多くの方が「バリアフリー」という言葉を聞いたことがあるでしょう。また、「ユニバーサルデザイン」という言葉にも触れたことがあるかもしれません。これらの言葉は同じ意味や、同じ場面で使われるイメージを持たれることが多いようです。しかし、実際には根本的な思想に大きな違いがあります。
本記事では、ユニバーサルデザインとバリアフリーの違い、共通点、具体的な事例、そして自社でそれらをどのように実施すればよいかについて詳しくご紹介します。
目次
ユニバーサルデザインとバリアフリーの違いとは?
ユニバーサルデザイン(Universal Design)とは、その名の通り、全世界またはあらゆる人々に対応することを目的としたデザイン(設計)のことを指します。具体的には、障がい者、子ども、大人、高齢者、外国人など、多様な背景や状況を持つ人々が使いやすいように工夫されたデザインを意味します。
一方で、バリアフリー(Barrier-Free)とは、障がいを持つ人々にとってのバリア(障壁)を取り除くためのデザインを指します。例えば、階段は足が不自由な人にとって障壁となる可能性があるため、エレベーターやスロープを設置することでその障壁を解消することが、バリアフリーの具体例となります。
これらはどちらも多様性に対応するための設計を目指していますが、その思想には違いがあります。バリアフリーは特定の人々にとっての障壁を取り除くことを目的とする一方で、ユニバーサルデザインは、社会全体がより使いやすく、暮らしやすい環境を実現することを目指しています。
対象が違う
ユニバーサルデザインとバリアフリーの最も大きな違いは、対象者の捉え方にあります。ユニバーサルデザインは、障がいの有無や性別、年齢、文化などに関係なく、すべての人が利用しやすい設計を目指します。これに対して、バリアフリーは障がい者や高齢者など、特定のニーズを持つ人々に配慮した設計です。ユニバーサルデザインは、多様性を尊重し、すべての人々に適応できる環境を作ることを目的としています。バリアフリーは、特定の問題を抱える人々が直面する障壁を取り除くことに注力しています。したがって、ユニバーサルデザインは広く全体に対応するのに対し、バリアフリーは特定の人々のニーズに応じたものです。
障がいに対する考え方の違い
バリアフリーという言葉は、障がい者だけを対象にした障壁除去を指すことが多いですが、現代社会では本当にそれだけが問題なのでしょうか。ジェンダー、カルチャー、精神的な健康問題など、今や社会で求められている多様性は非常に広範囲にわたります。障がい者だけを対象にした障壁の除去というアプローチは、現代の多様性を反映しきれていないかもしれません。
ユニバーサルデザインの目的は、すべての人々が使いやすいと感じる環境を作ることです。その結果、多様性に対する対応も広がり、障がいの有無や性別、文化、精神的な健康状態に関係なく、誰もが快適に利用できる設計が提供されます。こうしたデザインにおいては、障がい者だけを「対象」として障壁をなくすのではなく、すべての人々に使いやすさを提供することが主な考え方です。
ユニバーサルデザインが目指すのは、誰もが簡単に利用できる「使いやすさ」であり、その結果として障壁が自然に排除され、誰にとっても快適な環境が実現されます。ユニバーサルデザインは一度実施すれば、その後再設計や追加の変更を行う必要がなくなる点も大きな利点です。それは、すべての人々に対応する設計が最初から組み込まれているため、障がい者を特別に扱うことなく、全体的な「使いやすさ」を追求するからです。
普及方法の違い
階段しかないビルに施策をすると言う仮定の時、バリアフリーの場合、階段に車し昇降リフトを足が不自由な人や車椅子を使う人限定に普及するでしょう。
ですが、ユニバーサルデザインの施策の場合、エレベーターを設置することになります。
どのような人でも運べるようにエレベータを設置することは、特定した人間のためのデザインではなく、できるだけ多くの課題を解決し、多様性を求める普及方法になります。
ユニバーサルデザインとバリアフリーの共通点と間違えやすい理由
どちらも、似たような状況で使われる言葉なので、少しわかりにくいかもしれません。どちらも、多様性への対応なので、どうしても同じに聞こえてしまいます。
以下のような共通点があることで、間違えやすくなりでしょう。
- やさしさや思いやりの思想
- 何かを使いやすくするという方向性
- どちらも福祉であること
似たように見える要素が多いですが、ただ、考え方が違うことで、もっと多くの人が助かることになったりするので、定義には気をつけましょう。
ユニバーサルデザインとバリアフリーの具体的な事例
ユニバーサルデザインの具体的な事例は、自動ドアなどです。自動ドアは、特定の人に向けて作ってはいません。できるだけ、多くの人が快適に使えるように作られたものとなります。自動ドアは、ユニバーサルデザインの優れた例です。センサー技術を活用し、誰でも手を使わずに通行できるため、高齢者や子ども、車いす利用者にとって非常に便利です。さらに、荷物を持ったり、ベビーカーを押したりしている人々にも負担を軽減し、快適な移動をサポートします。このような設計は、特定の人々だけでなく、すべての人々にとって使いやすさを提供しています。
ユニバーサルデザインとバリアフリーが抱える課題
ユニバーサルデザインの普及にはいくつかの重要な課題があります。まず、導入にかかる初期費用が大きく、特に中小企業にとっては経済的な負担となっています。これに加えて、導入後の費用対効果を明確に測ることが難しく、十分な利益が見込めない場合、普及を進める上での障がいとなっています。また、ユニバーサルデザインをどのように実施すべきかという具体的な手段が不明確で、企業や地方自治体における実践的なノウハウが不足している点も問題です。内閣府の調査でも、民間の自主的な取り組みに対する支援として、ノウハウ提供などの「ソフト面での支援」が求められています。
さらに、ユニバーサルデザインを進めるための法整備が遅れている点も重要な課題です。バリアフリーに関する法律は一定の整備がされていますが、ユニバーサルデザインを推進するための明確な基準や義務化が不足しており、特に公共施設や事業所の建設や改築において、ユニバーサルデザインの導入が義務化されていない現状があります。これにより、ユニバーサルデザインが進まない一因となっています。
これらの課題を解決するためには、企業、行政、個人が協力して取り組む必要があります。特に、新たな法的枠組みの整備や既存の規制の強化が求められています。また、国民全体のユニバーサルデザインに対する理解を深めることや、コスト負担に関する利害調整が重要です。もし法整備が進み、ユニバーサルデザインが義務化されれば、企業や公共機関が積極的に取り組むようになり、結果として誰もが利用しやすい社会が実現するでしょう。
企業におけるユニバーサルデザインの実践可能性
企業におけるユニバーサルデザインは、大きな可能性を秘めています。まず第一に、ユニバーサルデザインを社内向けに導入することが求められます。例えば、社員に障がい者や外国人(特に英語圏の)などがいる場合、言語やその他の障壁をすべて考慮して社内環境や施設を構築することが必要です。さらに、多様性を尊重する姿勢が、インナーブランディングや企業ブランディングに直結します。「この企業は多様な人材を採用している」「この企業は思いやりがある」といったイメージが広まり、コーポレートイメージが向上することで、求職者への魅力や信頼される顧客の数が増えるでしょう。
もちろん、限度を超えるとステークホルダーの信頼を損ねる可能性もあります。資金をユニバーサルデザインに過剰に投資すると、効率が悪くなるか、不要な多様性の追求に繋がってしまうかもしれません。したがって、バランスを取ったユニバーサルデザインの実施が重要です。
さらに、現代のビジネスにおいては、UX(ユーザーエクスペリエンス)やUI(ユーザーインターフェース)がユニバーサルデザインの主要な対象となります。UX・UIの目的は、ユーザーが製品やサービスを利用する際に、より良い体験を提供するための設計です。つまり、いかに多くの顧客にとって使いやすいウェブサイトや体験設計を実現できるかが、実践的なアプローチとなります。
デジタル化が進展する中で、ウェブサイトやメディアにおいて、いかに多くの人にとって使いやすいと感じてもらえるかが重要となります。従来、ユニバーサルデザインは街づくりや製品、施設の構造に関する概念でしたが、現代社会では、デジタル分野にも実践の可能性が広がっています。
デジタル分野でのユニバーサルデザイン支援 – セブンデックスの取り組みと支援内容
セブンデックスでは、多くのUXUIデザインを支援してきました。もちろんUXUIは、特定の目的があることが多いですが、最終的な目的は、どれほど多くの顧客に満足させることができるかです。もし、ユニバーサルデザインのユニバーサルを顧客と定義した場合、UXUIを通してユニバーサルデザインを設計してきたとも言えるでしょう。
このセクションでは、セブンデックスが今まで支援してきたUXUIデザインの事例をユニバーサルデザインの視点から紹介していきます。
支援事例1:株式会社スヴェンソン
このプロジェクトは、ユニバーサルデザインの視点で顧客接点を最適化することに重点を置いています。スヴェンソンは、がん治療に関連する商品を扱っており、顧客が直面する様々なニーズに応えるため、ECサイトやカタログのデザイン、SEOコンテンツの強化を通じて、ユーザー体験の向上を図りました。
1. 誰もが利用しやすいECサイト
ECサイトのリニューアルにおいて、ユーザビリティの向上を重視しました。デザインは、特定の年齢層や性別に依存しないように配慮され、明るく洗練された印象を与えるよう改善されました。商品の画像も「がんになっても、未来を楽しむことができる」というメッセージを伝え、すべてのユーザーに安心感と希望を提供しています。
2. 直感的に操作できる導線設計
特に、購入までの導線がスムーズに設計され、誰でも簡単に商品を見つけ、カートに入れることができるように改善されました。これにより、患者やその家族、さらに情報を探しているユーザー全員が、必要な商品を簡単に探索し、購入できる体験を提供しています。
3. 視覚的な安心感とブランド価値の伝達
商品の写真は、ウィッグやスキンケア、下着など、医療関連商品にありがちな無機質な印象を払拭し、美しさを追求する商品としての魅力を強調しました。このようなデザイン変更により、すべての人々にとって自然で魅力的な選択肢となり、安心感を与えることができます。
4. 継続的な情報提供によるユーザー支援
がん治療を受ける患者が、必要な情報をタイムリーに探しやすくするために、SEOコンテンツの強化を行いました。これにより、患者が情報を効率よく収集できるようにし、ECサイトへの流入を増加させました。このような情報提供の形は、すべてのユーザーのニーズに応える方法として、ユニバーサルデザインに合致します。
5. 病院での初期接点を最適化
病院向けに提供するカタログのデザインは、患者にとって使いやすく、必要な情報に簡単にアクセスできるように配慮されました。カタログの内容は、がん治療に関連する商品の紹介だけでなく、選び方やケア方法なども提供し、患者が自分に合った商品を選びやすくなっています。
株式会社スヴェンソンの支援実績により詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください!
支援事例2:GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社
このプロジェクトでは、ユニバーサルデザインの理念を重視し、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が提供する電子契約サービス「電子印鑑GMOサイン」のUX/UIデザインのリニューアルを行いました。ユーザーが契約業務をスムーズに進められるよう、全てのユーザーにとって使いやすい体験を提供することを目指しました。
1. ユーザーリサーチと体験設計
既存のお客様に対するインタビューを通じて、電子契約サービスが求める価値を深く理解しました。大企業からベンチャー企業まで、さまざまなユーザーの声を収集し、紙での契約フローと電子契約フローを比較して、重要な課題を特定しました。その結果、ユーザーが求める使いやすさや効率的なフローを明確にし、優先順位の高い課題に対して効果的な体験設計を実施しました。
2. 使いやすさを重視したユーザー側設計
次に、ユーザーテストを実施し、実際の利用者がどこで使いづらさを感じ、どの部分で不便さを感じているのかを詳細に検証しました。テストを通じて、紙契約に慣れているユーザーでも抵抗なく電子契約を利用できるような設計に必要な改善点が明確化されました。加えて、他社の電子契約サービスの情報設計や体験もリサーチし、直感的でスムーズなユーザーインターフェースに進化させました。
3. 管理画面の直感性と使いやすさ
「いつでも・どこでも・だれでも使えるデザイン」を目指し、専門的な知識を持たないユーザーでも直感的に操作できることを重視しました。特に契約業務に関しては、企業の規模や業務に関わらず、誰でも簡単に操作できる管理画面が求められていました。そのため、ユーザーが必要な機能を迷わずに利用できるよう、直感的で操作がシンプルなUIを設計しました。また、部署間での書類共有や、ユーザー追加機能の操作性を向上させ、どの企業規模でも対応できる柔軟性を持たせました。
4. デザインシステムとアクセシビリティ
全てのユーザーに配慮したデザインシステムを構築するため、カラーユニバーサルデザインガイドラインを採用しました。このガイドラインを基に、色覚に配慮したカラーリングを行い、視覚的に障がいを持つユーザーや多様な身体的特性を持つユーザーにも使いやすいサイトを実現しました。また、既存のブランドイメージを大きく変更せずに、「Friendly New Normal」というコンセプトを策定し、新たに与えたい印象をデザインに反映させました。これにより、ユーザーが視覚的にも安心感を感じられるようにしました。
5. シームレスな体験の提供
リニューアル後の電子契約サービスは、全てのユーザーに対して直感的に使える設計を実現しました。特に、契約業務に対するストレスを最小限に抑え、従来の紙の契約書に慣れたユーザーでも、自然と電子契約に移行できるような体験を提供しています。これにより、デジタル化への抵抗感を感じることなく、スムーズに契約業務を完了できる環境を整えました。
GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社の支援実績により詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください!
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