本語では「使いやすさ」という意味で用いられます。それでは、「使いやすさ」の定義とは何でしょうか。
人やモノによって「使いやすさ」の意味は違ってきますから、ユーザビリティという言葉は世界中で様々な意味で使われます。そこで、1998年にISO(国際標準化機構)がユーザビリティという言葉を世界共通で以下のように定義しました。
「特定の目的を達成するために、特定の利用者が、特定の利用状況で、有効性、効率性、そしてユーザの満足度の度合い」
以上の文中で用いられている用語は以下のように定義されています。以降は、以下の言葉はそれぞれの定義を示すものとして話を進めていきます。
有効さ:利用者が、指定された目標を達成する上での正確さ及び完全さ。
(JIS Z 8521:1999より)
効率:利用者が、目標を達成する際に正確さと完全さに関連して費やした資源
満足度:不快さのないこと、及び製品使用に対しての肯定的な態度
UXとユーザビリティ
定義中の、「利用状況」とは、ユーザ、仕事、装置(ハードウェア、ソフトウェア及び資材)、並びに製品が使用される物理的及び社会的環境を指しています。
これは「UX(ユーザーエクスペリエンス)」、つまり「ユーザー体験」という概念と非常に似ている考え方です。なぜなら「UX」は「ユーザビリティ」では表現できないことを伝えることを目的として作られた言葉だからです。より良いものづくりのためには、ユーザビリティに加えて、ユーザーの感情も含めて設計する必要があると考えられ、UXという概念が生まれたのです。
ユーザビリティを示す5つの指標
ISOによる定義は本質的ですが、抽象的なものです。そこで、ユーザビリティについてもう少し具体的に考察したものを紹介します。それは、1994年にユーザビリティの権威であるヤコブ・ニールセン博士が発表したものです。ニールセン博士はここで、ユーザビリティを決定づける5つの要素を挙げています。
学習しやすさ:システムは、ユーザーがそれを使って作業をすぐ始められるよう、簡単に学習できるようにしなければならない。
効率性:システムは、一度ユーザーがそれについて学習すれば、後は高い生産性を上げられるよう、効率的な使用を可能にすべきである。
記憶しやすさ:ユーザーがしばらくつかわなくても、また使うときにすぐ使えるよう覚えやすくしなければならない。
エラー発生率:システムはエラー発生率を低くし、ユーザーがシステム試用中にエラーを起こしにくく、もしエラーが発生しても簡単に回復できるようにしなければならない。また、致命的なエラーが起こってはいけない。
主観的満足度:システムは、ユーザーが個人的に満足できるよう、また好きになるよう、楽しくできるようにしなければならない
『ユーザビリティエンジニアリング原論』(邦訳は1999年、原著は1994年)
「何度でも」「簡単に」「ストレスなく」使うことができる、ということに重点を置いた指標です。大抵のモノは「何度も」繰り返し使われ、だからこそ、「簡単に」「ストレスなく」使用できるモノは、ユーザーの高い満足を長期的に得られます。ユーザビリティがモノの価値の根底を支えているのです。
UX、UI、ユーザビリティの関係性
先ほど、UXとユーザビリティの関係についてご紹介しました。ここではそれに加えて、UX・UI (ユーザーインターフェイス)・ユーザビリティの3つの関係を見ていきたいと思います。
まず、ユーザビリティでは表現できないユーザーの感情も含めた考え方がUXですので、ユーザビリティはUXの中に含まれます。また、UIはWebサイトや商品そのものなど、ユーザーと製品やサービスの接点を意味しています。接点ということは全体のユーザー体験の一部分ですので、UIもUXの中に含まれます。
では、UIとユーザビリティの関係はどうでしょうか。使いやすさというのは、これまでの定義や指標から考えられる通り、客観的に測ることができる要素です。そして、ユーザビリティはあくまでUIがユーザーにとって使いやすいかどうかを示すものなので、ユーザビリティはUIに含まれるものなのです。
良いユーザビリティが良いUIにつながり、良いUIは良いUXへとつながります。ユーザビリティという基盤を考えることで、優れたUX/UIを生み出すことができるのです。
なぜユーザビリティが重要なのか
ISO(国際標準化機構)の定義から考察する重要性
ユーザビリティとUX、そしてUIとの関係について紹介してきましたが、ここでは改めて、ISOの定義を見ていきたいと思います。
特定の目的を達成するために、特定の利用者が、特定の利用状況で
まずこの部分ですが、「特定の」とあります。優れたユーザビリティを実現するためには、制作物が「どんな目的を持ったユーザーに、どのような状況で」作用するかを正確に想定することが求められているのです。次に、「有効さ」の定義を見てみましょう。
有効さ : 利用者が、指定された目標を達成する上での正確さ及び完全さ。
ここで言及されている「正確さ及び完全さ」とは、利用者の目標と、それを阻む問題を正確に理解する必要があることを意味しています。利用者は、自分の目標と、製品やサービスが提供する解決策の間に少しでも違和感があれば、使い勝手が悪いという評価を下すでしょう。加えて、「効率」を考慮することも重要です。利用者の目標を、解決への道のりが効率的でなければ、利用者のストレスになります。このような状況を避け、より良いユーザビリティを生み出すためには利用者の目標と提供できる効率的な解決策を密接に繋げて考える必要があるのです。
利用者に寄り添い、問題と解決策を正しく理解し、無駄なく、満足度を考慮しつつ、解決する。ISOの定義するユーザビリティとは、まさに設計という意味でのデザインの基盤となり得るのです。
ユーザーの満足感から見る重要性
ここでは、ユーザビリティが利用者の満足感にどのように作用するかを解説します。ユーザビリティの研究者である黒須正明氏の図を見ながら考えましょう。
この図は、「UXの目的は利用者の満足である」という前提のもと、UXにおいて満足感を構成する要素を構造化したものです。先のISOによる定義では、満足度を有効さと効率と並列に扱っていましたが、黒須博士は有効さや効率性が満足感につながるとして、満足感を上位に位置付けています。
図では、まず客観的品質特性と主観的品質特性の2つで大きく分かれています。人の感性によるものは右側の主観的品質特性にあり、ユーザビリティは左側の客観的品質特性の中に位置付けられています。
利用者が満足感を得られる要素は多くあり、どの要素を重視するかは個人差がありますが、この図はユーザビリティが満足感に与える影響の大きさを客観的に示しています。ユーザビリティを含めた客観的品質特性、つまり土台が整っていることが前提となり、その上で、利用者の好みや感性で製品やサービスといったモノが選別されるのです。UX・UI・ユーザビリティの関係をお伝えしましたが、土台となるユーザビリティについて今一度考えてみてはいかがでしょうか。
まとめ
ユーザビリティの奥深さは伝わったでしょうか?単に「使いやすい」だけでなく、利用者に徹底的に寄り添い、目的に対して問題解決する姿勢はUXの設計そのものです。また、利用者の好みかどうかが問われてくるのは、使いやすいという前提があってこそです。日常であまり気にかけない「ユーザビリティ」に私たちの生活は支えられているのです。
より良いUX/UIを実現するためのユーザビリティについて、この記事から何かヒントが得られれば幸いです。当社ではこういった考えに基づいて、ベストなUX/UIデザインへのサポートを提供しています。興味がある方はぜひお問い合わせください!