製品やサービスの差別化が難しくなった今、企業が選ばれる理由は「何を売るか」よりも「なぜそれを売るのか」に移りつつあります。
そうした背景の中で注目されているのが「ストーリーブランディング」です。ブランドの背景や価値観を物語として伝えることで、顧客との強固な関係を築くアプローチとして、多くの企業が導入を始めています。
本記事では、ストーリーブランディングの基本から活用ステップ、実践のポイントまでを分かりやすく解説します。
目次
ストーリーブランディングとは?
ストーリーブランディングとは、消費者に企業理念や商品開発の背景を「物語=ストーリー」として伝える手法です。ストーリーにすることで消費者の情緒に訴えかけ、より企業や商品のことを理解し、購買につなげてもらおうとする活動です。
現在、どの市場でも製品やサービスの差別化が年々難しくなってきています。機能的な優位性だけで選ばれる時代は終わりつつあり、「そのブランドを選ぶ理由」がより感情や共感に委ねられるようになりました。
こうした中で、ストーリーブランディングは、単なる商品説明ではなく、「なぜそれが生まれたのか」「誰のどんな想いが込められているのか」といった文脈を通じてブランドを伝えることができるのです。これは、消費者との“感情的な接点”をつくる強力な手段となります。
そもそもブランディングとは
ブランディングとは「企業や製品のアイデンティティを定義し、そのイメージを構築・管理するプロセス」です。どのようなイメージを持ってもらいたいか戦略を立てるところから始まり、そこからロゴや広告、アプリ、パッケージなど、さまざまな接点に戦略を落とし込んで行きます。「その企業のらしさ」をイメージできるようになることで、ブランドは戦略通りの確固たるブランド像を獲得することができます。
ブランディングについての話をするとき、しばしばクリエイティブのかっこよさや、「らしさ」「ブランド力」といったふわふわとした認識だけで語られます。しかし、本当の意味でのブランディングは企業の環境や市場の状況、自分たちが目指したい方向性など、膨大な情報の整理と多角的な分析から始まるものなのです。
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ストーリーブランディングの注目度が上がっている理由
市場における製品の飽和
企業が多様なニーズに応えて製品開発を重ねた結果、市場には類似商品があふれ、消費者は欲しいものを簡単に手に入れられる一方で、必要性の低い商品も増えています。そのため、本当に選ばれる製品になるには、機能やスペックだけでは差別化が難しくなっています。
さらに、ブランドへの忠誠心も薄れ、新商品への乗り換えには慎重な姿勢が見られるようになりました。こうした状況では、機能を超えた付加価値――ブランドの想いや背景に共感を呼ぶ“ストーリー”の発信が、選ばれるための重要な要素となっています。
購入経路の多様化
インターネットの普及により、消費者は店頭だけでなく、ECサイトやアプリ、SNS経由など多様なチャネルで商品を購入できるようになりました。クリックひとつで翌日には届くという利便性が一般化し、「どこで買うか」自体の価値は薄れつつあります。
この状況下では、「なぜこの店で買うのか」「なぜこのブランドを選ぶのか」といった動機がこれまで以上に重要視されるようになっています。機能や価格だけでは選ばれにくい時代においては、情緒的な共感やブランド体験といった“機能を超えた価値”が、差別化の鍵を握ります。
消費者との関係性そのものを価値とするブランディングが、今後の競争優位を築くポイントとなるでしょう。
SNSの普及
SNSの浸透により、企業と消費者の関係性は大きく変化しました。かつては企業から一方的に情報を発信していた時代から、いまやインフルエンサーや一般ユーザーによる投稿が、購買行動に大きな影響を与えるようになっています。
企業も公式アカウントやコンテンツを通じて、リアルタイムに情報発信できるようになり、SNSはブランド戦略上、不可欠なチャネルとなりました。中でも注目すべきは、消費者の自発的な発信です。レビューや体験談は広告以上の説得力を持ち、購買の意思決定に影響を及ぼします。
さらにSNSは、コメントやリアクションを通じてユーザーの反応を即座に把握できる双方向性の高いメディアです。こうした特徴から、ブランドの想いや背景を物語として伝えるストーリーブランディングとの相性も非常に高く、共感と拡散を生む強力な土台となっています。
技術進歩による機能差の減少
急速な技術革新により、各メーカーが一定以上の品質を担保できる時代になりました。かつては差別化要因だった高性能・高精度といった機能も、今やほとんどの製品にとって“当たり前”のものとなっています。
その結果、純粋な機能や技術だけでは、消費者に選ばれる決め手になりにくくなりました。かつて技術力で選ばれていたブランドも、優位性を失えば一気に関心が離れてしまうリスクを抱えています。
こうした背景から、いま注目されているのがストーリーブランディングです。ブランドの理念や開発に込めた想いといった“機能を超えた価値”を伝えることで、共感を軸にした新たな選択理由をつくることが求められています。
デジタルマーケティングの市場拡大
IT技術の進化により、デジタルマーケティング市場は大きく拡大しました。SNSやWeb広告の普及を背景に、これまでマーケティング部門を持たなかった企業でも、施策に本格的に取り組むケースが増えています。
一方で、手法が一般化し、どの企業も似たような施策を打てるようになったことで、従来型のマーケティングだけでは差別化が難しくなってきました。
こうした流れの中で、ブランドの背景や想いを伝える「ストーリーブランディング」が、他社と一線を画す手段として注目されています。
ブランディングの4側面
機能的価値
どれほど華やかな広告を打ち出していても、その商品が「期待通りに機能しない」のであれば、信頼されるブランドにはなり得ません。
機能的価値とは、「それがちゃんと目的を果たしてくれるか」「便利か」「品質は安定しているか」といった、理性に基づく価値、商品そのものの価値です。
たとえばスマートフォンなら「バッテリーが長持ちする」「動作がスムーズ」といった点が該当します。多くの人がまず最初にチェックするのはこの領域であり、ブランドの土台となる基本性能とも言えます。
情緒的価値
一方で、人は機械のように合理的な選択だけをするわけではありません。
「使っていて気持ちいい」「なぜか手に取りたくなる」「それを見ると安心する」――そんな、言葉にはしづらい“好き”の感情も、ブランドを支える大きな力になります。
これが、情緒的価値です。
たとえば、お気に入りのノートや万年筆、パッケージが可愛い化粧品などは、機能以上に“気分”を高めてくれる存在かもしれません。
この価値は、顧客ロイヤルティを高め、繰り返し選ばれる理由になっていきます。
自己表現的価値
ブランドは、単なるモノではなく、“自分がどうありたいか”を映し出す鏡にもなります。
たとえば「このブランドを使っている私は、センスがいい」「環境に配慮したライフスタイルを選んでいる」――そんな風に、ブランドを通じて自分自身のアイデンティティを表現することができます。
これが、自己表現的価値です。
高級ブランドのファッションや、サステナブルなプロダクトを選ぶ行為には、単なる好みや機能を超えた自己投影の意味合いが込められています。
社会的価値
そして、現代において見逃せないのが社会的価値です。
SNSの普及により、「そのブランドを使っている人たちのつながり」や、「共通の価値観を持つコミュニティ」といった文脈が、ブランドの重要な要素になっています。
たとえば、「同じ趣味の人が使っているから」「そのブランドを持っていることで会話が生まれる」といったように、社会的なつながりや共感を生み出すブランドには、独自の魅力があります。
これは、単なる商品では生まれない、人と人とをつなぐ役割を果たす価値でもあるのです。
ストーリーブランディングの事例
東邦ガス
東邦ガスも効果的にストーリーブランディングを行い、成功した企業です。
エネルギー領域のみならず、幅広い産業への進出・拡大を可能にするためにストーリーブランディングを行いました。東邦ガスは長年、多くの地域企業や人々との接点を持ち、確固たる信頼を築いてきた強みをより活かしていくためにブランドアイデンティティである「地域をより豊かにしていく」という思いと「未来の、まんなかへ」というコミュニケーションフレーズを策定した背景をストーリーとしました。
それをブランドムービーに落とし込み、実際に過去から未来へと続くストーリーを動画として表現したことで多大な効果を得ました。(詳しい全容はこちらから)
積水ハウス
積水ハウスは消費者の情緒面やストーリー性を持たせたブランディングに成功した企業です。
コーポレートサイトリニューアル目的のひとつに「クリエイティブガイドラインに準拠したデザインにすることで、積水ハウスブランドへの共感を醸成すること」があり、消費者が実際に住宅展示場を訪れて積水ハウスの世界観を体感、解釈したかのようなデザインを行いました。
ストーリー性を持たしながらも顧客体験のイメージをつけやすくするためにサイト内の情報量にも気を遣い、読んでいて消費者が心地の良いサイトを制作したことで結果としてブランド認知が高まりました。
(詳しくはこちらから)

ストーリーブランディングのメリット
顧客からの共感を得やすい
ストーリーブランディングは、ブランドの背景や想いを物語として伝えることで、消費者との感情的なつながりを生み出します。単なる機能や価格では得られない「共感」を育むことで、ブランドへの愛着や信頼が深まっていきます。
もちろん、キャンペーンやイベントを通じても一時的な共感を得ることは可能です。しかし、それらは短期的な反応にとどまりやすく、継続的な関係性の構築にはつながりにくい側面があります。
その点、ストーリーブランディングは共感を継続的に育て、消費者を“ファン”へと変えていく力があります。ブランドの価値観に共鳴したファンは、商品を購入するだけでなく、その物語を自発的に発信し、周囲にも共感の輪を広げてくれます。
こうした“共感の連鎖”が、新たな顧客獲得にもつながる好循環を生み出すのです。
世間に認知されやすくなる
ストーリーブランディングは、ブランドの認知度を高めるうえで非常に効果的な手法です。単なる商品説明や広告ではなく、印象的なストーリーとしてブランドを語ることで、消費者の記憶に残りやすくなります。
特に独自性のあるストーリーを打ち出すことで、「あのストーリーの企業」「CMが物語仕立てで印象的だった」といったように、ブランドが第一想起されやすくなる効果が期待できます。こうした認知は、購買の際の選択肢に入る確率を高めるだけでなく、ポジティブな口コミや評判の拡散にもつながります。
結果として、他ブランドとの差別化が図りやすくなり、単なる知名度ではなく“記憶に残る存在”として市場に定着することが可能になります。
製品の特徴が伝わりやすい
商品やサービスの価値を正確に伝えても、消費者が使用シーンや具体的なメリットをイメージできなければ、購入にはつながりにくいのが現実です。
その点、ストーリーブランディングは、開発の背景や実現までのプロセスを物語として伝えることで、製品の本質的な魅力を直感的に理解させる力を持っています。単なるスペックやステータスを強調する広告に比べ、リアルなエピソードに共感を乗せて伝えるほうが、消費者の記憶に残りやすく、購買意欲にも直結しやすいのです。
製品が「何をできるか」ではなく、「なぜそれが生まれたのか」「どんな思いでつくられたのか」を語ることで、より深い理解と共感を得ることが可能になります。
まとめ
製品やサービスの機能だけでは差別化が難しい現代において、ブランドが長く選ばれ続けるためには、「共感」や「信頼」を軸としたストーリーブランディングの重要性が増しています。
セブンデックスでは、企業の理念や背景に丁寧に向き合い、ブランドの“らしさ”を言語化・可視化するストーリー設計から、体験設計・ビジュアル表現まで、一貫した支援を行っております。
単なる表現ではなく、企業の本質を捉えたストーリーを軸に、継続的なブランド価値の構築を目指したいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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