目次
はじめに
セブンデックス代表の中村です。
当社では3月末に企業理念をリニューアルしました。内容としては以下の通り。
- 理念体系(構造)の変更 (Purpose,Vision,Mission,Valueへ)
- 行動指針の削除/バリューの追加
- How to say(言い回し)の更新
……といっても、セブンデックスは5期目の会社で、企業理念を策定したのは実は1年半前。行動指針に至っては1年前。そう、企業の根本となる哲学をわずか1年弱で刷新してしまったのです。
弊社自身、クライアント企業の理念体系を策定したり、リニューアルしたりする立場だからこそ言えますが、一般的に“理念”はそう変えるものではありません。企業として大きな変化を迎える場合などに、満を持して行うものでしょう。この考えは今も変わりありません。にも関わらず、なぜ私たちは1年半ほどで変更したのか?
その背景・プロセス経緯と共に、企業理念との向き合い方として「短期間で変えること」について話をします。
理念浸透のROIが“企業理念”というツールに左右される
まずは、理念をリニューアルした背景から。
その理由はズバリ「浸透しなかったから」——正確に言えば、「浸透自体は進んでいたのですが、浸透の障害となるものが(理念自体に)多く見つかったから」です。
この1年半の間、浸透施策は実行し続けて来ました。その甲斐もあって、行動指針を含む企業理念が緩やかながらも定着を見せていました。しかし、施策を実行する過程の中である疑問がわいてきました。それが「かかる工数の割には、浸透へのROIがあまりにも悪くない?」というものです。
とはいえ当初は「組織に理念を浸透させるにはそれだけ労力を要するんだ!人に新しい価値観を植え付けるとはそれほど難しいこと!やりきることが一番大事!」と、気合と根性で継続していました。
気合と根性のゲームは得意なので、気持ちを切らさず続けていたのですが、続ければ続けるほど「ROI悪くない?」の気持ちは募るばかり。その気持ちが一定値に達したとき、「これって企業理念という“ツール”自体がROIを悪くしている要因なんじゃないか?」という仮説が立っていました。
確かに、企業の思想・理念は不変で永続的なものです。ただ、それを目に見えるカタチにした“企業理念”は、あくまでツール。そこに課題がある可能性があっても、果たして変えないべきか?と考えたのです。
特に、我々のような影響範囲が比較的に狭く、機動力を活かせる小さな組織(現在30名)であればなおさら。そこで、「(ツールとしての)企業理念を更新するアプローチ」の仮説検証をしてみることにしました。
(なお、この結果としては、「必ずしも変えないもの、変わらないものではない」という結論に至っています)
最初の企業理念策定
まずは全体の流れから。
2023年4月現在、弊社は5期目。「組織づくり」に着手し始めたのはおおよそ2年前からです。それまでは、創業メンバーと初期メンバーのコミットメントとアジリティを武器に目下のPLを伸ばすことに全リソースを割いていました。
ですが、当然ながら採用を進めていくと組織内の個人のコミットメントとアジリティには差分が生じます。差分が生まれるにつれて、「エラーの解消をする時間が増える」「コミットメント、アジリティの高い側がカバーをする」といった比率が増え、ダウンサイドリスクにリソースが集中していました。
当然ですがアップサイドリスクを取れていないので企業の成長は鈍化します。
超短期での資本合理性はそのままPLコミットですが、以降の採用計画を想像すると成長曲線は鈍化していく。中長期で見ると、その鈍化を取り戻すには時間がかかると判断し、一時的にPL上減退してでも組織づくりに着手すると決めました。(当時の従業員数は14名)
そこから半年かけて企業理念を策定し、2021年10月にリリース。その3ヶ月後の2022年の1月には行動指針もリリースし、最初の理念体系が完了しました。
もちろん、当時の企業理念は、妥協することなく100%考えて策定したものです。自分たちの思考をちゃんと頭の外に出すために、外部パートナーの方にも入っていただき、当時頭の中にあったエッセンスを余すことなく言葉にしました。
その一方で。企業としてはじめて策定した理念が自社の従業員とどこまで共有できるものなのか、その強度はいかなるものか…。そんな漠然とした不安は、100を超える言葉を作りながら策定する中でも消えることはありませんでした。こうした不安は少なからず経営者の中にはあるものだと思います。
後出しのようになってしまいますが、実はこの最終決定の際に共同代表の堀田とはある取り決めをしていました。それは、「完成度として100%のつもりだが、1年後に変更する可能性があるものと考えよう」というもの。はじめての企業理念策定だからこそ、必ず落とし穴があるとリスク想定すべき。特に急拡大を志向するセブンデックスの場合、少し先ならまだしも、その先はわからないと思ったからです。
策定時にこの話をしていたからこそ、変更の判断にはほとんど時間を要しませんでした。これを決めていなければ、「せっかく策定し、工数をかけたものをやり直すのはもったいない」「理念浸透は時間がかかるから、これぐらいでは結果が出ない。根気よく続けるべき」といった感情のもと継続し続けたかもしれません。
企業理念浸透奮闘記
それ以降、2021年10月から2023年の3月までの18ヶ月間は浸透施策を講じていきます。
企業理念の浸透をミッションとしたチームも組成し、いくつもの施策を実行してきました。具体の施策は以下の通り。
- 企業理念の浸透を通し企業文化作りをミッションとしたチームの発足
- 毎週の朝会でライトニングトークとして発信(LTといいつつ10minぐらい)
- 月末の全社会議での発信(毎回50ページ近いスライドで、1時間ぐらい喋りました)
- 企業理念の理解に対する社内アンケートを定期実施
- 企業理念にまつわる社内コンテンツの制作と発信
- 行動指針を体現したケースを共有・フィードバック
行動指針の浸透に関しては、過去にメンバーも記事にまとめてくれています。
僕が熱中しすぎて情報量詰めすぎの資料を作った工数はさておき、そのほかの施策も実行するには相応のコストがかかりました。ただ、前述の通り工数に対して浸透の成果は驚くほど微々たるもの。
時間がかかること自体は想定していたのですが「このぐらいの工数(コスト)をかけているのであれば、これぐらいの浸透(リターン)はしてもいいはず」という期待値からは大きく外れていました。
“ツール”としての企業理念の課題感
そこで、相場はわからないながらも、この「ROI悪くない?」という違和感をもとに、なぜROIが悪いのかを検証することにしました。その中で、企業理念というツール自体の課題を解くのが一番早いという結論に至ったのです。
特に聞かれたのは、「覚えづらい」「誤解釈を防ぐ設計になっておらず、誤解釈を誘発する」ということ。どちらも理念浸透の初期フェーズの認知、理解のプロセスを妨げる要素です。
例えば、誤解釈を引き起こす要因の一つには、事業がありました。
手掛ける事業がインテリジェンスのある印象を与えるため、企業のアイデンティティにもインテリジェンスのある印象を持ちがち。その結果、理念で語られている内容もがインテリジェンスのフィルターを通して受け取り、本来の内容と異なる解釈が走っていた——という状態でした。
理念策定で漠然として抱えていた不安は、自分が想定できていなかった角度から攻めてきたのです。
他にも、障害となっていた要因一つ一つ整理していったのですが、それを眺めた結論は「現状の企業理念を浸透させその都度発生したリスクを紐解くより、(振り出しに戻っても)そもそもの理念自体をブラッシュアップした方が浸透率が向上する」というもの。
重い車を引っ張るより、速い車に乗り換えた方が到達が速いというイメージです。
ただしこの18ヶ月間は、浸透の進捗自体は重かったものの、無意味な期間ではなかったと処理しています。完成度100%のつもりで理念策定をし、時間をかけて施策を実施してきたからこそ、わかることがある。然るべきプロセスだったと思っています。
How to sayにフォーカスした、“2回目”の企業理念策定
意思決定をしてからは、すぐにリニューアルへ着手をしました。
前回の企業理念浸透実行による検証結果から、「メッセージングの内容自体に課題があるわけではない」の結論が出ていたためHow to sayの変更、つまり表現の変更に焦点をあてて考えることに。
語る内容を一切変えず、アングルと語り方を変えて表現のみを変更する方針で進めていきました。
原液の再抽出は必要なかったため、チームは社内のみで組成し僕を含む4名を中心にアイデンティティの抽出、再度の言葉選びを行いました。その期間、およそ1ヶ月半。チーム内ではその間、幾度もの対話と議論を重ねました。
そうして新しい企業理念が完成。すでにコーレポートサイト内には反映されていますが、次の通りです。
策定後の進捗
3月31日の全社への周知後、2週間が経過しました。
この間、以下のような浸透施策を実行しています。
- 朝会でライトニングトークとして発信
- 全社員でワークショップの実施
- ワークショップ終了後、理解度に対するアンケートの実施
- 日報にてバリューについての記載箇所を追加
- アンケート結果から、未理解者・未共感者の質問会実施
- 未理解者との1on1実施
- 企業理念についての社内ラジオを実施
結果、定量的な成果としてはパーパス、ビジョン、ミッション、バリューいずれの共感も88%まで進捗しました。
また、定性的な成果としても以下のようなものが見えてきています。
- 以前と比べて会話の中でバリューが使われることが格段に増えた
- 業務水準の正誤判断基準としてバリューが使われるようになった
- 価値創出をするときにバリューをベースとして考えられるようになった
- 採用面接において担当するメンバーの目線がよりクリアになった
- 採用面接において候補者の方から組織文化について具体的な質問が増えた
当初違和感を感じた要因となったROIに関しても、格段に向上し、浸透のスピード感が出たと感じています。
この結果には、大きく2つの要因があったと感じています。
1つ目は、今回「言いたいことは変えず、言い方は変えた」“ファインチューニング”であったこと。言いたいこと(=原液)自体を変更した場合は、概念や方向性などそもそもからインストールし直す必要があるため、初速には時間がかかったと思います。一方、ファインチューニングの場合、土台となる理解はあったうえで、別の切り口からインストールすることで、より立体的に理解できるという作用が出たと感じています。
2つ目は、原液の精度が高かったこと。つまり当初の理念策定を徹底的に考えておけたことです。1年半前にやりきっておけたからこそ、原液を見直すほどの変更ではなく、ファインチューニングで問題なかったとも言えます。
終わりに
企業理念は、非常に重要なものです。そして、重要だからこそ、変えづらく、形骸化もしやすい。理念が行き渡り、良い文化が根付いた強い組織をつくるためにはどうすべきか?の問いに立ち返りながら、その時々で最善だと考える策を講じ続けなければいけません。弊社の場合、今回その策が「ファインチューニング」でした。
この経験を経て「企業理念は変えてはいけないものか?」という問いに答えるとしたら以下のようになりました。
「変わらない、もしくは変える必要がないのであればそれが最も望ましい。しかし、必ずしも変えてはいけないものではない。組織に文化を根付かせるという目的達成のために変えた方が達成しやすいのであれば、変えることも考えていい」
もちろん、これは弊社のように理念策定・浸透をサービスとして提供している企業だからこそ自分たち自身でチューニングできた側面もあります。また先述の通り、土台となる理念を突き詰めていなければこの策は打たなかったかも知れません。
どの企業においても「都度チューニングすべき」とは言いませんし、その前提で理念を作るべきでもありません。ただ、あくまで理念浸透・企業文化醸成から逆算したときに、ツールとしての“企業理念”は変わる可能性も選択肢にはいると考えています。
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