『 時代は「モノ消費」から「コト消費」へ 』、聞いたことがあるのではないでしょうか?
今の時代、「モノ」があふれています。なので、“人々が本当に求める”「モノ」でないと選ばれることが難しくなっています。さらに、人々は「モノ」に飽き、「コト(体験)」を求めています。ですから、「モノ」を作るには、人々が求める「コト」を考え抜いたうえで、「モノ」を作る必要がでてきているわけです。
そんな中、ユーザーを中心に考えるデザイン思考・UXデザインが大切だ、といわれるようになってきました。
しかし、それが一体どんなものか大体はわかるけれど、もう少し具体的にプロセスや手法を知りたい・ビジネスに貢献するのかどうかを知りたいという方がいらっしゃるのではないでしょうか?
そんな方に向けて、身の周りでよく使われているものを事例で挙げながら、解説したいと思います!
目次
UXデザインとは
まず、UXデザインの「UX」とは、「USER EXPERIENCE」(ユーザー・エクスペリエンス)の略のことで、そのまま「ユーザー体験」という意味です。
そして、UXデザインの「デザイン」とは、「設計」という意味です。日本ではデザインといえば見た目(表層)を整えるイメージが強いですが、本来は設計することがデザインになります。
つまり、「UXデザイン」とは、「ユーザー目線でビジネス設計すること」です。

ユーザー体験を設計する、とはどういうことかというと、ユーザーが利用する前から、利用おわりまでを考えて、モノ・サービスを設計するということです。
例えば、宅配サービス「amazon」で本を買うケースでいうと、本屋さんで買うのかオンラインで買うのかを考える、というところから体験はもう始まっています。そして、実際に本が家に届いて、読み終えて、その感想を書くというところも体験に含まれるわけです。

ですから、amazonを選んでもらえるよう、送料無料にしたり、感想を書き込めるように口コミ欄を設けています。はたまた、欲しいものが売り切れていたとしても、在庫が入った時にメールで通知を送るなど、購入体験を充実させています。
UXデザインとデザイン思考の関係
UXデザインとは、ユーザー体験を設計することでした。
そして、デザイン思考とは、人間中心設計を基本にユーザーの問題解決をしていくデザイナー的思考のことです。
- 人間中心設計とは、ユーザーを中心に考えるということ
- デザイナー的思考とは、作るプロセスにおいて、「一度で完璧なものを作り上げよう」ということではなく、「何度も作り直してより良いものを作っていこう」という方法・思考のこと
ですから、デザイン思考とは、ユーザーを中心に考え、より良いものを作り上げていく姿勢や方法という意味です。

つまり、デザイン思考という考え方で、ユーザー体験を設計することがUXデザインというわけです。別の言い方をすると、『デザイン思考という道具をつかって、UXデザインをする』、ということです。
UXデザインが必要となってきた背景
UXデザインが必要となってきた背景を説明するために、
そもそも、どうして「モノではなくコトの時代」と、言われるようになったかを、まずお伝えします。
戦後にさかのぼると、当時はとにかくモノが不足していたので、大量生産でとにかくたくさんのモノが作られました。企業は競い合い、よりよい「機能」をもった商品が生み出され、人々の生活は豊かになりました。

テレビでいうと、より大きくて、薄くて、画質がきれいなものが生み出されたわけです。機能がますます向上する一方で、使い方があまりわからなかったり、もはや使わない機能までが備わるようになりました。わかりやすい例を挙げるなら、高価で高性能すぎるテレビと、安くて必要な機能だけが備わっているのテレビだと、どちらが必要とされるのでしょうか?
答えは明らかですよね。大切なことは、「ユーザーのニーズに応えるものこそが売れる」ということです。
また、しっかりマーケティングすることが必要になります。
別の例を挙げると、有名な話ではありますが、ドリルを買うお客さんはドリルが欲しいわけではありません。
“ 穴 ”が欲しいのです。どれだけ見た目がいいドリルを作ったところで、売れません。
より良いドリルを作るのなら、難しい説明書を読まなくても簡単に使えるものや、使いやすいように軽くしたもの、あるいは安全に使える、といった風に、ドリルを使う一連の行動の中で使い勝手がいいものを目指した方がいいわけです。

まとめると、モノの「機能」が良くなることで忘れられている、当たり前のことを思い出してください。
それは、「モノ」は「コト」のための道具なのです。ですから、あらためて、使う人がどんな「コト」をしたいのかを正確に知ること。その上で、その一連の「コト」の中で使いやすいよう「モノ」を設計することが、最も「モノ」を作るうえで大切なことなのです。
ユーザーのニーズをとらえて、そして体験まで設計すること。こうした徹底的にユーザーのために作る姿勢が、まさしくデザイン思考・UXデザインなのです!
「UXデザイン×ビジネス」が必要
とはいえ、ユーザーのためを追求すれば、究極的には「無料の」サービスとなってしまいます。それではビジネスにはなりません。ビジネスである以上、UXデザインも事業・サービスの成長に貢献する必要があります。

例えば、Wikipediaは無料でユーザーが読みたい内容を公開し、本当にユーザーのためのものとも言えますが、寄付でなんとか成立しているのが現状です。ビジネスとして、ビジネスモデル・仕組みを作る、という見方もできるとも思います。
ユーザーにとっても、ビジネスサイドにとっても、良いものを追求することが大切だと思います!
ビジネスに貢献するUXデザインの事例
任天堂スイッチ

DS(ディーエス:ゲーム機)時代のゲームは、遊びの輪の中に入るためにはDSを持っている事が必須なゲームが多く、ゲームを買ってもらえない家の子どもが、遊びの輪の中には入りづらい、なんてことが懸念されていました。
また、スマートフォンが登場してからは、気軽に遊びたい人はスマホゲームを、ゲームをやりこむ人はプレイステーション4やパソコンで遊ぶという「ゲーム人口の2極化」の状況がすすみ、任天堂の商品が以前よりは使われなくってなっていました。

さらに、1つのゲームで色んなことができるゲームの多機能化も進む中で、あらためて、ニンテンドースイッチも同じ多機能化を目指すことの是非から考え直したそうです。
その結果、たどり着いた答えが“ゲーム機なので、ゲームで遊ぶに特化しよう”と、原点回帰した実にシンプルなものでした。さらに、家で据え置くタイプのゲームと、持ち運べるゲームの良いところをとって、2つの分離式コントローラ「ジョイコン」を使って気軽に2人プレーを楽しめるものとなりました。
さらに、ストレスを感じさせないことを目指して、
- 圧倒的にわかりやすく「明快」にする
- 圧倒的にはやく「軽快」にする
の2点をコンセプトに定めたようです。ちなみに、「簡単そう」に思わせるために、
- 混ぜない
- サイズと密度
- 上下の意識
- 少なく見せる
という工夫が施されました。ポイントは、“整頓とメリハリ”をつけること。これは、デザインの4原則とよく似ていることがわかります。
まとめ
- 競合の製品が続々と誕生
- あらためて、自分たちの製品の独自の「強み」に特化する
- 「弱み」を克服するアイデアをコンセプトに盛り込む
- さらに、ユーザーにとっての「使いやすさ」を徹底
- 世界中で利用される商品へ
参考リンク:
Nintendo SwitchのUX設計的な意味でグッときたところメモ #UX #設計 – mimemo
Nintendo SwitchのUIはなぜ使い勝手がいいのか!? 全員で体験し、“あたりまえ”を磨く任天堂のもの作り【CEDEC 2018】 – ファミ通.com (famitsu.com)
任天堂スイッチ、大ヒット商品開発の舞台裏 | ゲーム・エンタメ | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)
メルカリ

フリマアプリの「メルカリ」、世界でのダウンロード数が1億ダウンロードを突破しています。
「写真検索」という、便利な機能が2019年3月からリリースされました。
「たまたま見かけた、あの靴が気になる!」「欲しいんだけど商品名がわからない!」そんなときに、お客さんのカメラや写真データをもとに、1億点近くの出品データから見た目が似ている商品をメルカリ内で検索できるというものです。
開発のきっかけは、メルカリで機械学習を使ったお客様向けの機能をリリースしたいうことからでした。ユーザーによっては服をハンガーにかけた状態で撮影していたり、床に置いて撮影していたり、商品を特定するのは非常に困難でしたが、開発には成功しました。
ですが、社内メンバーから、「せっかく撮影しているのに、違う商品が検索されてしまうのは残念」とフィードバックをもらい、「再度、撮影してもらうのは、お客さまにとって本当にいい購入体験なのか?」と思い始めました。

開発費用はとても高いものでしたが、多くのユーザーにとってのよりよい体験を目指して、複数の商品が写っていたとしても、1つ商品を絞り込んで検索する機能も追加ですることになりました。
さらに、メルカリはUXデザインをとても大切にしている会社で、ユーザーインタビューを週に一回行っているそうです。この画像検索では、「『メルカリにこういった機能がある』と友だちに聞いたので、試しに使ってみる」という想定シーンを考えていました。

そこで「画像検索って言うんだっけ?」と妙に引っかかりました。なぜなら、Instagramを使う人は「この写真いいね!」とか言うからです。そこで、一般的な「画像検索」ではなく、メルカリユーザーの肌感に近い「写真検索」をいう名前にしたそうです。
まとめ
- よりよいUXのために機械学習を用いた機能「画像検索」の開発をスタート
- 開発後も、社内からのフィードバックをもらう
- 高コストではあったけれど、1つの商品を絞り込める機能を追加
- さらに、ユーザーインタビューから、名前を「写真検索」に変更
- ユーザーにとってよい体験を目指し続けることで、海外のユーザーからも支持されるサービスへ
参考リンク:
「欲しいけど、名前がわからない」を解決。メルカリ写真検索機能の誕生秘話 | mercan (メルカン) (mercari.com)
バルミューダの「BALMUDA The Toaster」

バルミューダの超高級トースター「BALMUDA The Toaster」。こちら、お値段が高価で、なんと30000円!ですが、大ヒットで販売数10万台となっています。
バルミューダのの社長の寺尾さんには「毎日食べているパンは絶対にもっと美味しくなる」という確信があり、開発コンセプトを『世界一のトースト』と決めてスタートしました。
まず、デザインチームが先行して試作品をつくって実験を始め、どんな技術を使い、どんなデザインのものをつくるか、デザイン案だけでまず約2000もの案が出されました。
さらに、毎日ひたすら実験を繰り返し、「焼き方の最適解」をもとめて、1年間に5000枚も焼いたそうです。「焼き色」「食感」「風味」の3つを五感で評価しながら、パンの枚数、厚み、庫内の余熱の有無、電圧などの条件が変化しても、同じ焼き上がりになるような制御を完成させて、ついに「最高の焼き方」を見つけたそうです。

また、販売では、HPにおいて、このトースターの性能をアピールする以上に、美味しいパンそのものにスポットライトをあてて紹介することで、しっかり「コト」がお客さんにアピールできるものになっています。
まとめ
- トースターではなく、『世界一のトースト』をみんなに食べてもらおうと、体験にフォーカス
- 何度もプロトタイピングを繰り返す
- さらに、その魅力をお客さんにしっかり伝える
- 高価であっても、広く受け入れられるプロダクトへ
参考リンク:
第85回 BALMUDA The Toaster /バルミューダ|成功の本質|リクルートワークス研究所 (works-i.com)
「モノ」を売らずに「体験」を提供することで情緒的価値を生み出す 〜「ドヤ家電」バルミューダのトースター〜 | BRANDINGLAB – ブランディングラボ (is-assoc.co.jp)
おわりに
まとめると、
- UXデザインとは、「ユーザー体験を設計すること」
- 大量生産や機能重視の時代がおわり、いまは本当に必要なものじゃないと売れにくい時代
- あらためて、「モノ」は「コト」のための手段・道具であることを忘れない
- だから、まずは、ユーザーが求める「コト」を正確に理解することが大切
- 一方で、UXだけを重視するだけでなく、ビジネスである以上、ビジネスとして成立する仕組みをつくる必要もある
- 任天堂・メルカリ・バルミューダといった多くの人に利用されているサービス・商品を生み出す企業は、UXデザインができている
以上、成功事例を通じたUXデザインの紹介でした。新規事業やリニューアル・リデザインの際に、ぜひUXデザイン・デザイン思考を取り入れてみて下さい!