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認知と記憶のメカニズムを解説!ユーザーを理解するための認知心理学の基礎

普段、私たちは生活する中で様々な認知特性に支えられていることをご存知ですか?

例えばはじめて自転車に乗ったときのことを思い出してみましょう。きっと自転車が倒れないようにと必死にバランスをとろうと注意をしていたはずです。しかし、大人になった今ではバランスをとろうと意識する事はありません。

私たちは同じ経験を繰り返し行うことで熟達し、わざわざ注意をしなくても無意識にその行為が行えるようになります。こうした私たちの生活を支える認知特性。しかしこれらは表裏一体であることを忘れてはいけません。

例えば熟達する事で注意を向けていないがために思わぬミスにつながったり、想定外の状況への対応が遅れてしまったり。私たちが生活をする上での失敗は、これらの認知特性が影響していたりもします。
UXデザイナーがこれらの認知特性を理解することは、サービスを利用する上でのミスを減らし、使いやすい体験設計をすることに繋がります。

そこで今回は、認知特性を理解する上での基礎となる記憶や認知の仕方について、認知心理学の知識を基に説明していきます。

認知心理学ってなに?

そもそも今回お話する認知心理学とは何でしょうか?
認知心理学は人の心を理解するための研究分野です。研究が発展した背景には、コンピューターや情報科学の発達に後押しされたという特徴があります。

人の心は未だに分からないことだらけです。そこで認知心理学では、コンピューターの情報処理プロセスを人の認知プロセスに置き換え考えることで、人の心を理解しようと試みます。

認知処理のプロセス

私たちは生活を行う上で、様々な情報に触れ、判断をし、行動を起こします。普段何気なく行っている、それらの行為は様々な情報処理が繰り返された上で成り立っています。

人の行動は外部からの様々な情報と、自身の持つ知識や経験といった内部からの情報に影響を受けます。

例えば、りんごを目にした場合を考えてみましょう。
外部から得たりんごの外見的な情報に対して、私たちは
「赤くて丸く、艶があるからりんごである」
「りんごは口にしても安全な食べ物である」
といった内部からの情報を踏まえて考えることで、手に取り口にするといった行動に繋がります。

このように人は外部・内部の両方からの情報を処理することで、何かしらの行動や反応を引き起こします。
この人の認知処理のプロセスは「感覚」「知覚」「認知」「認識」の四段階に分けて説明する事ができます。4段階について詳しく見ていきましょう。

記憶の分類
内部からの情報である記憶は、その性質からいくつかの分類に分けられます。いくつかの分類がありますが、この記事では主流である「記憶の多重貯蔵モデル」を基に説明をしていきます。

「記憶の多重貯蔵モデル」はアトキンソンが提唱した記憶の保持時間に着目した分類です。「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」に分かれており、「感覚記憶→短期記憶→長期記憶」と行う処理の内容に応じて情報が移動します。記憶の保持時間や保持容量については、認知処理のプロセスを説明するなかでお話していきます。

感覚

感覚とは一般的にいう視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚など五感と言われる物です。外部の刺激と、人間の接点とも言えます。

光や音、温度といった刺激は目や耳、肌などの感覚器官が受け取ります。受け取った刺激は、電気信号として脳の感覚記憶に伝達されます。

感覚記憶は「受け取った全ての刺激をとりあえず保存している場所」といったイメージです。五感は常に働いており、感覚記憶には次から次へと新しい刺激が伝達されます。そのため通常は0〜2秒しか保持されず、次々と忘れていってしまいます。

知覚

知覚は感覚記憶から処理をしたい情報を取り出し整理する作業です。目から届いた刺激で物の形や大きさを捉えようとしても、数秒しか保持できない感覚記憶では到底処理は行えません。そのため処理をしたい情報は数十秒保持できる短期記憶へと移動してあげます。

この特定の刺激に対して注意を向けることを選択的注意といいます。
選択的注意の分かりやすい例として「カクテルパーティー効果」をご紹介します。

皆さんは大勢の人が話してる騒がしい場所でも、自分の名前が呼ばれると無意識に気づいてしまうといった経験はありませんか?カクテルパーティーのような騒がしい場所でも、人は自分に関係している会話などは自然と聞き取る事ができるというのがカクテルパーティー効果です。

私たちは雑音を常に集中して聞いているわけではないのに、自分の名前に気付けるなんて不思議ですよね?
これは注意を向けていないだけであって五感から伝達される全ての刺激は、感覚記憶として全て感じているからです。そのため唐突に自分の名前が出てきても、選択的注意を向け気づく事ができます。

認知

認知は感覚や知覚に過去の経験や記憶を基に、知覚した物が何であるか解釈する作業です。

例えば椅子を見た場合で考えてみましょう。
知覚の段階では、
「地面に水平な面がありそれを支える足がついているな。その面に直交する形でもう一つ面がついているな。」
と物体の形を捉えています。認知では過去の経験や記憶を基に考えることで、
「地面に水平な面に座り、直交した面には背中を預けられる独立した物体だから椅子である」と解釈する事ができます。

ここでの過去の経験や記憶は、長期記憶から引き出されます。どういった形で短期記憶が長期記憶になるのか、どうやって記憶を引き出しすのかについては後ほど説明します。

認識

認識は認知で得られた結果に対して自身の経験や記憶から価値観を加え解釈をする作業です。
価値観とは好き/嫌い、良い/悪いといったものに当たります。

先ほどの椅子の例で考えてみましょう。
認知の段階では知覚した物が椅子であるといった解釈ができました。そこで以前「木の椅子に長時間座っていたら腰が痛くなった」という経験があったとします。認識とはこういった経験を基に「これは木の椅子がから座りにくく悪い椅子だ」という価値観を踏まえ解釈する事です。

ここまで一連のプロセスについて説明してきましたが、ユーザーはここまで来てやっと行動を起こす判断ができます。

記憶の処理プロセス

認知処理のプロセスで重要な役割を担っていた記憶。それらはどのように覚え、必要なときに引き出す事が出来るのでしょうか。ここからは記憶の処理プロセスについて説明していきます。

人の記憶は「符号化(または記銘)」「貯蔵(または保持)」「検索(または想起)」の三段階で説明する事ができます。
各段階について詳しく見ていきましょう。

符号化

符号化は受け取った感覚刺激を意味付けし、記憶に保存する段階です。

マジックナンバー7±2

短期記憶の容量には限界があります。符号化での意味付けは、情報を理解しやすい意味の塊に変換する事で、短期記憶の容量を効率的に使う事ができます。

短期記憶で覚えていられる容量について、ミラーはマジックナンバー7±2という考えを提唱しています。人は知覚する情報はまとまりごと(一つのまとまりで1チャンク)に捉えており、短期記憶で覚えていられるのは5〜9のまとまりであるとしています。
次の例で考えてみましょう。次の文字を覚えてください。

「MIBYONSALJ」

一瞬見ただけでは覚えるのは難しいと感じるかもしれません。しかし同じ文字でも次の並びならどうでしょう。

「IBMSONYJAL」

これなら覚えられそうと思う方も多いのではないでしょうか。

1つ目の文字列には規則性がなく、覚えるには一つひとつ文字に着目しなければなりません。そのため「M」「I」「B」…「J」という10個(10チャンク)のまとまりとして記憶しなければならず、短期記憶の容量を超えてしまいます。

一方で2つ目の文字列は「IBM」「SONY」「JAL」という3つの意味のまとまりにわける事ができます。3チャンクという少ないまとまりでは、短期記憶の容量も超えず余裕を持ち覚えられます。

短期記憶の容量についても議論がなされており、最近ではマジックナンバー4±1くらいではないかとも言われています。

リハーサル

しかし短期記憶が情報を保持している時間は数十秒程度です。
そこで情報を復唱することで短期記憶の維持をします。これがリハーサルです。
リハーサルは短期記憶を維持するために行う「維持リハーサル」と、短期記憶を長期記憶にするための「精緻化リハーサル」に分ける事ができます。

維持リハーサル
例えば子供に買い物をお願いすると、
「タマネギ、にんじん、ピーマン…」
と買うべきものを復唱しながら買い物に行ったりします。まさにこれが維持リハーサルです。大人である私たちも声には出しませんが、頭の中で繰り返し考えることで短期記憶を維持し続けています。

精緻化リハーサル
精緻化リハーサルは繰り返し問題集を解いていくといったイメージです。
その場では間違いを確認しましたが、時間を置いてからもう一度解き直してみる。繰り返し解いていくことで、一般化や抽象化がなされ長期記憶として覚えていきます。

貯蔵

貯蔵は符号化された情報が記憶として取り込まれた段階です。

この段階ではただ得た情報を貯蔵するのではなく、既存の知識と紐付けて覚えています。似た情報同士が関連付けられ、ネットワーク状の繋がりを持ったスキーマを形成されます。これは事実のままより、一般化や抽象化をすることで構造化された形の方が記憶がされやすいためです。

長期記憶やスキーマについてはこちらの記事で詳しく書いています。興味を持った方はこちらの記事も是非!

検索

検索は長期記憶に貯蔵されている情報を引き出してくる段階です。

長期記憶で情報が保存されている期間は非常に長く、一説では一生覚えているとも言われています。また記憶の容量に関しても実質的に無限であるとも言われています。

この話を聞くと、自分は一度覚えたけど忘れてしまったという経験があるぞと思う方もいるかもしれません。
認知心理学ではそれらの場合は忘れてしまったのではなく、思い出せていないだけと考えます。情報が消えてしまったのではなく、あくまで検索の作業ができていないだけ。
「覚えている」とはこの引き出しの作業が正しく行えてはじめて言えるわけです。

この記憶の引き出し方には「再生」と「再認」の二つがあります。詳しく見ていきましょう。

再生
完全な情報が必要であり、長期記憶にはなるべく多くの情報を保存しておく必要があります。
この引き出し方はテストでいう「語句を書きなさい」といった記述式の問題を解くイメージです。実際のインターフェースで言えば、ターミナルなどのCLIがこの再生を用いたインターフェースに当たります。基本は自分の行うべきコマンドを覚えていないと操作ができないといった特徴があります。

再認
不完全な情報で可能であり、長期記憶には大まかな情報さえあれば問題ありません。
この引き出し方はテストでいう「語句を選びなさい」といった選択式の問題を解くイメージです。実際にインターフェースで言えば、我々が一般的に使っているGUIなどが再認を用いたインターフェースに当たります。アイコンなどでファイルの場所さえ知っていれば見つける事ができます。

基本的には再生型の方が難しく、再認型の方が分かりやすく引き出しが容易と言えます。しかし、ターミナルの様に熟達をすると操作の手間が省け便利になるなどの場面も考えられる点には注意が必要です。

認知特性をデザインで活かす

ここまで認知処理や記憶の処理について説明してきました。これらの知識はどの様な場面で活用出来るかいくつか例を挙げてみます。

体制化

長期記憶は体制化されネットワーク状に保持されていました。インタビューを行う際にこの繋がりを意識して質問する事が大切です。

回答者は質問にその場で答えなければいけないため、なかなか記憶が思い出せないという場面も出てきます。そこで情報の関連性を意識して言葉を投げかけることで、関連した周囲の言葉から記憶が活性化し思い出すことの助けになります。

マジックナンバー7±2

短期記憶の容量の限度を知っていると、まとまりを作りチャンク数を減らす事でユーザーに覚えてもらいやすいデザインを行う事ができます。

例えば電話番号を記載する場合です。
チャンクを考慮せず電話番号を表記した場合、「07057278545」となり11チャンクとなってしまいます。しかしチャンクを考慮し電話番号を表記した場合、「070 5727 8545」と3チャンクになります。他にも情報はまとまりを意識して記載することで、ユーザーが理解する負担を減らす事ができます。

おわりに

今回は人がどのように行動を起こす判断を行うか、その判断材料である記憶はどのように覚えているのかについて説明してきました。人の認知特性を理解する事で論理的に使いやすさを追求したり、操作のミスを減らす事に繋がります。

今回は認知特性の基礎を説明しましたが、メンタルモデルなどより実用的に活かせる認知特性についてお話しています。気になる方は是非ご覧ください。

静岡出身。2020年にSEVEN DEXにJoinしました。普段は大学でUI/UXについて学んでます。誰かのためを考えて物作りをする事が好きです。