どんなにプロジェクトをスムーズに進めていても、それがクライアントの期待に沿っていない、あるいは伝えたいことが正しく伝わっていなければ、意味はありません。プロジェクトを顧客満足度を向上させつつ円滑に進行させるためには、クライアントとのコミュニケーションが特に重要です。そして、ここでキーとなるのが「ストーリーライン」の構築というわけです。
この記事では、クライアントとのコミュニケーションや合意形成を行う上で、ストーリーラインの構築がいかに重要か、具体的な方法や事例を交えて解説します。
目次
ストーリーラインとは
ストーリーラインとは、「どのような情報をどのような流れで伝えるか」「結論に至るまでのメッセージの流れ」のことを指します。クライアントと合意を形成するシーンや、提案を行うシーンなど、それぞれの場面ごとで聞き手にどんな状態になっていてほしいかを明確に設定し、それを達成するためのストーリーラインをPMは設計していくことになります。
このストーリーラインの構築力によって、クライアントの満足度や、意思決定にかかる時間、そしてプロジェクトの進行の円滑さが大きく左右されます。
ストーリーラインの構築方法
それでは、実際にどんな手順でストーリーラインを構築していくと良いか見ていきましょう。
【ストーリーライン構築までのステップ】
1. ゴール状態を設定する
1-1 聞き手は誰か?を解像度高くイメージする
1-2 聞き手をどのような状態に持っていくかを言語化する
2. どのような情報を、どのような流れで伝えるかを整理する
2-1 流れを作る
2-2 意味が通じるか確認する
1-1. 聞き手は誰か?を解像度高くイメージする
まずはストーリーラインを届ける相手の解像度を高く持つことから始めます。優れたストーリーラインを作るには、聞き手とっての「良い」を知ることが重要です。
同じストーリーラインでも聞き手が違えば、当然受け取り方も違います。まずは聞き手のことをよく理解し、聞き手に良いと思われるストーリーラインを作成していきましょう。具体的には、聞き手の立場、聞き手のリテラシー、背景知識、これまでのコミュニケーションなどの前提を踏まえ、どのような情報提供が求められているのかを整理するところから始めましょう。
【聞き手の解像度を高められる問い】
・どういう立場にいるのか
・どういうことに興味があるのか
・どんなことを求めているのか
・専門的な知識をどれくらい理解しているのか
・これまで、どのような情報を共有してきたか
1-2. 聞き手をどのような状態に持っていくかを言語化する
聞き手の解像度を高く持った上で、最終的に果たしたいゴール「聞き手にどう動いて(意思決定して)ほしいか」というゴールを設定していきます。
ここでよくある間違いは、ゴールを「こちらが伝えたいことを理解してもらう」と設定してしまうことです。理解してもらった後聞き手にどうしてほしいか?まで設定することで、プロジェクトを正しい方向へと進めていくことができます。
具体的には、合意をもらいたいのか、聞き手に動いてもらう必要があるのか、聞き手が疑問点を解消できているのか、といった形でゴール状態を定義します。ゴール設定はなるべく具体的に記載しましょう。
2-1. ストーリーラインの流れを作る
聞き手の解像度とゴール状態が明らかになってきたところで、いよいよストーリーラインを作成していきます。
ただ、いきなりストーリーラインを検討するのではなく、まずは設定したゴール状態を達成するための要件を整理し、必要な情報を揃えることから始めましょう。
例)クライアントとのペルソナの合意形成がゴールだった場合
作成したペルソナの可否を判断するために、プロジェクトにおけるペルソナの要件が明確になっていて、なおかつ必要な属性情報が検討できている状態
ゴール達成のための要件とそのために必要な情報整理が完了したら、いよいよストーリーラインの流れを検討していきます。流れを作る方法としては大きく2つあります。1つは「ストーリーラインの型を使う」方法と2つは「ゴールから逆算して地道に組み立てる」方法になります。
方法1:ストーリーラインの型を使う
1つ目の方法はストーリーラインの型(テンプレート)に当てはめながら作成する方法です。 型に当てはめながらストーリーラインを作成することで、慣れていない人でも話の流れに一定の説得力を持たすことができます。 最初のうちはこれから紹介する型を意識しながら作成すると、良いストーリーラインを構築するスピードが上がると思います。ストーリーラインの型としては大きく以下の3つがあります。
【未来提案型】
課題(問題提起)→ 未来(目指すべき姿)→ 実現案
【問題解決型】
問題提起 → 要因分析 → 課題解決型
【営業提案型】
結論 → 問題提起 → 解決方法 → 信頼醸成 → 安心 → 行動
上記の型の中でも営業のシーンで提案を行う際に一番使いやすいかつ先方に納得感を持たせることができるのが「未来提案型」です。
ゴール状態を踏まえ、持ち合わせている情報を上記の型に当てはめながらストーリーラインの流れを作成してみてください。 ただし、上記のテンプレートは営業やクライアントワークにおける提案シーンで役立つテンプレートになっています。プロジェクトが始まってからの中間成果物の説明や、戦略立案時の合意形成などにはあまり向いていないので、その場合は次に紹介する方法でストーリーラインを構築していきましょう。
方法2:ゴールから逆算して地道に組み立てる
次に紹介するやり方がゴール状態から逆算してストーリーラインを考える方法です。
この方法で重要になってくるのが、「聞き手が問いそうな問い」を予想するために、聞き手を明確にイメージすることです。そのためにも、聞き手はここまでにどのような前提知識を持っていてどのような内容を期待しているのか?を事前に把握して設計を進めていきます。
2-2. 意味が通じるか確認する
次に、一つ一つのストーリーラインの流れが違和感なく筋が通っているかを確認していきます。スライド資料の場合は、各スライドのメッセージが結論まで飛躍がなくつながっていることを確認するイメージです。確認する方法としておすすめなのが、スライドごとのメッセージを矢印で繋ぎ、「(スライド1)だから、(スライド2)だ。」と声に出して読んでみる方法です。
また、ストーリーラインを構築して満足せず、改めて相手に伝えるシーンをシュミレーションするのも重要です。その中で、論理の飛躍や聞き手にとって不親切な伝え方などの改善点を見つけられると思います。
ストーリーライン作成に集中していると、全体で見た時にわかりやすいかどうかの視点が欠けがちです。ストーリーラインが一通り完成したら必ず上記のような、あるいは以下の例のような最終チェックを行い、全体の流れに違和感がないかを確認しましょう。
出典:「プレゼン思考」-小西利行-(かんき出版:2021)
また、作成した資料の内容を客観的に見直す中で、聞き手が疑問に思うであろう点を事前に予想し、それに対するカウンタートークの準備をしておくと、柔軟な議論がしやすくなります。
その場の目的を達成できるストーリーラインを構築できるようになることが重要な一方で、実際のクライアントワークでは1回話して終わり、というわけにはいきません。話をした上で、先方が気になるポイントを柔軟に議論しながらその場を進行していくことになるのが常です。柔軟なファシリテーションや議論に不安を抱えている時こそ、できるだけ事前に聞き手が気になりそうなポイントや、その時の対応までシュミレーションをしておくことをおすすめします。
まとめ
今回は実際にクライアントワークにおけるストーリーラインの構築方法について具体的に解説を行ってきました。前提、ストーリーラインの構築力は実際に場数を組むことによって力がついていくものです。加えて、聞き手の特徴やプロジェクトの特性によってもストーリーラインの何を重要視すべきか異なってきますので注意しましょう。
本記事で取り上げた内容は基本的な例に過ぎませんが、聞き手にとって「良い」ストーリーラインを作り上げられるヒントになりましたら幸いです。