2025年3月27日、約1年半かけて取り組んできた東邦ガスグループのコーポレートリブランディングプロジェクトがついに公開されました。
リブランディングは、単にロゴを変えたり、見た目を整えたりすることではありません。
この記事では、プロジェクトを振り返りながら、コーポレートリブランディングとは何か、どのようなことをする良いのか、約一年半ご支援してきた中で見えてきたことを皆様にお伝えできればと思います。
プロジェクトの詳細は、下記実績ページにまとまっていますので、ぜひご覧ください。
目次 [開く]
1.なぜ東邦ガスグループはリブランディングに踏み切ったのか
まず東邦ガスグループは、愛知・岐阜・三重の東海3県を中心に都市ガスを供給する、業界第3位のエネルギー企業です。
創業から100年以上、地域インフラを支え続けてきた歴史と信頼を持ちながら、現在はカーボンニュートラルや事業多角化にも積極的に取り組んでいます。
2020年に発表されたカーボンニュートラルの推進により市場環境が大きく変化する中、時代の流れに適応するため、2022年に「東邦ガスグループビジョン」を公表しました。
このグループビジョンの達成に向けて、企業として目指すべき方向性を明確にし、社内外を含む企業イメージの刷新・向上をしていくため、今回セブンデックスにお声がけをいただきご支援していくことになりました。
2.ブランドとは「意味の差分」であるということ
プロジェクト初期に、経営陣向けに実施したブランディング勉強会の中で、強く印象に残っている言葉があります。
「ブランドとは、“意味の差分”である。」
機能や価格といった実質的な価値に加えて、その企業ならではの姿勢や思想があることで、はじめて他社と異なる認識が生まれる。これがブランドの本質だとする考え方です。
リブランディングとは、「意味の差分を言葉にし、可視化し、実践可能な状態に落とし込む」こと。
同時にそれは、「その企業の“らしさ”を丁寧に見いだし、そこに基づいて、今の時代に響く魅力的な差分を築くこと」でもあります。
何か新しい価値を付け加えるというよりも、元々企業の中にあった本質を掘り起こし、再編集していくような営みでした。
この“再編集”の精度が、その後の体現や浸透の質を左右すると感じています。
3.プロジェクトで特に意識したこと
プロジェクトを始めるにあたって最初に取り組んだのは、経営陣との共通認識の形成でした。
「ブランディングとは何か」
「なぜ今それが必要なのか」
「それによって何が変わるのか」
といった話を、社外の講師も交えながら丁寧に共有する時間を持ちました。最初に「意味」や「必要性」を腑に落としてもらうことで、その後の推進力が大きく変わると感じています。
ブランドアイデンティティの定義においては、社内合意形成のプロセスにも時間をかけました。若手・中堅の社員の声をもとにしたワークショップを行い、数百案に及ぶコピーやステートメントのたたき台を制作。そこから徐々に絞り込み、半年をかけて合意を形成しました。
効率的とは言えないかもしれませんが、「納得されていない旗」は掲げられても根づかない。そう考えて、プロセスを丁寧に設計しました。
4. 社内機運情勢のためにやったこと
ブランドは「定義して終わり」ではありません。その先に、浸透と体現という、より長いプロセスがあります。
今回のプロジェクトでは、「会社が本気で変わろうとしている」ことを新ブランド展開前から社内の皆さんに感じてもらうために、いくつかの象徴的な施策を行いました。
たとえば、経営陣の思いを一冊にまとめたインタビュー冊子。
全社員が参加する「ビジョンツリー」。変革を宣言する場としての「変革宣言会」。
どれも、伝える内容だけでなく、「どう伝えるか」「どの順番で伝えるか」に注意を払いました。




5. 結果と変化の兆し
企業変革やブランドの浸透は、すぐに成果として数字に現れるものではありません。
けれど、今回の取り組みの中で、組織の空気にわずかながらも確かな変化が芽吹き始めていることを実感しています。
社内向けに実施したアンケートでは、
「会社を変えていこうとする姿勢が伝わってきた」
「自分たちにも何かできる気がした」
といった声が多く寄せられました。
特に印象的だったのは、「変わること」に対する期待や納得が、現場の温度として表れていた点です。
変化へのリアクションがポジティブに立ち上がってくることで、「これは自分たちの話だ」という当事者意識が少しずつ広がっている。 その空気の芽が、今後の実践フェーズにおける原動力になるのではないかと感じています。
今後は、新ブランドの定着度を測る定点調査を継続的に行いながら、必要に応じて更新・補強を重ねていくことが必要であります。
企業ブランディングとは、
他とは異なる魅力的な差分を持つ企業=ユニーク(その企業ならではの姿勢や思想がある)な企業を目指し、維持し、 さらに磨き上げることを継続する行為。
リブランディングは“完成”ではなく、“続けていく”もの。小さな変化の兆しを見逃さず、ブランドが育っていく環境を整えていけたらと思います。
6.リブランディングを通して自分が学んだこと
リブランディングという仕事は、「意味を定義する仕事」であると同時に、「共感を設計する仕事」だと感じました。
意味のない言葉は届かず、共感のない言葉は動かない。
言葉にすること、合意を得ること、行動に移すこと。そのすべてが、人と組織と文化に根ざしていて、まっすぐ進まないことも多かったです。
特に、ブランドの中核をなすパーパスやタグラインの合意形成は簡単なプロセスではありませんでした。
現場の社員の声を集め、たたき台をいくつも用意し、経営陣とも何度も議論を重ねながら、少しずつ形にしていった。その分だけ、定義された言葉には組織全体の「納得感」が宿っていると感じます。
ブランドの言葉は、“つくったもの”であると同時に、“積み上げたもの”でもある。
その過程に多くの人が関わり、意見を出し合い、最終的に「これは自分たちのものだ」と感じられる状態にまで持っていくことができたのは、このプロジェクトにおいて最も価値のあることのひとつだったと思います。
まだブランド発表直後で定着しているわけではありませんが、だからこそ、これから先、あの言葉が社内のあちこちで自然と使われるようになっていったら──そのとき、本当に意味を持ちはじめるのだと思います。
7.おわりに
「未来の、まんなかへ」
これは、今回定義された東邦ガスグループの新しいコミュニケーションフレーズです。
地域と、社会と、そして社員の皆さんとともに、未来の真ん中に向かって進んでいこうとする意思を表した言葉です。
リブランディングは、過去を否定するものではありません。
むしろ、これまで大切にされてきた価値や姿勢を丁寧に見つめ直し、それらを次のフェーズへとつなげていく「見い出す」プロセスであり、「未来への拡張」です。
言葉やロゴができたこと自体がゴールではなく、それらが組織の中で少しずつ意味を持ち、使われていく未来こそが、真の成果だと思います。
このプロジェクトは、その未来への一歩をつくる仕事でした。
これから先、東邦ガスグループが地域にとっても働く社員にとっても、ますます魅力的で必要とされる存在へと進化していくことを、強く願っています。