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スキーマ・スクリプトを解説|使いやすさにつながる認知心理学の知識

私たちは普段、記憶を頼りに様々な判断や行為を行います。
そのなかでも長期記憶はスキーマ・スクリプトと呼ばれる記憶の構造を持ちます。
これらの概念は私たちの生活を支える一方で、ヒューマンエラーなどの原因にもなりかねません。

今回は使いやすいデザインを行うため、長期記憶の概要、スキーマ・スクリプトの仕組みについて説明します。
また今回の話の前提となる認知と記憶に関する基礎的な話は、以下の記事で解説しています。こちらも是非合わせてお読みください。

その他にも、デザインと心理学的法則についてまとめた記事も本メディアでは取り扱っています。興味のある方にはこちらもおすすめです。

長期記憶の種類

長い間知識や記憶を蓄える場合、私たちは長期記憶として保持します。しかし、記憶の保持のされ方は一括りに説明する事はできません。

例えば、
「あなたの知っている絶景を教えてください。」
と聞かれ過去の記憶を思い返すとき、自然と「いつ・どこで・誰と見た風景か」 と日時や場所が連想されませんか。一方でりんごに対しての「りんごは赤く丸い、艶のあるものだ」という記憶は、いつ・どこで・誰に教えてもらったかを思い出すことは困難です。

このように記憶は様々な保持のされ方をします。保持され方による長期記憶の分類は以下の通りです。

宣言的記憶と手続き的記憶

長期記憶はまず、「言葉で表現することができるか/できないか」「意識して使うか/使わないか」という観点から手続き的記憶と宣言的記憶に分類されます。

手続き的記憶

手続き的記憶は言葉での表現は難しいですが、意識せずとも使えます。運動などの技能や習慣、ルールがこれに当たります。

最初は乗るのに苦労した自転車も、覚えてしまえば意識せずとも乗りこなす事ができます。一方でどうやってバランスをとっているかなど言葉で表すのは困難であり、いわゆる体で覚えるという状態です。

宣言的記憶

宣言的記憶は言葉として表現でき、意識的に思い出す記憶です。
さらに宣言的記憶は意味記憶とエピソード記憶に分類されます。

意味記憶とエピソード記憶

宣言的記憶は、「時間や場所が関連している/関連していない」「個人的であるか/一般的であるか」という観点からエピソード記憶と意味記憶に分類されます。
人は出来事や知識を学ぶ際、体験の中で学びエピソード記憶として蓄積します。エピソード記憶は一般化・抽象化する事で、時間や場所に依存しない意味記憶となります。

エピソード記憶

エピソード記憶は時間や場所に関係し、個人が経験した出来事や思い出です。いつ、どこで、誰と見た景色なのかという自分自身の経験が一つのエピソードとして記憶されます。
冒頭で述べた「あなたの知っている絶景を教えてください」という質問で思い出す記憶はこれに当たります。

自分自身の体験を記憶するという点では、エピソード記憶は頭の中の日記といったイメージです。

意味記憶

意味記憶は時間や場所に関係せず、一般化された知識です。冒頭で述べた「りんご」に関する記憶はこれに当たります。

りんごに関してもいつか、どこかで、誰かに教えてもらう体験です。しかし、繰り返しりんごについて触れたり聞いたりするうちに、それらの記憶は一般化・抽象化されます。その結果、時間や場所といった情報は失い、赤いくて丸いという内容のみの意味記憶となります。

直接的な意味を記憶するという点では、意味記憶は「頭の中の辞書」といったイメージです。

スキーマ・スクリプトとは

では、記憶はどのような構造で蓄積されているのでしょうか?
記憶の構造を表す概念にはいくつかの研究があります。今回はスキーマ・スクリプトという考え方を元に説明していきます。

スキーマとは

似た記憶同士が紐づけられ、ネットワーク構造を形成したスキーマ。ひとまとまりの知識といったイメージと言えます。

例えば「消防車」というキーワードは、「救急車」や「火」「家」といったキーワードが紐づいたスキーマとして記憶されます。そのため火事が起き燃えている家を目にすると、「家」「火」と紐づき「消防車」という知識が想起できます。また「消防車」という知識が想起すると、それに紐づく「救急車」という知識も想起され「救急車も呼ばなくては!」といった判断に繋がります。

スキーマの特徴には他のスキーマが埋め込んだ構造を持つ点があげられます。

先ほどの場合では、消防車に関するスキーマが埋め込まれていると考えられます。
消防車に着目すれば「タイヤ」「窓ガラス」「はしご」「ポンプ」といった様々な要素が紐づいています。しかし、火事が起っている際に、消防車のタイヤや窓ガラスに意識を向ける必要はありませんよね?大まかに「消防車だ」と認識できれば十分。そのため、平時に道路に止まっているのを見て注意を向けたりすることで始めて「大きなタイヤだな〜」といった認識につながるようになっています。

スキーマは出来事や対象物の表現に止まりません。動作に関する記憶もスキーマで説明する事ができます。
例えば購買スキーマの場合、「商品」「値段」「個数」「店舗」などが紐づいています。出来事との違いは、商品や値段などは具体的な対象物があるわけではなく「変数」として構造化がさる点です。

このようにスキーマは素早い情報処理が行えるよう、一般化や抽象化をすることで、記憶を引き出しやすい構造化された形で保持しています。

スクリプトとは

スキーマの中でも手続き的知識を異なる構造で表したものがスクリプト。順番といった時系列の繋がりを記憶し、登場人物や複数の場面から構成されます。

レストランスクリプトで考えてみましょう。
「レストランで美味しいステーキを食べたんだよ」と聞けば、相手がレストランに行き、ステーキを注文し、食事をしてお金を払ったんだなと想像する事ができます。
これはレストランでは「入店→着席→注文→食事→会計→退店」という一連の行動があるという知識、つまりスクリプトを持っているためできることです。そのため、直接は話に出てこない部分も推測し補って解釈することで、会話が円滑に進んでいます。
一方、レストランスクリプトを持っていない場合、補った解釈ができずどこか話が噛み合わなくなってしまうかもしれません。

またスクリプトの中の一つ一つの行動は「注文という動作のスキーマ」「食事という動作のスキーマ」となっています。スクリプトとは本来「台本」という意味であるように、スクリプトは時系列を持ち一連のスキーマの流れをまとめたものと言えます。

スキーマ・スクリプトの利点

では、私たちがスキーマのような構造を形成し記憶を保存しているのにはどんな利点があるのでしょうか?

まずは豊富なスキーマが形成される事で記憶の想起が容易になる点です。

お医者さんなど、ある分野に精通した人で考えてみましょう。病院で症状を伝えればお医者さんはすぐに病名を言い当ててくれますよね。
様々な患者を診察する中で、皆んなが同じ症状ではありません。少しづつ異なった診察をするなかで、形成されるスキーマは細分化し様々なパターンが記憶されていきます。ある分野に精通した人は豊富なスキーマを持ち、素早く処理や判断ができるようになるわけです。

また同じ経験を何度も繰り返す事で、無意識化で動作や処理が行えるようになります。

例えば、普段お風呂に入るとき「顔を洗ってから頭を洗う」という習慣の場合、ぼーっとしながら顔を洗い、頭を洗うと
「あれ?さっき顔洗ったっけかな?」
となったりした経験はありませんか。
「さっきの顔を洗ったどうかもう忘れてしまったのかな?」
と不安に思うかもしてませんと思うかもしれません。実はこれ、顔を洗うという事にそもそも注意が向けておらず、動作が自動化された証拠なんです。

「顔を洗ってから頭を洗う」という習慣を繰り返す事で、わざわざ注意をさかなくても外部からの情報に応じて顔を洗うという動作が行えるようになります。そのため、顔は洗ったけどそもそも顔を洗ったという記憶は持っていないわけです。

スキーマ・スクリプトによるエラーとは

私たちを支えるスキーマやスクリプトといった認知特性ですが、残念ながらいい面ばかりではありません。
時にはこれらの特性が間違った解釈や行動を促す場合だってあります。

スキーマやスクリプトを用いた推論は時に偏った解釈を促します。

例えば
「私の両親はシステムエンジニアと保育士です。」
と聞いたとき「父親=システムエンジニア」「母親=保育士」と想像する人は多いのではないのでしょうか。ですが、実際は父親が保育士である可能性だって考えられますよね?
これはシステムエンジニアが男性、保育士が女性と紐づいたスキーマを持っているため、明らかになっていない情報をスキーマを頼りに推論し偏った解釈をしてしまいます。

また処理の自動化も注意をさかないあまりヒューマンエラーにつながる可能性もあります。

例えば、髪を洗う動作が自動化していた場合を考えてみましょう。
お気に入りのシャンプーは透明で、リンスは白色。無意識に、まずは透明な方から手にとるといった習慣がついています。そこで今までとは違う白色のシャンプーと透明のリンスに買い換えると、今まで通りに自動化処理を適応してしまい確認せず透明なリンスから手にとってしまいます。

上記の例は些細な事ではありますが、これらのヒューマンエラーは乗り物の操作や医療の現場など人の命がかかる場面でも起こりえます。

例えば、医療現場では酸素ボンベと二酸化炭素ボンベを間違えて取り替えてしまうという事故が何度か起こっています。これは医療従事者の酸素ボンベの色の認識に原因がありました。
病院内の配管では酸素が緑色で表記されているのに対して、実際の酸素ボンベの色は黒。医療従事者は酸素の方が利用頻度も高く馴染みがあるため、酸素=緑という紐付けがされていました。そのため緊急時に急いで交換すると、緑色の二酸化炭素のボンベを酸素ボンベと間違い交換してしまったわけです。

スキーマを活用した事例

先ほどの事例のような、人命に関わるデザインをする場面はあまり多くないかもしれませんが、スキーマやスクリプトを知った上でデザインを行う事は使いやすいデザインにも繋がります。最後にスキーマやスクリプトの知識をデザインに活用した事例を一つご紹介します。

IHクッキングヒーターのインターフェースは、長年ガスコンロなどに慣れ形成されたスキーマをデザインでうまく活用しています。
多くのIHクッキングヒーターは火を付けると盤面のランプが赤く点灯します。これは火=赤という結びつきのスキーマから、実際の火がついていなくても熱くなっているよという事を想起させるための工夫です。こういった工夫のおかげで、火傷するリスクをさけ安全に使えるのです。

デザインを行う際はユーザーがどういったスキーマやスクリプトを持っているか想像しデザインする事が、ヒューマンエラーのない安全な製品作りに繋がります。

おわりに

今回は認知心理学の観点から人間がどのように物事を理解し行動を起こすか解説をしました。
ユーザービリティなどを考える際、是非一度考えデザインを進めてみてください。

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