ビジネスの現場でも積極的に取り入れられているデザイン思考。GAFAをはじめとした世界の名だたる企業は当たり前のように取り入れていますが、日本でもAI時代に必要な問題解決手段として注目されています。
デザイン思考が注目された背景からデザイン思考5つのプロセス、さらにはデザイン思考を使った企業事例を解説。すぐにビジネスの現場で活用できる様にサポートします。
目次
デザイン思考とは?
デザイン思考とは、デザインを行う際の思考プロセスを用いて、自ら課題を発見し解決策を創り出す思考法のことを指します。これは、デザイナーが観察や洞察を通じて人々のニーズを理解し効果的な解決策を生み出しているように、従来の常識にとらわれず課題をシンプルに捉え、柔軟性と創造性を駆使して問題を解決していくものです。
柔軟性と創造性と述べている通り、デザイン思考には決まったプロセスが存在するわけではありません。しかし、デザイン思考を実施するにおいて頭に入れておきたい3つの考え方があります。
- ユーザー中心に考え、観察によって得られたユーザーの経験や感情に共感すること。
- アイデアを素早く具体化し、すぐにテストすること。
- 新しいアイデアや異なる視点を受け入れ、固定観念に囚われずに考える柔軟性を持つこと。
「デザイン思考」が注目されている背景:AIの台頭
AI(人工知能)の台頭により、仕事のやり方は大きく変化しました。AIが仕事を代替するようになり、すでに誰かが解決したことがある問題を解決するような作業は、AIが担うようになりました。これから本当に重要なのは、まだ誰も気づいていない問題を見つけ出し、その解決策を考え出す能力です。この能力が、これからの企業が成功するかどうかを分ける鍵になります。
そのため、ビジネスでは、ただ製品を作ったりサービスを提供したりするだけでなく、ユーザーの立場に立って、彼らの抱える本質的な問題を解決し、新しい価値を生み出すことが求められます。これを達成するために必要なのが、「デザイン思考」です。ユーザー中心の考え方で新しい問題を見つけ、それに対する革新的な解決策を考える力が重要になると言えます。
アート思考との違い
アート思考は、創造性や直感を重視し、従来の枠組みにとらわれないアプローチで問題解決や価値創造を行う思考方法です。デザイン思考がユーザーのニーズに焦点を当てて具体的な解決策を考えるのに対し、アート思考の起点は自分にあり、もっと自由な発想や実験的なアプローチを取り入れます。アート思考は「ビジネスとして成り立つか」の観点は重要視されておらず、アイディアの広がりを求めているシーンで活用されます。
デザイン思考テストって?対策方法のコツは?
デザイン思考テストは、VISITS Technologies社が提供している、個人やチームがデザイン思考のプロセスや原則をどの程度理解し適用できるかを測定するオンラインテストです。累積受験者数は36万人を超えており、利用企業・団体も300社以上となっています。
デザイン思考テストには、公開テストと団体テストの2つのテストがあります。
公開テスト
対象 | 個人向け |
料金 | 4,950円 (税込) |
テスト時間 | 創造セッション30分間、評価セッション30分間 |
テスト結果 | テスト終了後5日以内に結果開示 |
スコアの有効期限 | 公式スコアとして2年間利用可能 |
団体テスト
対象 | 団体向け |
料金 | 各団体による |
テスト時間 | 創造セッション30分間、評価セッション30分間 |
テスト結果 | 受検者への結果の開示/非開示は、団体毎に指定。 |
スコアの有効期限 | 団体によって利用可能な場合あり |
対策方法
このテストでは、5W1H(Who(誰が)、Where(どこで)、When(どんな時)、Why(叶えたい願望)、What(解決するためのモノ)、How(願望を解決するアイデア))に基づいてアイディアを出す力が求められます。よって、以下のような対策が効果的です。
- 文章力を磨く:自分が提出したアイデアを評価するのは他の受験者です。説明文には「文章がわかりにくければ低評価を付けてください」といった注意書きがあるため、どんな人でも理解できる文章を書く力が重要です。
- 自分の想像できるシチュエーションを設定しアイディアを考える練習をする:シチュエーションの解像度が低いと、的外れなアイディアを出してしまう可能性があります。Who(誰が)、Where(どこで)、When(どんな時)の選択肢で難易度の高い組み合わせをする人も見られますが、組み合わせ自体は評価に影響を与えません。自分が想像しやすいシチュエーションは何かを日頃から考えておき、テスト本番でスピーディーにアイディアを出しましょう。
- 自分の出したアイディアをアプリで評価する:デザイン思考テストの公式でおすすめされている学習ツールとして、5dというものがあります。このアプリではデザイン思考テストの流れを無料で体験でき、他の人に自分のアイディアを評価してもらえるため、おすすめです。
デザイン思考の5つのステップ
スタンフォード大学のハッソー・プラットナー・デザイン研究所では、デザイン思考の実践には「共感」「課題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」という5つのステップがあると提唱しています。
このプロセスは、あくまでデザイン思考を体現する方法の一つなので、ただ実践するだけがデザイン思考というわけではありません。デザイン思考は“考え方”であるということを念頭においた上で次に進みましょう。
(1)共感(Empathize)
目的:ユーザーの経験、感情、ニーズ、課題に深く共感すること。
方法:観察する、インタビューする、体験する。
共感は、デザイン思考ならではの過程です。定量的なリサーチでユーザーのことを知ろうとするのではなく、ユーザーがなぜ・どのように行動するのかを徹底的に理解し、ユーザーが自分では気づいていない潜在的に抱えている課題やニーズにアプローチすることが重要です。
(2)問題定義(Define)
目的:共感ステップで得た洞察をもとに、解決すべき具体的なユーザーの問題を明確に定義すること。
方法:ユーザーのニーズや課題を明確な言葉で表現し、焦点を絞る。
この段階では、共感から得たユーザーへの共感を分析し、どのような視点で課題を捉えるかの着眼点を定めます。観察やインタビューから何か面白い事実に気づいたら、それをチーム全員で掘り下げます。一般的な事実ではなく、目立った・面白い着眼点を見つけ言語化することが重要です。
(3)創造(Ideate)
目的:問題定義ステップで特定した課題に対して、創造的で革新的な解決策を発想すること。
方法:ブレインストーミング、マインドマッピングなどの技法を用いて、多くのアイデアを生成する。
定義した課題を念頭に置き、課題解決のためのアイデアをできるだけ多く出してから、最後に収束させていきます。このとき、さまざまな専門性を持ったチームで行うのが理想です。なぜなら、この段階の目的は正しい答えを導き出すことではなく、課題解決の可能性を最大限押し広げることだからです。これにより、創造的で革新的なアイデアを生むことができます。
(4)プロトタイプ(Prototype)
目的:アイデア出しステップで生まれたアイデアの中から選ばれた解決策を具体的な形にすること。
方法:低解像度から始め、ユーザーに触れさせることができる実用的なモデルを作成する。
収束させた課題解決のためのアイディアを検証するために、実際に目で見て触れることのできるプロトタイプ(試作品)を作ります。デザイン思考でのプロトタイプは、完璧なものを作って課題点を見つけることではなく、とにかく簡易的に作って壊して、アイデアの改善点を見つけることが重要です。
頭で考えていたデザインを形にすることで、新たな気づきを得ることができます。
プロトタイプについてはこちらの記事に詳しく載っているので参考にしてみてください。
(5)テスト(Test)
目的:プロトタイプを実際のユーザーに使用してもらい、フィードバックを得ることで解決策を評価・改善すること。
方法:ユーザーにプロトタイプを体験してもらい、観察、インタビューを通じて反応を収集する。
プロトタイプをユーザーにテストし、フィードバックをもらってアイデアが適切なものであるかを検証します。ここで重要なのは、ユーザーへのテストは、自分のアイデアの解決策や問題点を見つけるためだけでなく、ユーザーの更なる理解を得ることができるという点です。ただ成功か失敗かを検証するのではなく、着眼点について深掘りする意識でテストを行いましょう。
以上、5つのプロセスを紹介してきましたが、ここで注意していただきたいのは、これらは、順番通り実行すればいいというわけではないということです。ある段階で新たな課題が見つかれば前に戻ったり、時には、ユーザーへの共感からやり直すことで、デザイン思考の体現に繋がります。
デザイン思考の効果・メリット
ユーザーの深い理解
「コト消費」と呼ばれる現代では、企業の都合でモノを良くするだけでは売れない時代となりました。ビジネスを成功させるにはユーザーが本当に欲しい物を見極め体験を提供する「コト」にアプローチする必要があります。デザイン思考でユーザーの実際のニーズや課題に焦点を当てることで、より有効で必要とされる解決策を提供できます。
イノベーションの促進
決まったプロセスから自由になり、創造的な思考を促進することで、従来の解決策にはない革新的なアイデアを生み出せます。競合との差別化に繋がり、市場での新たな機会を創出することが可能になります。
リスクの低減
プロトタイピングとテストをスピーディーにサイクルを回すことにより、開発初期段階でアイデアの実現可能性や市場適合性を評価できます。不必要な開発コストの削減や、市場導入の失敗リスクを低減できます。また、フィードバックを素早く取り入れ、変化するユーザーのニーズや市場の動向に対応できれば、持続可能な成長と長期的な競争優位性を確保することができます。
チームワークの向上
デザイン思考では、異なる専門知識を持つチームメンバーが共同で取り組むことで、効果を発揮します。チーム内のコミュニケーションと相互理解が深まり、多角的な視点からのアイデアが生まれ、プロジェクトの効率性と成果の質が向上します。
デザイン思考プロセスの成功事例
学研ECサイトの送客率350%UP!
セブンデックスが設計した学研グループのECサイト、「イエベン」のリニューアルでは、デザイン思考のプロセスを用いました。その結果、サービス全体の送客率(商品購入画面への遷移率)を351%向上させることができました。そのプロセスを簡単にご紹介します。
共感:教材 × オンラインならではの意思決定軸
行動と心理状態を深堀りするために、ネットで教材を買ったことがある人にユーザーインタビューを実施しました。その結果、教材ならではの購入判断軸があることがわかりました。小学生向けの教材は、基本的に親が意思決定者なため、「子供にどんな教材を使ってほしいか」、「しっかりやってくれそうか」といった基準で選ばれます。その基準とは、例えば「やる気を出すためにシールを貼ってもらえる教材」が良い子供もいれば、「問題量が多い教材」が好きな子供や、「解説が丁寧な教材」が必要な子供もいます。つまり、人によって求められる要素は様々です。そのため、親たちは「教材の大きさ」、「教材のボリューム」、「付録が付いているかどうか」など、具体的な詳細情報を必要としていることが明らかになりました。
問題定義:教材のイメージを伝えるには
実際の書店では、教材の一部を覗くことができますが、オンラインショッピングではできないため、ユーザーが気になる情報を明記することが不可欠です。教材ならではの情報に何が含まれるのかを理解し、その内容をサイトの必須要件として反映させることにしました。
創造:ワークショップでアイディア発散
解決できそうなアイディアの発散を学研さんと共にワークショップ形式にて実施しました。
ワークショッププロセス
- ペルソナシート見て、課題を解決できそうなアイディアを個人で発散する
- 出てきたアイディアを共有する
- アップデートできそうなアイディアをみんなで話し合う
- アイディアに投票し、優先順位をつける
その後、プロトタイプとテストを行い、ECサイトをリニューアルしました。詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
また、他の事例を知りたい方は以下の記事もご覧ください。
デザイン思考でよく使われるフレームワーク
ここでは、デザイン思考の実践でよく使われるフレームワークをご紹介します。
エクストリームユーザーへのインタビュー
エクストリームユーザーとは、ターゲット層から極端に外れた行動や性質を持つ人のことです。
デザインコンサル会社であるIDEOは、主婦向けのキッチン用品を開発するために、子どもが料理をする様子を観察し、キッチン用品の使いづらさにおける普遍的な課題を発見しました。その結果生まれた敢えて持ち手を統一せずに作られたZyliss(チリス)のキッチン用品は、ヒット商品となりました。
このように、人々の潜在的な課題を知ることは、ビジネスにおいて革新的なアイデアの創造に繋げることが可能になります。
ブレインストーミング
ブレインストーミングは、ホワイトボード、筆記用具、付箋を用意し、付箋一枚につき一つのアイデアを書き出していく方法です。集団でアイデアを出し合ってお互いに刺激しあうことで、1人では思いつかない新たなアイデアを得ることに繋がります。
デザイン思考での創造は、課題解決の可能性を最大限押し広げることを目的にするので、次のようなルールを設けて行いましょう。
- 質より量を重視する
- 途中で判断・決断をしないで、ブレスト後に結論をまとめる
- 批判をしないで、アイデアをさらに追加していくことだけに集中する
- アイデアを組み合わせる
詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
ビジネスモデルキャンパス
ビジネスモデルキャンバスとは、経営学者のアレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールによって作り出された、ビジネスの構造を可視化するための以下のようなフレームワークです。以下の要素に関してポイントを整理することで、新しいアイディアのヒントになります。
詳しくはこちらをご覧ください。
SWOT分析
SWOT分析は、組織やプロジェクトの戦略計画を支援するために使用されるフレームワークです。内部環境と外部環境の両方を評価することにより、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4つの要素を特定します。この分析を通じて、組織が自身の状況を客観的に把握し、アイディアを出すのに役に立ちます。
- 強み(Strengths): 組織が持つ、競合他社に比べて有利な内部のリソースや能力。
- 弱み(Weaknesses): 組織が他社に比べて不利な、改善が必要な内部の要素や制限。
- 機会(Opportunities): 市場や外部環境において、組織が利益を得ることができる状況やトレンド。
- 脅威(Threats): 競合や外部環境の変化が組織の目標達成に悪影響を与える可能性のある要素。
デザイン思考がわかるおすすめ本や動画
デザイン思考について書かれた文献も多くなり様々な方法で学べるようになりました。
その中でも個人的に良かった本と動画をご紹介します。
「デザイン思考が世界を変える」ティムブラウン / IDEO社
本書は、ビジネスにおけるデザイン思考の概念や重要性を学ぶ上でおすすめしたい本になります。
著者は、世界屈指のデザインコンサル会社IDEO(アイディオ)の社長兼CEOであるティム・ブラウン。
本書では、彼の経験から、様々なデザイン思考のケーススタディが取りあげられています。
フレームワークなどが体系的にまとめられているわけではないので、デザイン思考については個々に読み解く必要あり、具体的に何をすることがデザイン思考なのかということが一通り理解できるような本ではありません。
しかし、デザイン思考の本質は、そもそもフレームワークではないため、本書を読むことで、デザイン思考によってビジネスにどう向き合って行くべきか、その姿勢が重要なのだと実感できる本です。
「デザイン思考の先を行くもの」各務 太郎
本書では、日本人が「デザイン」に対して抱えてきた誤解を解くところから始まるため、そもそも「デザイン」とは何かというところから学びたい人におすすめしたい本です。
明日から実践できる革新的なアイディア発想法が書いてあり、まさに「デザイン思考の先を行く」アプローチを学ぶことのできる本になります。一見難解であるデザイン思考が、図を用いてわかり易く書かれているため、一度は手にとっていただきたいおすすめの本です。
「スタンフォード式デザイン思考」ジャスパー・ウ
著者は、デザイン思考教育の総本山であるスタンフォード大学d.school在学中に、デザイン思考のファシリテーターとしてキャリアをスタートし、卒業後は楽天やメルカリでデザイン思考を実践してきました。本書は、著者がこれまで学んだd.schoolの授業や、ファシリテーターとしてかかわってきたワークショップをベースとし、デザイン思考を身に付けるための具体的なノウハウを解説しています。
「本を読む前にまずは触りだけでも知りたい…」と言う方にピッタリの動画がこちらです。書籍『実践スタンフォード式デザイン思考世界一クリエイティブな問題解決』を14分間の講座形式の動画でまとめています。書籍に書かれているユーザーの本当のニーズ・課題の発見方法について、要点に絞って効率よく学べます。
「BTC型人材」「デザイン思考」でつくる近未来のイノベーション組織〜Takram田川欣哉
Takram田川欣哉さんとグロービス大学院による、BTC型人材、デザイン思考で作る組織についての対談動画です。デザイン思考のセッションでは、デザイン思考を第3の共通言語として「会社-組織-プロダクト-ユーザー」をどの様に繋げるべきか、詳しく語っています。
複数職種が絡む組織の場合共通言語が無いことで壁ができやすくなりますが、その様な問題もデザイン思考で解決できることは学びになりました。
デザイン思考が学べる研修やWSは?
デザイン思考は複雑性が高い思考法です。書籍やセミナーなどの座学だけでは、チームの実践に持ち込むことが難しい…そう感じる方も多いのではないでしょうか。セブンデックスでは、事業価値向上を支援する3つのワークショッププログラムを提供しています。実際に架空の案件でシミュレーションすることで、次回から現場で再現することが可能になります。
以下で資料をダウンロードいただけますので、ぜひご覧ください。
以下、デザイン思考導入のための研修を支援する会社を紹介します。「KeySession」は、新入社員研修やDX研修など企業の成長に欠かせない研修を紹介しています。デザイン思考の研修を行っている会社を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
→デザイン思考研修のおすすめ研修会社を紹介 – デザイン思考研修を探すならKeySession
また、デザイン思考を用いて企業の課題解決を行うWeb制作会社を紹介します。Web制作会社のクーシーは、Webサイトやアプリのデザイン・システム・マーケティングをワンストップで支援します。近年では、空中ディスプレーの開発などジャンルにとらわれない幅広いクリエティブを手掛けています。
→株式会社クーシーのコーポレートサイト