今までに1度は見聞きしたことがあるであろう「ユニバーサルデザイン」。
しかし「ユニーバーサルデザインって何?」と改めて聞かれると案外答えにくいのではないでしょうか。
今回はユニバーサルデザインの概要と、ビジネスにおいての関係をお話ししたいと思います。
目次
ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザインとはズバリ、特殊な設計が不要で、より多くの人が使いやすくなる設計やデザインです。
ここで重要なのは「特殊な設計が不要」という点です。
つまり、特定の障がい者専用品ではないということです。
この点はバリアフリーと関係しています。
バリアフリーはユニバーサルデザインと同義として語られがちですが、実際は異なります。
ユニバーサルデザインの目的は使える人をより増やすことです。そのため、多様な人が利用できるようデザインされています。
一方、バリアフリーは特定の障がいの課題解決に特化した設計やデザインです。障がいを抱える人にとってのバリア(=障がい)を排除するという考えに基づいています。そのために「特殊な設計」が必要となることがあります。
この点がユニバーサルデザインとバリアフリーの大きな違いと言えるでしょう。
ユニバーサルデザインをあまり身近に感じられない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私たちの生活のあらゆる場面、場所にユニバーサルデザインは存在しているのです。
ユニバーサルデザインの7原則とその実例
ユニバーサルデザインを理解するために重要な7つの視点をご紹介します。
この7原則を意識して使いやすさを検討すると新たな気づきがあると思います。
①公平な利用
全ての利用者が同じ手段・方法で利用可能であり、かつ全ての利用者にとって魅力的で有益であること
これは「より多くの人が使いやすさを感じることができる」ユニバーサルデザインの代表的な視点で、自動ドアが典型的な例です。
コンビニやスーパーなどを思い浮かべてみてください。
利用者の目的はドアを通過することです。この時、荷物で両手が塞がっていても何の問題もなくドアを通過することができます。ドアを開閉するための動作が不要なためです。それにより、車椅子、松葉杖を利用する方や妊婦さんなど周囲からのサポートを必要とする人でも簡単にドアを通過することができます。
②利用における柔軟性
利用方法を自由に選択できるようにすること
柔軟性とはつまり、幅広い利用者の能力や利用シーンに合わせた利用方法がいくつも用意されているということです。
例えば右利きと左利き両方に対応していることも大切な視点です。アップルウォッチはユーザーが左利きの場合、任意で設定を変更することができます。通常の腕時計は時間を調整するリューズと呼ばれるネジが右側についており、使いにくさを感じていました。
しかし、iPhone同様、画面の向きをフレキシブルに変更できることで左利きの長年の悩みが解消されることに。
③単純で直感的な利用
使ったことがなくとも直感的に利用方法がわかるようにすること
照明のスイッチを押す時、使い方がわからないということはほとんど無いと思います。これはスイッチを
押せば光る、動くという期待や直感を私たちが共通して持っているからです。さらに、日本語がわからない外国籍の方でも利用方法の見当がつくため問題なく利用可能。
このように広く共有された直感に一致させて設計することで言語能力に関わらずより多くの人が利用できるのです。
④認知できる情報
文字、画像、音声や映像など多様な表現方法で情報を伝えたり、容易に情報を理解できるように工夫をすること
電車に乗っている間、次の停車駅がわからない場合モニターをチェックすると思います。もしくは停車まえに流れるアナウンスに耳を傾けるのではないでしょうか。このように電車には様々な媒体による情報伝達がなされています。
モニターとアナウンス両方で情報伝達することで、障がいや集中力に関係なく情報を入手することができます。
⑤失敗に対する寛大さ
間違えても元の状態に戻れるようにしたり、そもそも失敗が起きにくいような設計を施すこと
PCで作業をしていて、うっかりデータを消してしまうなんてことありますよね。
しかし、一度削除してしまった場合でもゴミ箱から復元できるので、胸をなでおろしたことは少なくありません。私たち人間は時に意図せぬミスをしてしまうことがあります。これは仕方がないことで、この視点ではこういったヒューマンエラーを前提にいかに失敗による精神的負担や失敗の機会を減らすかという点に注意しています。
⑥少ない身体的な努力
必要な動きや力を最小限にし、効率的で快適な利用を目指すこと
お財布を持ち歩かず、プリペイドカードやキャッシュレス決済をしている方も多いのではないでしょうか。
これらもユニバーサルデザインの視点を含んでいます。キャッシュレス決済はお財布を取り出して小銭を漁ることなく端末をかざすだけで決済ができるため、計算が苦手な人、小さなものを掴むことが困難な人にも便利です。
⑦接近や利用のための大きさと空間
様々な利用目的や身体的な特徴を考慮して大きさや広さを設計すること
代表的な例は「誰でもトイレ」と呼ばれる多目的トイレです。
通常のトイレよりも広くスペースをとったこのトイレには多様な利用者にメリットがあります。例えば車椅子を利用される方にとっては前進・後進がスムーズな上、回転できるため移動がストレスフリーに。
また、赤ちゃん連れの方のためにベビーベッドが設置されているなど、広さと機能性を両立させています。
ユニバーサルデザインの重要性
私たちは想像以上にユニバーサルデザインの恩恵を受けています。ではユニバーサルデザインの目指す未来とはどういったものなのでしょうか。
2019年より政府はバリアフリーやユニバーサルデザインの推進に注力しています。東京オリンピックの開催に伴うグローバル化に対応する意図もあると思いますが、「より多くの人が快適に過ごせる環境のデザイン」というユニバーサルデザインの本質的な役割を重視しています。
障害の有無や年齢といった個々人の属性や置かれた状況に関わらず、国民一人ひとりが自立し、互いの人格や個性を尊重し支え合うことで、社会の活動に参加・参画し、社会の担い手として役割と責任を果たしつつ、自信と喜びを持って生活を送ることができる共生社会の実現に向けた環境を整備していくことが重要である。
(内閣府HP バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進要綱より)
このようにユニバーサルデザインは高齢者や障がい者の方を含む多様な人が自身の能力を発揮できる社会環境づくりにおいて重要な役割を担っているのです。
ビジネス×ユニバーサルデザイン
ユニバーサルデザインの活用は企業にとっても利用者の拡大や体験の満足度向上を実現するため、非常に有益です。
しかし、ユニバーサルデザインの活用には「ビジネス視点」も忘れてはなりません。つまり、ユニバーサルデザイン によって得られる利益をあらかじめ明確にする必要があるということです。
この視点を踏まえて、実際に製品のユニバーサルデザインを考えてみましょう。問題をご用意したので是非考えてみてください。
アイデアは浮かびましたでしょうか。ユニバーサルデザインに固定の正解はありません。実際の利用シーンからアイデアを膨らませ、トライアンドエラーを繰り返してアップデートしていくものです。それではいくつか回答例をご紹介します。
ではこの問題のタネ明かしをしたいと思います。この問題に対して、「Aさんが間違えずに購入するという課題の解決策」を考えたかと思います。では「解決策の施行で得られる企業のメリット」についてはいかがでしょう。
パッケージにエンボス加工を施すにもそれだけのコストを要します。かけたコストに見合うメリットがなければユニバーサルデザインの実現は不可能でしょう。そのためにまずその商品でないと提供できない魅力や価値を明確にする。その上で、より多くの人にその価値を提供することでユーザーにも、企業にもメリットがあるのかを検討する必要があります。
ユニバーサルデザインとはどちらかが我慢をする、不利益を被るものであってはなりません。どちらもメリットを得られる、補完的な関係でなければ、いつか破綻してしまうためです。
企業のユニバーサルデザインへの取り組み
それでは実際に企業のユニバーサルデザイン活用例を見てみましょう。
花王のシャンプー、リンスボトル
過去にシャンプーとリンスを間違えたことはありますか?
髪を濡らし、薄目でボトルをプッシュするためこういった間違いは健常者はもちろん、視覚障がい者にも起こりえます。
花王の製品には当初、ボトルの側面に視覚障がい者がシャンプーとリンスを区別するためのきざみが付いていました。これは消費者からの声を受けて花王が先駆けて実施したユニバーサルデザインです。
しかしユーザーの目的はシャンプーもしくはリンスを手に取ることで、その過程で側面に触れる必要は本来ないはず。ボトルの側面に触れて判別するのはユーザーの手間を増やすことになります。そこで側面だけでなく、ボトルのポンプ部分にも凹凸をつけることで、余分な動作を不要とする現在のボトルが完成しました。のちにこのボトルは他メーカーの製品にも導入されています。
きざみをつけたことでコストは大幅に増加しました。しかし、業界を巻き込んで消費者の抱える課題を解決した花王の姿勢は消費者からの厚い信頼を勝ち取ることに繋がりました。これはメーカとして大きなメリットと言えます。
まとめ
ユニバーサルデザインは実際の利用者と利用シーンを実際に観察して課題を発見し、改善を続けていくデザイン手法です。その点でUXデザインと類似していると言えます。ユニバーサルデザインを活用すれば社会貢献と企業成長を実現することができるでしょう。