新たな中核事業を求めて新規事業開発に取り組む企業は多くあります。しかし、せっかくローンチまでこぎつけた新規事業が、中核事業まで成長する確率はたったの「7%」であることが、アビームコンサルティングの調査によりわかりました。
ローンチ後の新規事業の壁となるものはなんでしょうか?
その答えの一つを、セブンデックスの創業メンバーで事業/組織開発の支援を行う筒見憲介は「セールスオペレーションの不十分さ」と語ります。プロダクト開発の過程で、グロースの土台となるセールスオペレーションまで構築できている会社は多くないそうです。
そこで今回は、筒見がクライアントを支援する際に意識している点を伺いながら、新規事業開発のセールスオペレーション構築や事業成長のポイントに迫ります!
目次
セールスオペレーションは「自然と事業が成長する仕組み」
—まず、筒見さんが普段やっている業務について教えてください。
現在の主な役割は、自社のBCS事業の事業戦略策定など裏側の仕組みを整えることです。また、案件の統括として現場に出てクライアントと直接やりとりしながら、事業開発やセールスオペレーション構築の支援も行っています。
—改めて、セールスオペレーション構築とはどのような仕事なんでしょうか?
リードからセールス、財務との連携など、そのサービスの入り口から出口までのフローを整える役割です。たとえば、どのチャネルから入ってきたリードを、どのように育成してセールスに渡すか。セールスにはどのような訴求をしてもらうか。そして、受注した後の売上管理やカスタマーサポートをどうするかなど、属人的でブラックボックス化しやすいフローをデータによって可視化します。
それにより、注力すべきリードのチャネルを明確にしたり、営業の効率や精度を高めるための改善が回っていくようにする。「このフロー通りに取り組めば、自然とデータも取れて、自然と事業も成長していく仕組み」をつくることが、セールスオペレーションの構築です。
—具体的な実績もお伺いできますか?
事例としてすでに出している株式会社うるる様のケースでは、Salesforceの導入、セールスフロー設計、データの設計・開発、組織浸透を支援しました。その過程で「割引キャンペーンにより契約したリードは短期解約が多い」などの事実を発見し、そうした契約の取り方を廃止。また、カスタマーサポートのオペレーションを改善して、解約率を半分以下まで改善しました。自然と事業が成長するモデルができたことで、売上に年間数千万円規模のインパクトがありました。
事業開発の失敗要因の多くは「オペレーション」にある
—セールスオペレーションの最適化は企業価値にも直結する重要な要素なんですね。事業開発の成功確率が低いというデータもありますが、オペレーションが課題になっている企業は多いのでしょうか?
そうですね。プロダクトをつくることに注力しすぎて、その後、どのように売上につなげていくかを考えきれていないケースは多いと思います。新規サービスの年間売上目標と受注件数だけ決まっていて、月次の目標や事業KPIを設定していない企業もあるほどです。なぜそうなっているのかを聞いたら「進め方を知らなかった」と言われたこともあります。ある程度の規模感の企業さんだったので、正直驚きました。
—様々な企業の事例を見てきた筒見さんから見て、企業がオペレーション構築に課題を抱えている原因はなんだと思いますか?
見聞きした範囲ではありますが、一つは、特に大手企業において、新規事業開発に対しての必死感、危機感みたいなものが希薄になっていることがあるようです。
スタートアップは、新規事業の成否が会社の存続に直結するため、KPIをきちんと設定して管理する意識が強くなりますよね。一方、たとえば売上一兆円くらいある企業からしてみれば、新規事業で見込まれる売上はそこまで大きくなく、重要度が上がり切らない。一旦やってみようというスタンスでいる場合が多いです。
なかには、新規事業をつくることが目的になっていて、ローンチしたときがピークで「よかったね」で終わってしまうケースもある。また、よく言われる「新規事業の成功確率は10%未満」というのを変に解釈して、成功しないのが当然だと片付けてしまうこともあります。資金力やリソースが豊富な分、新規事業一つにかける熱量が小さくなってしまうのかもしれませんね。
—なるほど、一つは取り組む姿勢の問題だと。他にはありますか?
あとは、DXの遅れもあります。先ほども話したように、セールスオペレーションは、リード、セールス、カスタマーサクセスなど様々な部署のデータを横断的に可視化することが重要です。しかし、CRMツールを導入することにすら抵抗があるところが少なくありません。
実際に支援をしたケースでいえば、必要なKPIの洗い出しやデータの設計は2ヶ月ほどで完了しましたが、組織内に浸透するまでは1年半かかりました。長年同じ方法で業務をしてきた企業ほど、新しいシステムに対する否定的な意見は多くなります。
—そうした企業がデータで裏付けされたオペレーションを構築していくにはどうしたらいいのでしょうか?
支援する際にセオリーにしているのは「キーマンを巻き込む」こと。つまり、問題意識や変革への意志を持っている人を仲間にすることです。初期の段階では、その方たちが中心となって、データやツールの意義、活用の方法を周りに波及させていく必要があります。
ある程度広がっていくと、売上の現状が可視化されたり、売上につながる要因が見えてきたりして、具体的な改善につながるようになる。そのツールを使っている人、フローを正確に理解している人ほど好成績な状態がつくれれば、「やらざるを得ない状況」が生まれて、浸透が一気に進みます。
「必ず事業成長させる」意志と泥臭い向き合いが、優位性につながると証明された
—他にも、クライアントの事業開発やセールスオペレーション構築において、意識されていることがあれば教えてください。
僕らは単なるアドバイザーではなく、実際に現場に深く入り込み、泥臭く向き合いながら、事業成長を実現するためのあらゆる施策を実行します。「クライアントよりも、クライアントのことを考える」という気持ちを持って、時にはクライアントのタスク管理もしながら、プロジェクトをリードしていくんです。
本気で向き合うからこそ、忖度はせず、時にはぶつかり合うことも辞さないスタンスでいます。以前、ある組織開発プロジェクトの重要なワークショップで、先方の執行役員レベルの人が終始、他人事の様に参加していました。その際は、終わった後に「組織開発を進めようとしている張本人がそのスタンスであれば、僕らは支援をすることができない」と真っ直ぐフィードバックしたんです。次の日に「改めて真剣に向き合うのでご一緒したい」という話をいただき、プロジェクトは継続することになりました。
—なぜそこまでやるんですか?
一見、非合理に見えますよね。リスクもあるし、「適度に言うこと聞いてくれるほうがいい」と考えるクライアントもいるでしょう。でも、本当にクライアントの事業成長を考えるならば必要なことだと思うんです。中長期的に事業を伸ばしていくことを考えたら、事業開発やグロースの土台を作る段階で、スタンスをすり合わせたり、コミュニケーションを深めたりすることは合理的だと考えています。
とはいえ、その方針に悩んだこともあります。「真剣に向き合う」「深くコミュニケーションをとる」というこだわりは、なかなか外には伝わりにくいですから。他の支援会社さんとの差別化として見えづらいことに力を入れるべきか、という議論もありました。
でも、信じて続けてきたおかげで、最近ではベンチマークしている企業と比べても利益率が高くなったり、成長につながってきたりしていることを実感しています。創業当初から大事にしてきたスタンスが、ようやく証明されてきたんです。
—手応えを感じるまで、こだわり続けられたのは素晴らしいことですね。
メンバーの価値観や組織カルチャーに支えられた部分も大きいと思います。セブンデックスのメンバーには「事業成長に寄与しなければ意味がない」という共通の価値観がある。たとえば、「デザインだけやっていればいい」というUIデザイナーはいません。
そのため、僕が統括しているプロジェクト以外でも、さまざまなクライアントとの案件において、本当にいいものを作るための議論がバチバチ行われています。採用においても、育成においても意識してきたカルチャーが、クライアントの支援にも反映されているんです。
成功と失敗を定義することが、新規事業開発の一歩目
—今後、新規事業開発を考えている企業の方に向けて、成功の勘所を伝えるとしたら、なにかありますか?
偉そうには言えないですが、あえて伝えるとしたら「新規事業の成功・失敗の定義」を決めることをお勧めしたいと思います。いつまでにどのKPIを達成していなかったら撤退なのかを決めておくことは、数値管理をきちんとしようという動機にもつながるからです。
また、初期の段階から「プロダクトと事業を分けて考えない」ことも大切だと思います。とにかくプロダクトをつくってみて、その後にマネタイズについて考えるという進め方で、売れるものができたケースをあまり知りません。
プロダクトを構想している段階から、将来的なビジネスモデルやマネタイズポイントも一緒に議論しておく。ローンチ後にすぐに成長戦略に移行できるように準備しておくことが大切だと思います。
—「開発は開発、セールスはセールス」と縦割りで考えるのではなく、最初からグロースのイメージを持ちながら進めることが大事だと。最後に、今後のセブンデックスで実現していきたいことを教えてください。
引き続きクライアントの事業成長に寄与しながら、これまでの知見を体系化して、支援の再現性を高めたいと思っています。
たとえば、先方の課題が漠然としている場合は、「仮のKPIを用意したほうが議論が進む」とか、先方の議論の負担が軽くなるように「議論に必要な数値を可視化する仕組みを先につくる」とか。相手に合わせた最適な支援のプロセスを体系化していく。CRMの導入やオペレーションの設計といったHOWを固定させるのではなく、クライアントのイシューをどう特定して、最適なHOWの組み合わせを作るかといった「思考プロセスの体系化」に挑戦していきたいです。
HOWを提供できる人は市場にたくさんいると思いますが、クライアントを巻き込みつつ、WHYとWHATの整理からできる会社は、それほど多くありません。これは、戦略設計からUXUIデザイン、そして個別具体のクリエイティブまで一貫して支援ができるセブンデックスだからこそ実現できること。それによって組織として再現性のある事業支援を実践し、より多くの企業の事業成長に寄与していければと思います。
筒見 憲介
取締役 | 事業/組織開発
アメリカ/ボストン生まれ。新卒のナビタイムジャパンでフロント/サーバーサイドエンジニアを経験後、グッドパッチでプロジェクトマネージャー、UXデザイナー、マーケティングを担当。2019年セブンデックスに入社。事業・組織開発として、マーケティング、プロジェクトグロースに従事。SalesforceなどCRMを活用した事業支援を行なっている。