最近、SNSやYouTubeで「企業の世界観」や「ブランドの想い」を映像で伝える機会が増えています。中でも注目されるのが“ブランディング動画”。商品紹介やCMと異なり、「なぜこの会社が存在するのか」「どんな価値を届けたいのか」といった本質を物語として描きます。
とはいえ、「ブランディング動画とは?」「企業PR動画と何が違うの?」という疑問もあるはずです。
本稿では、その基本的な意味から制作プロセス、得られる効果、成功事例までを要点に絞って解説します。動画でブランド価値を高めたい方の手引きとしてご活用ください。
目次
ブランディング動画(ブランドムービー)とは?
ブランディング動画は、機能や価格の説明ではなく、企業・ブランドの理念や世界観、社会への約束を物語として伝える映像です。短期の購入喚起より、中長期の認知・好意・信頼の醸成を目的に、コーポレートサイトや採用ページ、YouTube・SNS、イベントなどで活用されます。プロモーション動画やCMが「今すぐ選ぶ理由」を訴求するのに対し、ブランディング動画は「このブランドは何者か」を一貫したトーンで示し、共感にもとづく関係を築きます。評価もCVRだけでなく、視聴完了率やエンゲージメント、想起・指名検索、採用応募の質などブランド資産の指標が中心です。誰に何を感じてほしいかを定め、表現と体験を統一して継続運用することで、ブランドの土台が強化されます。
そもそもブランディングとは?
ブランディングとは「企業や製品のアイデンティティを定義し、そのイメージを構築・管理するプロセス」です。どのようなイメージを持ってもらいたいか戦略を立てるところから始まり、そこからロゴや広告、アプリ、パッケージなど、さまざまな接点に戦略を落とし込んで行きます。「その企業のらしさ」をイメージできるようになることで、ブランドは戦略通りの確固たるブランド像を獲得することができます。
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ブランディング動画の活用シーンとは?
テレビCMやHP・SNSなどの広告
テレビCMは「最初の一声」。細部より感情と姿勢を一瞬で感じ取らせ、ジングルやタグラインを“合図”として日常で思い出させます。自社HPは“公式の記憶装置”。常設動画で同じ物語に辿り着ける状態を保ち、直下にステートメントや問い合わせ導線を添えて行動へ橋渡しします。SNSは“会話の入口”。同じ核メッセージを短尺の断片に変奏し、YouTubeは気づきの提示、Instagram/TikTokはスクロールを止める余白や表情を前面にします。つまり、伝えることは一つ、接点ごとに「思い出す/確かめる/誰かに渡す」の役割を配役し、露出を関係の質へ変えていきます。
採用活動
採用でのブランディング動画は、候補者に「ここで働く感触」を先回りして渡すための媒介です。理念やカルチャーを言葉だけでなく温度ごと翻訳し、日常の空気感や意思決定の基準、チームの関係性を疑似体験として届けます。説明会では“世界観の入口”として期待値を整え、職種案内では「何を大切にして仕事を進めるのか」を判断の軸ごと可視化できるなど様々な観点で活用することが可能です。さらに入社後はオンボーディング動画として再利用し、外向けの物語と内側の体験をつなげます。つまり、単に応募を増やす道具ではなく、「共感→理解→参加」の連続性を設計する装置として活かすのが本質です。
インナーブランディング
社内向けのブランディング動画は、抽象的な理念を「日々の判断基準」に変える媒介です。トップのビジョンを現場のエピソードで結び、意思決定や顧客対応の“らしさ”を具体的に示します。全社集会のオープニングや制度変更時の背景説明、オンボーディングの初週に組み込むことで、納得と自走を促進させたり、社内SNSや朝会での再生、マネジャー研修での議論素材として循環させれば、部署横断の共通言語が育ちます。動画を“合図”に対話と実践が連鎖する状態をつくることに利用できます。
ブランディング動画で期待できる3つの効果
ブランド認知度の向上
ブランディング動画は、テキストや静止画より短時間で「どんなブランドか」を直感的に伝え、初見のユーザーにも強い第一印象を残します。映像・音・言葉が一体となった体験が記憶のフックを増やし、名前だけでなく世界観まで思い出されやすい状態をつくる効果があります。さらに、同じ核メッセージをTV・OOH・YouTube・SNS・自社サイトへ展開しやすく、接点ごとに最適化して露出を重ねるほど想起が積み上がります。結果として、新規接点での到達と“思い出されやすさ”を同時に高め、後続の施策につながる土台を形成します。
顧客ロイヤリティの向上
ブランディング動画は、満足を「愛着」へ引き上げる接点です。購入前の期待だけでなく、購入後の体験や関係性を物語として再確認させ、「このブランドと付き合い続けたい」という動機を強めます。創業の想い、開発者の視点、顧客の実例を短編で継続発信すれば、価値観の共有が進み、選ぶ理由が日常の中で更新されます。会員向けメッセージや使いこなしのストーリー、コミュニティ参加の呼びかけに動画を組み込むことで、所有すること自体が小さな誇りとなり、再購買や推薦行動へつながります。
他社との差別化が狙える
ブランディング動画は、機能や価格では伝わりにくい「らしさ」を物語として可視化し、模倣されにくい差別化を生みます。思想や意思決定の基準、つくり手や顧客のリアルなエピソードを示すことで、同等スペック比較の場面でも“思い出される理由”をつくる効果があります。さらに、色・音・モーション、タグラインなどの固有資産を一貫して反復すれば、カテゴリー内での輪郭が際立ちます。素材や品質哲学、サステナビリティ、コミュニティの熱量といった“固有の証拠”に光を当てるほど、代替されにくい選好が育ちます。
ブランディング動画の5つのメリット
顧客の共感を得やすい
ブランディング動画は、理念や価値観を“説明”ではなく“体験”として届けられます。社員や顧客のエピソード、現場の空気感、意思決定の背景を映像化すると、視聴者は自分の経験に重ね合わせて理解でき、好感が「自分ごと化」した共感へと進みます。言葉と映像のあいだに余白を残すことで内省が促され、コメントや共有など能動的な反応も生まれやすくなります。
伝播性が高く拡散が狙える
感情の起伏を伴う動画は、保存・共有の動機を生みやすい形式です。メイン動画からティザー、縦型ショート、名場面クリップへと派生させ、プラットフォームごとに冒頭数秒のフックを最適化すれば、自然な二次拡散が起きやすくなります。オウンド配信で初速を作り、広告配信で接触を増やしたうえでオーガニック拡散へつなげる運用が有効です。
伝えたい情報や価値観をシンプルに届けられる
複雑な概念も、比喩的な映像と最小限のコピー、テンポのよい編集で“一本のメッセージ”にまとめることができます。工程の連続ショットや図解的カットで抽象を具体化し、色・音・言葉のモチーフを繰り返すことで解釈のブレを抑制するなどすると、専門知識の有無に関わらず、短時間で要点が直感的に伝わります。
興味を持たせ印象に残りやすい
最初の3〜5秒で「何の物語か」を明確に示し、以降は期待を上回る展開と固有の視覚・聴覚モチーフを反復します。これにより、視聴後も思い出しやすい“記憶の手がかり”が増え、比較検討の場面で想起される確率が上がります。短尺と中尺を接点に応じて使い分け、同テーマを多角的に見せると印象はさらに強化されます。
企業に権威性を持たせられる
高品質な制作と一貫した語りは、専門性と信頼性のシグナルとして機能します。研究・開発の裏側や品質基準、第三者評価(受賞・監修・監査など)を物語に織り込めば、主張が“証拠”として受け取られます。継続発信によって、企業は単なる情報発信者から“その領域の参照点”へと位置づけが高まり、採用・営業・広報の各接点で好循環が生まれます。
ブランディング動画制作における大事な3つのポイント
視聴者の共感を得やすくする
共感の核は「情報量」ではなく、体験として腑に落ちる設計です。まず伝える核心を一文で定め、その価値が立ち上がる具体的な場面に焦点を当てます。言葉で説明しすぎず、表情・手の動き・環境音など非言語の手がかりに意味を担わせると、視聴者の記憶と自然に結びつきます。併せて、ビジュアルと音のトーン、コピーの語感、編集の間合いをブランドの“らしさ”と整合させ、接点が変わっても同じ肌触りに着地させることが重要です。想定視聴環境とアクセシビリティを担保し、結びは強い誘導ではなく短いタグラインと余白で受け手の解釈を許容するなどこの積み上げが好意を持続する共感へ変換します。
コンセプトと作品内容を一貫させる
強いブランディング動画は、最初に定義したコンセプトが脚本・キャスティング・美術・音・編集リズムまで貫通しています。核となる一文を先に決め、各要素がその一文に奉仕しているかを制作過程で都度検証します。たとえば、登場人物の動機や台詞、色設計や照明、サウンドモチーフ、カメラ距離やテンポは、すべて同じ“感情曲線”に沿っている必要があります。逆に、見栄えは良くてもコンセプトに寄与しないショットは「キルリスト」に入れて削るなど、この取捨選択が一貫性を生みます。
目的と伝えたいメッセージを明確にする
「何のために、この一本を観てもらうのか」を一文で定義します。次に、その目的を達成するためのコアメッセージを一本化し、誰に・どの感情で・視聴後にどう変わってほしいかを言語化します。ここで大切なのは“言うことを増やす”のではなく“言わないことを決める”姿勢です。脚本・画・音・コピーのすべてが、その一文に奉仕しているかを制作の各段階で点検し、寄与しない要素は削る。接点ごとに尺や比率は変えても、メッセージの核は固定する――この一貫性が、短い視聴でも意図を取りこぼさず、記憶に残る体験へと結実させます。
ブランディング動画の成功事例
東邦ガス
東邦ガスのブランドムービーは、セブンデックスが手がけたブランディング戦略を象徴するクリエイティブとして制作しました。100年以上にわたり中部地方のインフラを支え続けてきた東邦ガスが、次の100年に向けてどのように進化していくのか。その問いに対する答えを、映像という表現で紡いでいます。
ブランドの根幹にある「地域をより豊かにしていく」という想いと、未来への意志を示すフレーズ「未来の、まんなかへ」。この2つのメッセージを軸に、映像は東邦ガスグループの過去・現在・未来を滑らかに繋ぎながら、企業が持つ“温度”や“誠実さ”を視覚的に伝えます。ガスという枠を超え、暮らしや街を支える存在として、未来への期待を感じさせる世界観を構築しました。
映像演出では、ドキュメンタリー的リアリティとシネマティックなトーンを融合。光や音のディテールにもこだわり、見る人がブランドのストーリーを“理解する”のではなく、“感じ取る”ことを意図しています。その結果、ブランドムービーはステークホルダーに新しい印象を与えると同時に、社員が自らの仕事の意味と未来を再認識する契機となるようデザインされています。
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カロリーメイト
カロリーメイト「夢の背中」編は受験を通して親子の絆の大切さを伝えるCMです。入試までの1年間を戦う受験生とそれを支える親を応援するブランドムービーとなっています。
映像の中でもカロリーメイトを大々的にアピールするのではなく、サポートするような描写にすることでカロリーメイト=受験生、学生の味方というイメージを植え付けることに成功しました。
このブランドムービーを制作した後にも、部活やコロナ、学校生活の一部を切り取ったブランドムービーを制作し、カロリーメイトのブランドイメージをより強固なものとしています。
東北大学
東北大学のブランディング動画は創立115周年を記念して作られたものです。地域に根づいてこれまでどのような歩みを遂げてきたか、また未来に向けてどのような姿で在り続けるかというものを伝えるものになっています。
多彩な活動を行う5人の学生・卒業生をモデルとし、東北大学が「社会とともにある大学」として、時代の変革を先導する人材を輩出し続けていることをアピールしています。受験を考える高校生や海外の学生に対して東北大学でなければできないことを明確にしたことでブランディングに成功しました。
SmartHR
freee のビジョンムービーでは、企業の理念や未来への意志を、映像を通してわかりやすく表現しています。
急速に変化する社会の中で、freee がどのような価値を提供し、どんな未来を描こうとしているのかを、
リアルな現場映像とメッセージで構成。
単に「サービスを紹介する」映像ではなく、freee という組織が大切にする思想や文化を視覚的に伝え、社員・ユーザー・社会が共に未来を描く“共感のムービー”として設計されています。映像の最後には「社会の仕組みを変えていく」というブランドの核心が明確に示され、企業の方向性を印象的に印象づける構成となっています。
UNDER ARMOUR
Under Armour のブランドムービー「I WILL WHAT I WANT」では、モデルのジゼル・ブンチェンを通して、“自分の意志で道を切り開く”というメッセージを力強く描いています。
周囲の評価や期待に縛られず、挑戦し続ける女性の姿をリアルに映し出すことで、ブランドの核である「意志の力」を視覚的に訴求。映像全体は、葛藤 → 決意 → 行動 → 自由という流れで構成され、最小限の言葉と強い映像演出によって感情を喚起します。単なる広告映像ではなく、「自分らしく生きる」ことそのものをブランドメッセージとして昇華した事例です。
合意形成から制作・運用まで。セブンデックスがブランドの“共通言語”をつくります
関係者の視点をそろえるワーク設計、コンセプトの一本化、現場へ落ちる表現ルール、公開後の運用・改善サイクルまで一気通貫でサポートします。私たちは内外のタッチポイントを繋ぎ、同じ物語が一貫して伝わる状態を築きます。組織を動かし、外へ強く届かせる。そのプロセスごとお任せください。