ペルソナデザインは、顧客を理解しマーケティングや事業を成功させるために欠かせない手法です。属性だけでなく行動や価値観を人物像として描くことで、組織の認識統一や意思決定の精度向上につながります。この記事では、ペルソナデザインの定義やターゲットとの違い、設定するメリット、設計手順、企業事例を解説します。
目次
ペルソナデザインとは
ペルソナデザインとは、顧客の行動や価値観を具体的に把握し、組織で共有するための設計手法です。
もともとUXデザインの分野から広がり、現在は製品開発やWebサイト制作、マーケティング全般で活用されています。ターゲットが「市場全体を区切る枠組み」なら、ペルソナは「その中で生活する一人の人物像」。
この違いを理解することで、ペルソナが実務に直結する存在であることが分かります。
ターゲットとペルソナの違い
「ターゲット」と「ペルソナ」は似ていますが、役割は大きく異なります。
ターゲットは市場を大きく区切る枠組み、ペルソナはその中から代表的な人物を具体的に描いたものです。両者を混同すると施策の方向性がずれるため、まずはこの違いを押さえることが重要です。

ターゲットは市場を区切る枠組み
ターゲットは市場を大きく俯瞰するための枠組みで、年齢・性別・職業・収入などのデモグラフィック情報を基準に設定されます。
例えば「20代女性」「都市部の会社員」といった例が典型で、市場規模の把握や広告出稿の方針を決める際の指標となります。ただし、ターゲットはあくまで大枠にとどまります。同じ「20代女性」であっても、生活スタイルや価値観は多様であり、具体的な行動や購買動機までは把握できません。
ペルソナは具体的な人物像
ペルソナは市場の中から代表的な顧客を取り出し、実際に存在しそうな一人の人物像として描きます。属性に加え、日常のシナリオや価値観、課題、購買に至るプロセスまで具体的に設計します。例えば「都内在住の30代女性・広告代理店勤務。忙しい朝はコンビニで軽食を取るが、本当は健康的な食事を求めている」といった像です。こうした詳細な設定は施策やプロダクト開発に直結します。
さらに、ペルソナは カスタマージャーニーマップ と組み合わせると効果的です。
顧客の「認知→検討→購入→利用」の流れに沿って課題や感情を可視化でき、広告コピーやUX改善に活用できます。ターゲットが「市場を区切る地図」なら、ペルソナは「顧客の行動や感情を描いたストーリー」です。
両者を正しく使い分けることで、戦略の精度が高まります。
実際のプロジェクトでどう活かすかは、こちらの「UXデザインとは?基礎から成功事例まで徹底解説」で詳しく紹介しています。
ペルソナを設定する3つのメリット
ペルソナを設計すると、商品企画や広告の方向性が一貫し、成果につながりやすくなります。その効果は、組織の認識統一・意思決定の強化・訴求力と成果向上 の3つに集約されます。ここからは、それぞれのメリットを詳しく解説します。
組織の認識統一
ペルソナがあれば、マーケティング・営業・開発など部署ごとに異なっていた顧客像を一本化できます。「誰に価値を届けるのか」を共有できるため、議論の前提が揃い、摩擦が減ります。特に複数部門が関わるプロジェクトでは、数字や解釈がずれがちです。共通のフレームとしてペルソナを用いることで全員が同じゴールを目指せる状態がつくれ、施策の実行スピードも高まります。
意思決定の強化
ペルソナは調査やインタビューに基づくため、意思決定の根拠として機能します。
「顧客ニーズに合っているか」を判断しやすくなり、社内での説得力も増します。経営会議や事業計画の場では感覚的な意見がぶつかることも多いですが、具体的なペルソナがあれば基準が明確になり、議論の質が向上します。その結果、経営層から現場までが納得感を持って進められる体制を築けます。
訴求力と成果向上
ターゲット設定だけでは「若年層向け」といった抽象的な表現に留まりがちです。
ペルソナなら「忙しい20代女性が朝の短い時間で利用するサービス」といった具体的なシナリオに落とし込めます。これにより広告コピーやWebサイトのUI、製品開発までが鮮明になり、顧客が「自分のことだ」と共感できる体験を提供できます。結果として、コンバージョン率やリピート率の改善につながります。
ペルソナ設計の手順(4STEP)
思いつきではなく、明確な手順を踏むことが重要です。
そうすることで、組織の意思決定や施策に直結する“実践的なペルソナ”を設計できます。

STEP1:ターゲット顧客を調査する
最初のステップは顧客理解のための情報収集です。
アンケートやインタビューで利用シーンや購買理由を聞けば、数字では見えない声が得られます。定量調査はGoogleフォームや購買データ分析、定性調査はインタビューやユーザビリティテストが有効です。調査を怠ると想像だけの人物像になり、実務で活用できません。
STEP2:顧客情報を整理・分類する
集めたデータは属性や価値観、ライフスタイルなどで整理します。
MiroやFigJamなどのオンラインホワイトボードを使えば共通点のクラスタリングがしやすく、Excelでも傾向が見えてきます。目的は、顧客を細かく分けすぎず代表的なパターンに整理すること。分類が曖昧だと次の人物像設計が抽象的になります。
STEP3:ペルソナの人物像を描く
整理した情報をもとに、実際に存在しそうな一人の人物像を描きます。
属性だけでなく、日常のシナリオや課題、購買プロセスまで具体的に設計することが重要です。
下のような ペルソナシート を作成すると、ターゲットでは見えにくかった人物像が直感的に共有できます。

こうした要素を埋めることで、ターゲット設定では見えにくかった具体的な人物像が浮かび上がります。
また、写真やイラストを添えるとチームが共通のイメージを持ちやすくなります。
SEVEN DEXでは、株式会社MIXIのminimo事業部に対し、UXリサーチによるペルソナ定義と行動指針策定を通じて、「誰に何を届けるか」にチーム全体が一体となれる文化と判断基準を構築しました。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
STEP4:チーム内で共有し意思決定に活かす
完成したペルソナはチームで活用してこそ意味があります。
会議や施策検討で「このペルソナに響くか」を基準にすれば、意思決定がスムーズになります。共有はワークショップ形式が効果的で、施策を「ペルソナ視点」で整理できます。
また市場は変化するため、半年〜1年ごとにアップデートすることで“生きたペルソナ”として機能し続けます。
ペルソナ設計の流れを理解したら、次は 自社に合った具体的な型 を検討することが大切です。
業種や事業フェーズによって必要な情報や設計の仕方は変わるため、手順を押さえたうえでさらに応用例を知っておくと精度が高まります。詳しくは、こちらの記事で解説しています
ペルソナ策定ガイド|作り方の解説とビジネス別の例を紹介
実際のビジネスシーンに近いサンプルを参考にしながら、自社のプロジェクトに活かしてみてください
ペルソナデザインを取り入れる時のポイントとコツ
ペルソナは作ること自体が目的ではなく、実務に活かして初めて意味を持ちます。
しかし「想像だけで人物像を描いてしまった」「作ったけれど社内で共有されず形骸化した」といった失敗も少なくありません。
ここでは、ペルソナデザインを導入するときに押さえておきたい代表的なポイントとコツを紹介します。
1:実在する顧客データに基づく
「こんな人がいそう」という想像だけのペルソナは根拠が弱く、現場で使えません。
アンケートやインタビュー、アクセス解析などの調査データをもとに設計することで客観性が高まります。
複数のデータソースを組み合わせれば、人物像に説得力を持たせられます。
2:具体性を持たせて施策につなげる
単なる属性だけでなく、行動や課題、購入シナリオを具体的に描くことで、マーケティングや開発に直結させられます。
また、社内で共有し定期的に見直すことで、意思決定の基準として機能し続けます。
3:カスタマージャーニーと組み合わせる
ペルソナは「誰に届けるか」は示せますが、「どんな場面でどう感じるか」までは分かりません。
そこで有効なのがカスタマージャーニーです。顧客の行動や感情を時系列で整理することで、UX改善や広告配信の最適化に活用できます。
詳しくは「カスタマージャーニーマップとは?」で解説しています。興味のある方は以下の記事もぜひご一読ください。
ペルソナデザインの企業事例
株式会社スープストックトーキョー
要点
「働く30代独身女性」をペルソナに据え、店舗体験と商品を最適化。リピート率向上とブランド強化に成功。
詳細
- 課題
多様な顧客層が存在する中で、ブランドの中心顧客像が曖昧でした。幅広く支持される反面、「誰のためのブランドか」が定義されず、長期的な差別化が難しい状況でした。 - ペルソナ
調査で浮かび上がったのは「手軽さではなく、心地よさや健康感を大事にする働く30代独身女性」。一人で過ごす時間を大切にし、外食にも安心感や自己充足を求める人物像でした。 - 施策
この人物像を基準に、旬の素材を使ったスープや「身体に優しい具材」を拡充。店内は木目や照明にこだわり、1人でも居心地の良い空間にデザイン。広告コピーも「おひとりさまでも安心」と打ち出し、ブランド全体を統一しました。 - 成果
結果、コアターゲット層からの支持が強化され、リピート利用が増加。社内では「ブランドが誰のために存在するのか」が明確化し、長期的なブランド戦略の軸が定まりました。
学び
ペルソナを具体的に描き、それを基準にUXを統一することで、競争が激しい外食市場でも「唯一のポジション」を確立できることを示しています。
株式会社良品計画(無印良品)
要点
「シンプルで自然体な暮らしを求める生活者」をペルソナに設定。商品・店舗・広告を統合し、世界的ブランドへ。
詳細
- 課題
事業拡大に伴い商品ラインナップが増加。「無印は何を提供するブランドか」という問いが社内外で生まれ、ブランドの一貫性が失われるリスクを抱えていました。 - ペルソナ
同社が見出したのは「生活の質を重視し、無駄を嫌い、環境にも配慮する生活者」。年齢や属性ではなく価値観を基準とする設計に切り替えました。 - 施策
商品企画から店舗デザイン、広告までを「シンプル・自然・生活志向」という軸で統合。店舗は白を基調としたミニマルな空間、パッケージは装飾を排除し、広告コピーは「これでいい」という自然体のメッセージを採用しました。 - 成果
「無印らしさ」が国内外で共感され、家具から食品まで幅広いカテゴリーで一貫したブランド体験を提供。結果としてグローバル市場でも評価されるブランドへ成長しました。
学び
ペルソナをデモグラフィックではなく価値観・ライフスタイルに基づいて設計することで、国や文化を超えて共感されるブランドを築けることを示す好例です。
ペルソナを事業に活かすには、ブランド全体の方向性をどう設計するかも重要です。こちらの「ブランディング戦略とは?」で詳しく紹介しています。
ペルソナを活かすことがブランドと事業成功の鍵
ペルソナデザインは、単なる顧客像の作成ではなく、戦略的なマーケティングや新規事業を成功に導くフレームワークです。
ターゲットとの違いを理解し、具体的な人物像を設計することで、組織の認識統一や意思決定の精度向上、施策の成果最大化につながります。しかし実務では、調査や情報整理の負担から「作って終わりのペルソナ」になるケースも少なくありません。だからこそ外部パートナーと連携し、事業戦略に直結する“生きたペルソナ”を設計することが重要です。
セブンデックスは、顧客理解を起点にしたブランド刷新や新規事業開発を支援し、ペルソナを意思決定を後押しする実行可能な資産へと変えるお手伝いをしています。
壁打ち相手を探している方は、ぜひお気軽にご相談ください。