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事業の模倣可能性が高い現代において、「組織力」が大きな差別化要因となる。セブンデックス西野に聞く、事業支援における“越境”の価値

パーソル総合研究所が公表した「企業の新規事業開発における組織・人材要因に関する調査」によると、従業員規模300名以上の企業において新規事業が「成功している」割合は30.6%。*

この調査のユニークなところは、成功要因の要素として、ビジネスモデルの優位性などのビジネスマネジメント領域ではなく、人材や組織などのピープルマネジメントに着目している点です。特に課題として挙げられたのは「人材確保」「知識・ノウハウ不足」「意思決定フローや評価制度」など、総合的な組織力についてでした。

一方、セブンデックスのビジネス・クリエイティブ・スタジオ(BCS)事業の責任者として、日々クライアント課題に向き合う西野慎一朗も、「組織力が事業の大きな差別化要因になってきている」と語ります。なぜ、事業開発・事業成長において「組織力」が注目されているのか。クライアント支援の現場で直面する課題や、解決のためにBCS事業が注力していることを教えていただきました。

* レポートを確認した限り、「成功」の定義は回答者の主観による

コトを進めるためには、人と組織に向き合う必要がある

ーまず、BCS事業について伺いたいと思います。様々な事業開発支援サービスがあるなかで、特徴を一つあげるとしたらなんでしょうか?

「人と組織に向き合いつつ、コトを進める」点だと思います。事業開発や成長を支援するうえで、ケーパビリティやナレッジも武器になりますが、結局もっとも大事なのは人と組織を動かせるかどうかです。そのためBCSは、事業開発に必要な多種多様なケーパビリティを持つメンバーが、それに加えてリーダーシップやアカウンタビリティを持って、クライアントのカルチャーや組織特性、プロジェクトメンバーの性格などに向き合いながら伴走しています。

たとえば、大企業で新規事業のような新しい取り組みを進めようとすると、別の部署からの反発が起きる場合がありますよね。その対処をクライアントに任せきりにするのではなく、反発している人たちとも敵対せずにうまく協力できるように働きかける。クライアントとワンチームになって、人や組織と向き合いながらコトを進めていくのがBCSの強みであり、評価いただいている点です。

ー特に支援によるインパクトが大きい事例を教えてください。

株式会社トライバルメディアハウスの新規事業であるマーケティング学習プラットフォーム「MARPS(マープス)」の立ち上げは、大きなインパクトが出せた事例でした。3ヶ月でユーザーヒアリングから事業コンセプトを策定、その後3ヶ月でUIUXの実装、さらに3ヶ月で改善も実施したのですが、広告費をかけずにローンチから半年で登録者3000名を超えました。迅速に立ち上げられ、かつ成果を出せた要因は、同社の事業責任者が私たちのアプローチに同意してくださり、同じ目線で取り組めたからです。

他には、創業84年を迎える水道管・ガス管メーカー日本鋳鉄管株式会社のブランドリニューアルのプロジェクトがあります。ブランドの方向性の策定から、ブランドのビジョン・ミッションの定義、インナーブランディングなど、上流から組織浸透まで一貫してお任せいただきました。これも、同社の代表と直接コミュニケーションをとりながら進めたプロジェクトです。

ブランディングの成果としては、テレビに取り上げられたりなど数千万〜1億円規模の広告換算価値が生まれました。また、インナーブランディングにおいても、企業理念の浸透度の向上などの定量的な成果がみられました。

ーインパクトが生み出しやすいプロジェクトに共通点はありますか?

うまくいくプロジェクトに共通するのは、課題解決のために、戦略、クリエイティブ、組織開発といった多面的な支援をお任せいただいている点です。BCSはクリエイティブ制作やサイト制作など、単体のプロジェクトも得意ですが、明確な事業インパクトまでつなげるとなると難しさもある。やはり、中長期的な目線を持って、人や組織のところまで関わらせてもらえると、強みが活かしやすいですね。

事業の差別化要因は、つまるところ「組織力」

ーパーソル総合研究所が従業員規模300名以上の企業を対象にした調査によると、新規事業の成功確率は約30%でした。クライアントと向き合ってきた西野さんは、新規事業が失敗してしまう大きな要因はなんだと思いますか?

まず、「強度の高い戦略」が不足している点が挙げられます。自社の本当の強みを生かし、市場に求められ、かつ独自の価値を提供できるものでなければ、事業は成長しづらい。しかし、実際には、思いつきベースで新規事業をつくろうとしているケースも多々あります。

また、戦略が不足しているということは、適切なところに適切なリソースを配分できていないということです。「あれもこれもやろう」としてプロダクトの機能が膨れ上がってしまったり、プロジェクトが肥大化してしまったりする。マネジメントコストが膨れ上がった結果、計画が実行し切れずに途中で頓挫してしまうケースは多いと思います。

ー先の調査からも、事業の成功要因は実行を支える「組織力」ということが読み取れます。同じような課題認識を西野さんも持たれているのですね。

そうですね。事業を成功させるためには差別化が重要ですが、事業の模倣可能性が高い現代においては、「組織力」が大きな差別化要因になる、というのが私の見解です。テクノロジーの進化によって、事業の参入障壁が下がり続けているなかで、違いを生むのは実行をするための組織の部分。

適切な組織オペレーションと役割分担を設計し、「今なにをすべきか、誰がどの役割を担うべきか」を明確にし続けられるかどうか。その土台となる組織のケーパビリティを充足させたり、企業文化・風土を変革させたりできるかどうか。そうした総合的な組織力が必要になります。事業会社における組織開発や人事領域への投資が加速しているのも、そのためだと思います。

ただ、企業文化・風土の変革を自社だけで推進するのは容易ではありません。特に歴史ある大企業では、これまでの成長を支えてきた既存の文化や力学、縦割りの組織構造などが変革の足を引っ張ってしまうことはよくある。だからこそ、組織開発の観点も持ち合わせた第三者が、事業開発の支援を行うことには意義があると思うんです。

分断された役割や部署を“越境”する、新しい支援形態への期待

ー「組織力」の重要性が増す時代、事業開発の支援側に求められるものはどう変わっていくと思いますか?

「分断された支援形態」を変える必要があると思います。戦略なら戦略、デザインならデザインといった役割分担を明確にした支援では、解決できないものが明らかに増えている。ミッションを解決するために、クライアントとワンチームになり、プロジェクトの形を柔軟に変えながら進めることが大切です。

そのためには、「越境」が一つの大きなテーマになります。たとえクライアントの企業内に分断があったとしても、必要であれば支援側の働きかけによってそれを超えていく。サービスサイトをご依頼いただいた場合でも、サービス成長の本質的課題が組織開発にあるならそこまで含めた提案をしていく。依頼サイドと支援サイドをわけない意識が必要だと思います。

ーBCS事業も「越境」を意識されていると。

おっしゃる通りです。先ほど紹介した日本鋳鉄管のケースも、ご依頼時の与件はコーポレートサイトのリニューアルという限定的なものでした。しかし、お話を伺うなかで、同社代表が持つ「会社として変わっていきたい」という本来のニーズに答えるためには、一歩踏み込んで、コーポレートブランディングのリニューアルが必要だと思い提案しました。

越境した支援を行うためには、いくつかポイントがあると思います。一つは、ビジネス戦略、UIUXデザイン、プロジェクトマネジメント、グロース、組織開発など、多様なケーパビリティを持つ人をプロジェクトにアサインすること。関わるメンバーが事業全体の要素を把握したうえで、バランスをとりながら動けることが大切です。

もう一つは、本質的な課題の認識や、事業開発における「思想」、進め方を丁寧にすり合わせてからプロジェクトに取り組むことです。目指す事業規模が10億円なのか、1000億円なのか、スピード感を持って新規市場を開拓していくのか、既存市場の面取り合戦をしていくのかなど、事業の方向性によってとるべきプロセスは変わります。

ここをきちんと合意して進めたほうが、結果的にスピードは上がる。そのために、プロジェクトのキックオフは半日から1日かけて、徹底的に行うこともあります。

ビジネス×クリエイティブの統合的支援を“組織”で実行する

ー差別化要因となる「組織力」の課題にアプローチするため、分断を越境しながら統合的支援をしていくBCS事業。今後の展望を教えてください。

まずは引き続き、BCS事業の提供価値を磨いていきたいと考えています。セブンデックスの支援の根本にあるのは「クライアントの事業成長に資する」という想い。プロダクト開発にせよ、ブランディングにせよ、それがどの事業KPIに影響を与え、企業価値向上につながっているかという視点はさらに強めたいと思います。

「ビジネス×クリエイティブの統合的支援によって事業成長を実現する」というコンセプトは、業界に広く知られるようになりました。しかし、それを完全に実装できているのは、佐藤可士和さんなど一部のプロフェッショナルに限られてくると思います。セブンデックスはこれを「組織」として、属人的にならない形で提供していきたい。

BCSという新たな支援形態でクライアントから選ばれるようになり、そうした価値を提供したい人たちが集まってくる会社になる。企業母体が大きくなっていくことで、より多くの企業・事業を支援し、そこから生まれる社会的なインパクトを最大化していきたいです。


▼プロフィール 西野 慎一朗

新卒入社でマイナビに入社し、企画営業としてマイナビ転職や、求人広告販売を担当。全社表彰/社長賞獲得。CX(Candidate Experience)を通して広義のデザインに可能性を感じ、また自分の仕事の領域を広げたいと思い、セブンデックスに入社。現在はPM/UXデザイナーとして様々な案件に携わりつつ、採用人事など幅広く担当している。

美容専門学校を卒業後、美容室の広報として新卒入社。PR業務の楽しさと奥深さを学ぶ。さらにマーケティング知識を広げるため、芸能プロダクションへ転職し新規事業開発に携わる。その後、セブンデックス一人目の広報として入社し、社内・社外広報として従事。