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CMOはもう古い?グローバル企業の「CMO廃止」の潮流からマーケティングの未来を考えてみた

グローバル大手企業による「CMO廃止」の波はどこに行き着くのでしょうか?

2024年4月、DIGIDAY[日本版]が公開した記事に注目が集まりました。「世界の大手企業で起きている CMO 廃止。混乱が意味するのはマーケティングの「進化」か」という記事では、同年3月に米スターバックスがグローバルCMO(チーフマーケティングオフィサー)を廃止したことが取り上げられています。CMOの役割がどう変わっていくのかや今後の課題についても触れられています。

CMOに求められる役割の変化とは、マーケティングの変化とも言えるかもしれませんね。そこで、いくつかの研究内容やレポートを参考にしながら、CMO登場の歴史を振り返りながら、マーケティングの役割や日本企業におけるCMOの変遷、今後のマーケティングに求められる変化についてまとめてみました!

広くマーケティングに携わる皆さんと一緒に、マーケティングの未来について考える機会になれば嬉しいです。

“異端者”だったCMOは、20年かけて着実に日本企業へ普及した

企業におけるCMOの役割がアメリカで議論されるようになったのは、1980年代のことです。公表されたCMOに関する最も古い研究論文(Neal Gilliatt , Pamela Cuming, 1986)のタイトルは「時代が来た異端者」でした。

「異端者」という言葉から、開発や営業、財務や会計といった企業のベーシック機能と比べて、マーケティングが曖昧に捉えられていたことがわかります。その証拠に、その後のアメリカでは、研究者や経営者、マーケティング従事者の間で、CMOの定義や企業価値向上への貢献度合いなどが賛否両論を持って議論されてきました。

一方、日本でCMOについて早くにまとまった見解を発表をしたのは、マーケティング研究の第一人者、一橋大学経営管理研究科教授の神岡太郎氏が率いる研究チームです。同チームの2006年度調査によると、米フォーチュン1000社のうちCMO設置は47%、日本の設置は5%弱と推定されました。日経225社に絞れば、CMOを設置している企業はたったの4社(1.4%)だったとのこと。

日本におけるCMO設置の議論が加熱したのは、2010年代に入ってからでした。

2013年には、日本マーケティング協会主催の「コトラー・カンファレンス2013」が開催。当時のビジネスメディアを調べると「コトラーが日本企業へのCMO設置を推奨した」という趣旨の記事が並びます。先の神岡氏が、海外と日本のマーケティングを比較して日本企業の構造的課題を示した著書「マーケティング立国ニッポンへ」が発刊されたのも2013年です。

そうした流れのなかで、日本企業におけるCMO設置は徐々に広がりを見せました。

日本マーケティング協会による2019年度調査レポートでは、定義(執行役員以外を含めるかどうか)によって変動はあるものの、当時の上場企業3707社のCMO設置率は8〜11%と推測。同レポート内では、CMO設置によって売上増収効果があったことも示されているんです。

また、日経クロストレンドは、“マーケティングに力を注ぐ企業300社”を対象とした2024年の独自調査の結果を「CMOなどの役員または執行役員がいる企業は33.6%」と発表。アメリカとの差は依然大きいものの、日本のCMO設置数は、この20年あまりで着実に増えてきたのです。

出典:日経クロストレンド

CMOには「より少ない予算で、より多くの役割」が求められるように……。

ところが、近年CMOの存在意義を問うような動向が見え始めています。

その一つが、冒頭でも紹介したグローバル大手企業によるCMO廃止の流れです。スターバックスやジョンソン・エンド・ジョンソン、ウーバー、ハイアットなど多くのグローバル大手企業が、この数年でCMOを廃止しています。CMOは企業に価値をもたらさないと主張する研究者も出てきました。

要因になっているのは、CMOとCxO(経営層)間の分断にあるのかもしれません。

2023年8月にPWCが米国経営幹部に向けて実施したパルスサーベイによると、「マーケティングの価値を経営マネジメント層が理解している、と強く思うCMOは54%」でした。また、「他のCxOとの間で有意義な関係を構築できている、と強く考えるCMOは49%」でした。約半数のCMOが他のCxOとの連携に課題を抱え、かつマーケティングの企業価値への寄与を理解できるように伝えられないのだとすれば、CMO廃止の動きが加速してもおかしくありませんね。

さらに、CMOを苦境に立たせるものとして、グローバル市場でのマーケティング予算の削減が起きています!

世界最大規模のICTリサーチ&アドバイザリ企業であるガートナーが、2019年から欧米企業向けに毎年行なっている調査によると、「総収益に占めるマーケティング予算の割合」は、減少傾向にあることがわかりました。コロナ過を機にマーケティング予算は大幅に削減され、一度は回復したものの、その後2年連続で減少しています。

出典:ガートナー (2024 年 5 月)

CXやDXの推進、AI活用など対応すべきイシューは多様化しているにもかかわらず予算が減っているということは、「より少ない予算で、より多くの役割」を求められるようになったということです。

「CMO廃止」が意味しているのは、マーケティングの再定義か?

こうした動向を見ると「CMOは時代遅れになったのか」という認識を持つかもしれません。しかし、先のDIGIDAY[日本版]の記事内では、メタフォースのブランドコンサルタント兼共同創設者、アレン・アダムソン氏の冷静な見解を紹介しています。

「CMOはある意味、マーケティングが主にマーケティングコミュニケーションだった時代につくられたもので、1人で全世界の仕事を担うことができた。(今起きていることは)CMOの重要性が低くなっているというより、CMOの仕事が多すぎて、大勢で分担しなければならなくなったということだ」(アレン・アダムソン)

つまり、企業のマーケティング全体を統括するCMOの機能が重要であるのは変わりませんが、求められる役割が多様化したため、組織で分担する必要が出てきたということです。実際、スターバックスによるCMO廃止のリリースには「地域ごとにマーケティングを強化するため」と書かれていました。

また、最近ではDX推進を担うCDIOや、ブランディングを統括するCBOなど、一昔前はCMOが統括していてもおかしくない領域を専門的に扱うCxO職が増えています。マーケティング先進国のアメリカは、より企業価値を向上するマーケティングを実施するために、CMOの役割の再定義と、組織の再編成を進めているように見えますね。

マーケティングの未来をつくるためには、原点回帰が必要かもしれない

このような動きを踏まえ、これからのマーケティングを考える上で欠かせないテーマを以下の3つにまとめてみました!

1.  自社の企業価値を向上するためのマーケティング戦略を再定義する

事業モデルや市場環境に応じて、必要とされるマーケティングは異なります。DXやAI活用などのテーマすべてに潤沢な予算をかけることは難しいからこそ、改めて「自社の企業価値向上に直結するマーケティング戦略」を見直し、再定義するタイミングが来ているのではないでしょうか? PWCのパルスサーベイを参考にすれば、経営層がマーケティングの理解を深めることや、CMOが他CxOとの関与を深めることが、その一歩となるのかもしれません。

2. 外部リソースの活用も含めた、マーケティング組織の再編成

必要なマーケティングを再定義した上で、それを実行する最適な組織をつくる必要があります。これまでCMOだけで担っていたものを専門分野ごとに役割分担し、より効率的に動ける体制を作れるかどうかが大きなテーマになります。自社内にすべてのリソースがそろわない場合は、外部リソースの活用も必要になってくるでしょう。その際のポイントは、CMOを設置しない(廃止する)にしても、全社のマーケティングに横串を通す機能は持っておくことだと思います。個別最適なマーケティングに陥らないことが大切だと思っています。

3. 組織全体のマーケティング思考の底上げ

CMOとCxOの連携強化や、全体最適なマーケティングの実行、外部リソースの適切な活用のためには、組織全体のマーケティングに対する理解度を高めることが課題となります。顧客起点で考えるための思考力やベーシックなスキルなどを底上げすることで、戦略実行の効率は高まります。CMO廃止、そしてCMO機能の分散の流れは、マーケティング思考が一部の人だけではなく、働く全員に必要になってきたことを示しているのではないでしょうか。

DXやAI活用、SNSマーケティングや顧客起点の強化など、マーケティング領域で語られている最新潮流を追うことも大事ですが、変化の激しい時代こそ「原点回帰」が大事なのかもしれませんね。まず基本に立ち帰り、自社の強みや価値を再確認し、それに基づいた戦略の構築と実行体制の整備、全社のマーケティング思考の底上げによって、表面的ではない新しいマーケティングが見えてくると思います。

今後もセブンデックスでは、業界動向のリサーチや先駆企業の取材を通して、広くマーケティングに携わる皆さんと一緒にマーケティングの未来について考えていきたいと思います!

学生起業を経て、株式会社ZIZAIでYouTube関連の新規事業開発に従事。その後、フリーランスでPM・UIデザイナーとして、ソウゾウなど複数のスタートアップやベンチャーを支援。事業戦略からグロースまで一貫して行う事業に共感し、セブンデックスにUXデザイナー/PMとして入社。上場企業のブランディングプロジェクトのPMなどを担当。社内では新規サービスの立ち上げの責任者も担っている。