UXデザインというと、ユーザーインタビューやカスタマージャーニーマップ等を用いた定性的な調査・分析が多く、定量的な調査に向いていないと思われがちです。しかし、実はUXデザイン改善を数値化するための指標は多く存在します。
- 広告のクリック率
- 直帰率
- タスク成功率
- タスク処理時間
- ネットプロモータースコア(NPS)
- 再訪率
- UGC数
本稿では事例と共に、ユーザー行動毎に切り分けた上記の数値化手法について解説していきます。
目次
UXデザインの定量化はなぜ必要なのか
まず、なぜUXデザインを定量化する必要があるのでしょうか?
UXデザインの定量化を行う事で、以下のようなメリットがあります。
- タスクの優先度を決めやすい
- ステークホルダーとの目標を揃える
- プロダクトの課題の早期究明
タスクの優先度を決めやすい
UXデザイナーの目的は「プロダクトの体験をより良くする」に尽きますが、そんなボヤッとした目標だけだと達成度合いも分かりませんし、どのユーザー体験が早急に解決されるべき課題なのかも分かりません。しかし、UX改善を定量化した上で指標に落とし込む事で優先度が格段に明確化します。
よくUXデザインはバケツの穴を塞ぐ事に例えられますが、穴の大きさを正確に計測する行為がUXデザインの定量化になります。大きい穴から埋めていき、水の溜めやすいバケツを作る事がプロダクトの成長を早める鍵になります。
ステークホルダーとの目標を揃える
UXデザイナーはUXの改善を行う上で、多くの人とコミュニケーションを取る事になるでしょう。
対ユーザーコミュニケーションを改善するために「マーケター」と。機能要件を改善するために「エンジニア」と。時には施策実行の許可を請うために「経営メンバー」と話します。その上で『なんとなく使いやすくなったよね』といったような意見のみで議論や意思決定を行えません。客観的な事実や数字に基づいた議論が必要ですよね。そんな時に事実に基づいた数字があれば、その指標を基に施策や機能の評価を行えます。
また長期的に蓄積した数値データがあれば、それを基にサービスの定点評価も行えます。例えば、「この数値は冬は高かったけど夏は低い」などユーザーの季節性による行動の違いも計測できるわけです。そこから予算やプロモーション方法を最適化するなどの解決策も導けます。
プロダクトの課題の早期究明
UXデザインを行う時、皆さんカスタマージャーニーマップを作成されるかと思います。カスタマージャーニーマップはどのタッチポイントでどういったコミュニケーションを取る必要があるのかを可視化するのには向いていますが、プロダクトの現状課題を可視化するのには向いていません。
しかし、カスタマージャーニーマップで割り出したユーザーの行動をUX指標に落とし込み、プロダクトのKPIとの因果関係をまとめる事で、どこかのKPIに異常値が見られた際にそのKPIの因子となるUX指標からなぜ離脱が起きたのかの早期究明が可能となります。
例えば、「購入率」というKPIに異常値が発生した際にUXの定量化ができていないと、「送料が高いと感じたから離脱したのでは」という解像度の荒い仮説を立てた上で解決策を講じる事になってしまいます。
しかし、「購入率」に紐づくユーザーの行動を数値化できれば、「入力完了数」が低いことを検知し、「入力が手間だと感じたのでは」という仮説に絞り、「会員登録を必須化しない」等のより角度の高い対応策を講じる事ができます。
より速く、的確な解決策を講じるにはUXデザインの数値化は必須なのです。
UXデザインの改善を数値化するための指標7選
UXデザインの数値化を実際に行う上でよく使われる指標をユーザーの行動順に、7選にまとめました。本稿では家具のEC事業を例として、それぞれの指標を紹介していきます。皆さんが実際に使用される際は、自社のケースに合わせて流用できそうなものをピックアップして使ってみてください!
広告のクリック率
クリック率とは、広告の表示回数に対するクリックの割合です。プロダクトを認知してもらう上で、広告のワーディングやクリエイティブが自社が定義しているターゲット層に適切なのかを可視化しましょう。自社が定義しているターゲットからの正確な数字を測るため、広告配信設定は細かく調整してください。
例)家具のEC事業にて、安さに特化した「家具 おしゃれ」と品質に特化した「家具 最安値」の2種類のキャッチコピーをリスティング広告にて検証
結果:「家具 おしゃれ」は2.2%、「家具 最安値」は0.8%のクリック率だった。
以上の数値を見る限り、ユーザーは安さよりデザイン性の高い家具を好む傾向にある事が分かります。そのため、タグラインやブランディングをデザイン性が高いという強みにプロモーションを行うのが有効と言えるでしょう。このように、ユーザーがサービスに期待している体験をリサーチする手法としても、広告を使用した検証は有用です。
直帰率
直帰率とは、ユーザーが最初のページのみ閲覧して離脱する割合の事で、「直帰率 = 直帰数 ÷ 訪問数(セッション数)」という計算式で求められます。流入してきた際に想定していた情報と内容の乖離が大きいほど、この割合は高くなる傾向にあります。そのため、直帰率を低くするにはユーザーが流入する際に得た情報と到達したページでの情報差を少なくする事が重要です。
例)家具のデザイン性を訴求したバナー広告の流入先として、直接「家具の商品詳細ページ」に飛ばすのと、「家具のデザイン性を解説したLP」の2種類の導線を検証
結果:「家具の商品詳細ページ」は40%、「家具のストーリーを解説したLP」は60%の直帰率だった。
この数値から見た仮説としては、バナーを見て流入してきたユーザーは家具のデザイン性についての詳しい情報が知りたかった訳ではなく、商品のサイズ感や利用シーンなどを見たかったのかもしれません。
キャッチコピーのクリック率が高かったからと言って、安易にそれに関連するLPに流入させるのではなく、ユーザーが求めている情報をきちんと分析した上で最適な情報を提示してあげましょう。
タスク成功率
タスク成功率とは、定義したタスクが正しく実行された割合の事です。「タスク試行数 ÷ タスクを正しく遂行できた数」で求められます。フォームや購入など、明確なタスク成功の定義がある場合に用いる事ができます。数値化を行う際は、どのような行動を成功として定義するかを明確にしておく必要があります。基本的に、タスク成功率が高いほどUXは高いと言えます。
可能であれば、2回目以上の経験があるユーザーと比較するためにも、初めてタスクを実行するユーザーの成功率を測定する事をおすすめします。
例)10人のユーザーに「自社のECサイトを使って白い机と黒い椅子を2脚ずつ購入する」というタスクを与えます。
結果:
ユーザーの1人がクレジットカードの入力エラーでタスクを成功できなかった。
ユーザーの2人がサイト上で指定の机を見つけられず、タスクを成功できなかった。
この場合、タスク成功率は以下のように計算されます。
7/10 = 0.7 x 100 = 70%
このタスク成功率が低ければ低い程、多くのユーザーが離脱している事になります。重要なKPIに紐づいている場合、明確な離脱ポイント表す指標となるため、とても重要な指標になります。
タスク処理時間
タスク処理時間とは、ユーザーがタスクを正常に完了するのに必要な時間(分単位、秒単位)を平均化したものです。タスク成功率と同じく、明確なタスク成功の定義がある場合に用いる事ができます。基本的に、タスク処理時間が短いほどUXは高いと言えます。
例)10人のユーザーに「トップページからお問い合わせチャットを開いてください」というタスクを与えます。
結果:
ユーザー1(12秒)、ユーザー2(8秒)、ユーザー3(6秒)、ユーザー4(20秒)、ユーザー5(11秒)、ユーザー6(32秒)、ユーザー7(10秒)、ユーザー8(8秒)、ユーザー9(10秒)、ユーザー10(6秒)
この場合、タスク処理時間は以下のように計算されます。
(12+8+6+20+11+32+10+8+10+6)/10 = 12.3秒
この場合、時間が長ければ長いほど、お問い合わせチャットに辿り付けず離脱している可能性が高くなります。より見つけやすい位置にチャットアイコンを配置するなどの対策が必要かもしれません。
タスク成功率とタスク処理時間は、ユーザーの行動をレコーディングできる Lucky Orange 等のツールを使って計測する事も可能です。
ネットプロモータースコア(NPS)
ネットプロモータースコアは1つの質問から顧客満足度とロイヤリティを測るものです。
「あなたが友人や同僚にこのサービスを推薦する可能性はどのくらいですか?」という問いに対し、ユーザーはこの質問に(非常に可能性が低い:0)から(非常に可能性が高い:10)までの尺度で答えます。回答は3つのカテゴリー「推奨者」「中立者」「批判者」に分類され、アンケートの実施人数は100人以上が好ましいとされています。
批判者:0~6
中立者:7~8
推奨者:9~10
ネットプロモータースコアは「(推奨者数 – 批判者数) ÷ 回答者数」で計算されます。この時、中立者の数値は計算には入れません。
例)100人のユーザーを対象にアンケートを実施しました。
結果:批判者(0〜6)が20人、中立者(7〜8)が20人、推奨者(9〜10)が60人
この場合、ネットプロモータースコアはこのように計算されます。
(60 – 20) ÷ 100 x 100 = 40%
この数値はサービスの機能を切り出した観察ではなく、サービス全体を通した体験の価値を定量化できるので、定期的に振り返る事でプロダクトの問題やその要因を早期察知できます。
再訪率
再訪率とは、一度訪問してくれたユーザーが再度訪問した割合です。再訪率はそれ自体がKPIになる事も多々あり、UXを追う上で最も重要視すべき指標の一つです。「一定期間のリピート顧客数 ÷ 累計新規顧客数 × 100」で求められます。どれだけのユーザーがロイヤリティ化し、リピートしてくれているかを可視化できる数字です。再訪率を上げるにはまず顧客体験の向上を図った上で定期的なコミュニケーションを行う事が重要です。
例)今月からメルマガを導入し、先月と今月の再訪率を比較
結果:先月(28.4%)、今月(41.2%)
上記の数値の仮説としては、メルマガを導入した事で定期的なユーザーへのコミュニケーションが可能となり、再訪率の向上を行えたようです。このコミュニケーションの頻度も多すぎると肝心なUXを損なってしまうため、適切な頻度を仮説検証を繰り返し、探る事が重要です。
UGC数
UGCとは、User Generated Contentsの略でユーザーによって生成されたレビュー等のコンテンツを指します。UGC数はSNSやブログ、レビューサイト等の媒体にて、エゴサーチボットなどを活用して計測しましょう。全てのUGCコンテンツを漏れなく計測するのは難しいかもしれませんが、なるべく網羅的に計測できる体制を整えましょう。
例)1月〜6月の月別のUGC数の経過を計測
結果:1月(23件)、2月(25件)、3月(30件)、4月(44件)、5月(72件)、6月(124件)
上記の数値を見た所、1月から3月までのUGC数にはほとんど変化が見られないのに対し、4月以降のUGC数は指数関数的に増えています。4月以降にどのような施策を行ったか羅列し、UGCの内容から傾向を分析する事で施策との相関関係を推察できるでしょう。
UGC数を増やすにはUXの向上によりファンユーザーを増やした上で、投稿のしやすいきっかけを作る事が重要です。屋外広告などはSNS投稿を増やす上で有効な施策となり得るでしょう。
このように、UXデザインの数値化を行う事で課題の解像度を上げ、角度の高い仮説とその対策を講じられるようになります。皆さんも本稿を参考にしながら、自社のケースに合わせて流用できそうなものをピックアップして使ってみてください!以下の記事でUXデザインや設計プロセスについて詳細に解説していますので、こちらも参照することでより効果的な使い道が見つかるのではないでしょうか。ぜひお読みください。
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