ブランドを長期的に継続し、価値を創出し続けるために重要なブランドマネジメント。
ここでは、実例を元にブランドマネジメントの定義とその戦略をご紹介します。
目次
ブランドマネジメントとは
実例をご紹介する前にブランドマネジメントの定義をご説明します。
ブランドマネジメント
ブランドマネジメントとはユーザーの抱くブランドの印象を維持し続けるために、ブランドおよび製品を管理することです。
ブランド、ブランディング、リブランディングとの違い
それではブランドやブランディング、リブランディングについて具体例を交えながらご説明したいと思います。
ブランド
ユーザーが抱く企業や製品の印象のことを指します。
この印象は企業の製品やサービスが創出する「役に立つ」や「便利」といった合理的な価値だけで判断されているものではありません。利用することで得られる気分、「ほっとする」や「楽しくなる」などの情緒的な価値も踏まえて評価されています。
例えば、コーヒーが飲みたいと思った時。あなたはどうしますか?
自宅でドリップする、コンビニに買いに行く、スターバックスに行く…コーヒーを飲むという行為1つにたくさんの選択肢があります。
しかし、自宅で飲むこと、スターバックスでコーヒーを飲むこと、コンビニのコーヒーを飲むことは全て同じ「コーヒーを飲む」という行為でも全く異なる体験ですよね。
スターバックスでコーヒーを飲むことは「オシャレさ」や「くつろぎ」といった情緒的な価値もあると思います。コーヒーを飲みながら「オシャレな空間でくつろぎたい」と思った時にスターバックスが頭に浮かぶ。これがブランドの力です。
ブランディング
企業が意図するユーザーの印象を作り出す行為のことを指します。
コメダ珈琲を例に簡単にご説明します。
コメダ珈琲は「誰もがくつろげる街のリビングルーム」というコンセプトのもとブランディングされています。ブランディングの1つの要素としてパーテーションで区切られた半個室の座席の設置があります。
人の目線を遮るパーテーションと柔らかいソファーを設置することで、
コメダ珈琲=「ゆっくりくつろぐことができる空間」という印象を作り出しているのです。
ブランディングの詳細についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
リブランディング
ユーザー印象を意図的に変える行為のことを指します。
リブランディングは印象がガラリと変わるためユーザーに強いインパクトを与えることができます。
話題になったローソンのパッケージ変更も、リブランディングの事例の1つです。コンビニらしいシズル感を排除し、「家に馴染む」パッケージで競合との差別化を試みました。
リブランディングについてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
コカコーラのブランドマネジメント〜失敗例から学ぶ〜
コーラのブランドマネジメント失敗までの経緯とその原因
1970~80年代コカコーラはペプシの台頭により窮地に立たされていました。
ペプシの販売元であるペプシコ社が公開味覚テスト、通称「ペプシチャレンジ」でペプシがコカコーラを抑えて高評価を得たのです。
さらにコカコーラは、ペプシが行った「New generation campaign」により、”若々しさ”というイメージを奪われることになりました。
このような状況を抜け出すべくコカコーラは旧来のコーラの味を一新し、「ニューコーク」として販売。
ところが、「ニューコーク」は多くのコカコーラユーザーの失望を招く結果となりました。
「最愛のコークよ。あなたは私を裏切った。私たちがいつものように、つい先週デートして、キスしたとき、この恋は終わったと知りました…」
『コカ・コーラ帝国の興亡 100年の商魂と生き残り戦略』より引用
ではこのような結果を招いた原因は一体どこにあるのか。
それはブランドマネジメントにあります。
コカコーラはユーザーの持つ“若々しさ”という印象を自身のブランド価値と設定し、「ニューコーク」という商品でこの印象を守ろうとしました。しかし、コカコーラが本来守らなければいけなかったのはその『味』だったのです。ユーザから寄せられた非難の声の中にコーラの味は『アメリカの精神の象徴』であるという主張が数多く見られました。
コカコーラは自身のブランドであるその『味』を維持し続ける必要がありました。
その後、コカコーラは「コカコーラ クラシック」として旧来の味のコーラを販売することになります。
このように、ユーザーの声を受けて自身の『らしさ』を再度発見することになりました。
キユーピーのブランドマネジメント〜成功例に学ぶ〜
キユーピーはキユーピーマヨネーズでお馴染みの日本の食品メーカー。
2019年に創業100周年を迎え、長年にわたって私たちの食卓を彩るキユーピー。長く愛される秘訣もブランドマネジメントにありました。
キユーピーのマネジメントルール
キユーピーは創業当初から2つの考えを軸にブランドマネジメントを行なっています。
ひとつは「いかなる時もらしさを守り続ける」こと。
もうひとつは「創意工夫に努めること」です。
ブランドマネジメントの成功には「時代に囚われず継続すること」と「時代に合わせて変化していくこと」をうまく共存させることが必要になります。
①守り続ける『らしさ』
まず、「いかなる時もらしさを守り続ける」についてはキユーピーマヨネーズの『味』が体現しています。
この味はキユーピーの創始者である中島董一郎氏の「人々に良質で栄養価の高いものを届けたい」という思いの元、変えてはならないものとして守られてきました。
また、キユーピーマヨネーズは創業以来「良い製品は良い原料から生まれる」という理念を貫き、原料にこだわって作られてきました。
しかしそのこだわりのために、過去5年間にわたり製造を休止しています。
1941年、太平洋戦争勃発によりマヨネーズの原料が入手困難に。戦後も物資不足が続き、良質な原料は手に入りませんでした。この時、キユーピーは利益よりも自身の理念を優先し、製造中止に踏み切ったのです。
そして製造再開後も、鮮度の高い卵を使用するために東京近郊の農場を買い上げ、さらにはマヨネーズの原料に最適な酢を開発するなど原料に対する徹底したこだわりをみせました。
このように、一貫した理念を掲げた上で改良を続けていく姿勢がブランドへの信頼感に繋がります。
ブランドマネジメントでは製品そのものだけでなく、ロゴや広告、価格など製品に関わるあらゆる事物を管理する必要があります。
キユーピーといえば、聞き馴染んだ軽快な音楽と可愛らしいキユーピーちゃんが浮かびませんか?このようにブランドに対して私たちの間でイメージが共有されているのは長年に渡る一貫した広告の効果です。
キユーピーは「宣伝は資本である」としてマヨネーズ発売当初から宣伝に力を入れてきました。現在でも新聞やテレビ、ビジュアル広告など様々な媒体で宣伝活動を行っています。中でも「3分クッキング」は50年以上も続く代表的な宣伝の1つです。
キユーピーの製品を使い、食の流行を反映したレシピを提案。印象的なオープニング映像で独自の世界観を表現しつつ、人々の食生活に自然と溶け込んでいます。
このように、ユーザーに向けたあらゆるアウトプットでブランド『らしさ』を表現し続けることが、ブランドのメッセージを明確に伝えることを可能にするのです。
②『らしさ』に基づき変化する
次に「創意工夫に努めること」について。こちらはキユーピーマヨネーズの『パッケージ』を例に挙げてご紹介します。
キユーピーマヨネーズですが発売当初は瓶詰めの状態で販売されていました。それから約30年後に現在のようなポリボトルの容器になり、赤い網目がプリントされたポリ袋に包まれて販売されるようになりました。
それ以来、ポリボトルは一見すると気がつかないような進化を続けています。
例えば、この見慣れたボトルには外気中の酸素を通さない特別な材質を使って開発された素材が使用されています。また、キャップをはめる時にアルミシールで蓋をすることで酸素を遮断。
これらの進化はこだわり抜いて作られた『味』を守ることを目的としています。そしてパッケージのデザインを一定に保つことで、年齢問わずブランドを浸透させることに成功しているのです。
このように、キユーピーは自身の持つ伝統的な『らしさ』を正確に理解し、守り続けること。そして『らしさ』を土台として、時代に合わせて絶えず変化することでユーザーからの厚い信頼を獲得するに至りました。
ユーザーとの信頼関係を築き、その関係を維持していく上でブランドマネジメントは重要な役割を担っています。
終わりに
ブランドマネジメントでは、企業が持つ『らしさ』を維持しつつ、時代に合わせてブランドの価値を変化させる必要があります。
そしてそのためには、企業自身が『らしさ』を明確に理解していなければなりません。
その第一歩として今回ご紹介したキユーピーのようにマネジメントルールを設定してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
川島 蓉子 (2006) 『ブランドのデザイン』弘文堂.