BtoB企業でも「ブランディングの重要性」を耳にする機会が増えましたが、実際には「何をすることなのか」「toCとどう違うのか」が曖昧なままのケースも多くあります。機能や価格だけでは差別化が難しくなった今、企業の存在意義や価値をどう伝えるかは、営業や採用にも直結する大きなテーマです。
本記事では、BtoBブランディングの基礎からtoCとの違い、企業の実例、成功のポイントまでを分かりやすく解説します。「自社の魅力が十分に伝わっていない」と感じる方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
BtoBブランディングとは
そもそもブランディングとは
ブランディングとは「企業や製品のアイデンティティを定義し、そのイメージを構築・管理するプロセス」です。どのようなイメージを持ってもらいたいか戦略を立てるところから始まり、そこからロゴや広告、アプリ、パッケージなど、さまざまな接点に戦略を落とし込んで行きます。「その企業のらしさ」をイメージできるようになることで、ブランドは戦略通りの確固たるブランド像を獲得することができます。
ブランディングについて詳しく知りたい方はこちら
toBとtoCのブランディングの違い
意思決定者の人数
toCのブランディングでは、意思決定者は基本的に「個人」です。商品やサービスに触れたその人が、「好きか嫌いか」「欲しいか欲しくないか」で判断し、よくも悪くも感情で動きます。一方、toBのブランディングでは、意思決定に関わる人数が一気に増えます。現場担当者、課長クラス、部長・役員、場合によっては経理や法務まで、複数の部署をまたいで検討されるのが前提です。
ここがtoBブランディングの難しさであり、面白さでもあります。たとえば、現場担当者は「使いやすさ」や「サポート体制」を重視しますが、マネージャー層は「生産性向上」や「組織への影響」、経営層は「中長期の投資対効果」や「企業としてのブランドとの整合性」に目が向きます。つまり、ひとつのブランド体験に対して、立場の違う人たちがそれぞれの評価軸でジャッジしてくるわけです。
そのためtoBのブランディングでは、「誰か一人に刺さればOK」ではなく、
- 現場にとっても納得できる
- マネージャーにとっても説明しやすい
- 経営陣にとっても投資判断しやすい
という、複数のレイヤーに跨る納得感を設計する必要があります。言い換えると、「ステークホルダーごとに語れる文脈とストーリーを持っておくこと」が、toBブランディングの重要なポイントになります。
意思決定に至るまでの時間
意思決定までの時間も、toBとtoCで大きく異なります。toCでは、広告やSNS、店頭での印象がきっかけとなり、その場で購入が決まることも珍しくありません。「なんとなく良さそう」「口コミが良いから」といった軽めの動機でも意思決定が成立しますし、数分〜数日で完結するケースがほとんどです。
一方でtoBの場合、検討プロセスはどうしても長期戦になりがちです。情報収集 → 複数社比較 → 社内検討 → 稟議・承認、といったステップを踏むため、数カ月〜一年単位の時間がかかることもあります。しかも、その過程で担当者が異動したり、経営方針が変わったりと、外的要因で「一度白紙に戻る」ことすらあります。
だからこそ、toBブランディングでは「長い検討プロセスを支え続けるための設計」が欠かせません。初回接点での印象づくりだけでなく、
- 検討が進むタイミングで読み返したくなる資料があるか
- 上長に説明する時に使えるストーリーや図解が用意されているか
- 数カ月後に見返してもブレないメッセージになっているか
といった観点が重要になります。toCが「瞬発力の勝負」だとしたら、toBは「マラソンを最後まで走り切るための設計」。意思決定に時間がかかる前提を理解し、その時間を味方につけるブランドづくりが、toBブランディングの鍵になってきます。
BtoBブランディングによってもたらされる5つの効果
市場でのポジショニングの変動
BtoBブランディングに本気で取り組むと、「似たようなサービスを提供している会社のひとつ」から抜け出せます。機能や価格ではなく、「この領域なら真っ先に名前が挙がる会社」として認識されやすくなります。どんな世界観を掲げ、どのポジションを取りにいくのかを明確にすることで、比較される側から“基準になる側”へと立ち位置が変わっていきます。結果として、価格競争に巻き込まれにくくなり、中長期で見たときの収益性も安定しやすくなります。「何をしている会社か」ではなく、「どんな存在として記憶される会社か」を設計できるのが、ブランディングの大きな効用です。
ターゲット顧客の意思決定のトリガーに
BtoBでは、最後の決め手が“数字”だけとは限りません。機能や金額が拮抗しているときほど、「この会社と一緒に仕事をしたいか」が問われます。そこで効いてくるのが、ブランドとしてのスタンスやストーリー、価値観の一貫性です。「自社の方向性と近い」「この会社となら長く付き合えそうだ」と感じてもらえると、それ自体が意思決定のトリガーになります。つまりブランディングは、提案の“スペック”に説得力を足すのではなく、「あなたの会社にお願いしたい」という理由をつくる行為だと言えます。
信頼性・権威性・専門性の確立
BtoBの検討プロセスでは、「失敗したくない」という心理が常につきまといます。その不安を解消してくれるのが、ブランドとして積み上げた信頼や専門性です。どの領域に強みを持ち、どんな思想や基準で仕事をしているかが伝わると、「この分野ならこの会社に相談しよう」と自然に名前が挙がるようになります。単に実績を列挙するのではなく、なぜ選ばれてきたのかをストーリーで示すことで、“なんとなく安心”から“一目置かれる存在”へと格が上がります。結果的に、新規の相談だけでなく、紹介やリピートといった形でもビジネスが生まれやすくなります。
マーケティング施策の最大化
ブランドの軸がない状態だと、広告・ウェビナー・資料・オウンドメディアがそれぞれ単発で終わりがちです。メッセージやターゲット像がブランディングによって整理されると、あらゆる施策が同じ方向を向きはじめます。広告で興味を持った人がサイトを見ても、営業と話しても、「この会社らしさ」がぶれずに伝わるようになります。接点ごとに印象がつながることで、リードの質が上がり、提案への期待値も高い状態で営業にバトンを渡せます。結果として、「施策の数を増やすマーケティング」から「ブランドを増幅させるマーケティング」に変わり、投資対効果を最大化しやすくなります。
求職者の流入増
BtoB企業は、ともすると「何をしている会社か分かりにくい」と思われがちです。ブランディングを通じて、事業の意義や大切にしている価値観が外に伝わると、「この会社で働きたい」と感じる人の母数がそもそも増えていきます。待遇や条件だけで比較されるのではなく、「目指している世界観」や「仕事のスタンス」に共感した応募が集まりやすくなるのが大きなポイントです。結果的に、“とりあえず応募”ではなく、“ここだから応募した”という候補者が増え、採用のミスマッチも減っていきます。顧客だけでなく、未来の仲間にも選ばれる土台をつくれるのが、BtoBブランディングの見逃せない効果です。
BtoBブランディングを成功させる5つのポイント
ターゲットを明確にする
まず押さえたいのは、「誰にとってのブランドなのか」をはっきりさせることです。経営層に響かせたいのか、現場担当者に刺さりたいのか、あるいは代理店やパートナー企業なのかによって、語るべきポイントは大きく変わります。業種・企業規模・導入フェーズだけでなく、「どんな課題を抱えているか」「どんな未来を目指しているか」まで具体的に描き出すと、メッセージの精度が一気に上がります。全方位に好かれようとせず、「この人たちにとって一番頼りになる存在」を目指すくらいの感覚がちょうどいいです。ターゲットが解像度高く決まるほど、ブランドもぶれずに育てやすくなります。
第三者の視点を入れる
自社だけでブランディングを考えていると、「当たり前すぎて価値だと思っていない強み」や、「実は伝わっていない前提」に気づきにくくなります。そこで重要になるのが、第三者の視点です。既存顧客、取引先、候補者、外部パートナーなど、社外の目線を意識的に取り入れることで、「外からどう見えているか」が鮮明になります。ヒアリングやアンケートを通じて、期待されている役割や他社との違いを言語化すると、ブランドの軸がぐっと現実的になります。社内だけでつくるブランドは、どうしても“自分たちがなりたい姿”に寄りがちです。そこに“他者から見えている姿”を重ね合わせていくことで、「ちゃんと選ばれるブランド」に近づいていきます。
自社の強み・弱みを明確にする
BtoBブランディングは、きれいな言葉を並べることではなく、「自分たちの立ち位置を正直に見つめ直す作業」に近いです。強みだけでなく、あえて弱みやできないことまで整理することで、「だからこそ、この領域に集中する」というストーリーがつくれます。たとえば、「スピードは競合に劣るが、その分、品質と伴走力に徹底的にこだわる」といったように、トレードオフを認めた上でブランドを設計していくことが大切です。中途半端に“なんでもできます”と打ち出すよりも、「ここなら負けない」と言い切れるポイントが明確な方が、BtoBの意思決定者には響きます。強みと弱みをセットでとらえることで、ブランドにリアリティと説得力が生まれます。
一貫性をもたせる
せっかく良いコンセプトをつくっても、発信のたびにトーンやメッセージが変わってしまうと、ブランドとして定着していきません。Webサイト、営業資料、採用ページ、SNS、プレスリリースなど、あらゆる接点で「同じ会社らしさ」が感じられる状態をつくることが重要です。そのためには、言葉のガイドラインやビジュアルのルールを決めるだけでなく、「どんなスタンスで物事を語るのか」といったスタイルまで揃えていく必要があります。一貫性とは、“ずっと同じことを言うこと”ではなく、“芯は変えずに表現をアップデートし続けること”に近い感覚です。時間が経つほど、「この会社と言えばこのイメージだよね」という共通認識が市場にじわじわ浸透していきます。
効果検証を適宜行う
ブランディングは「やって終わり」ではなく、「育て続けるもの」です。問い合わせの質や数、受注率、指名検索数、採用応募の内容など、ブランドが効いていそうな指標をいくつか決めて、定期的に振り返ることが大切です。数字だけを見るのではなく、「商談でどういう言葉をかけられるようになったか」「候補者がどんな理由で応募してきているか」といった定性的な変化も合わせて見ていきます。思ったように伝わっていない部分があれば、メッセージの出し方やタッチポイントの設計を微調整しながら、少しずつブランドをチューニングしていくイメージです。この“測って、直して、また届ける”というサイクルを回せるかどうかが、BtoBブランディングを長期的な資産にできるかどうかの分かれ目です。
ブランディングの方法やプロセスを詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください!
BtoBブランディング自社成功事例
東邦ガス株式会社
エネルギー転換が進む中、東邦ガスグループは「ガス会社」という既存イメージを超えて、自社の存在意義を再定義するコーポレートリブランディングに踏み出しました。セブンデックスは、経営陣の腹落ちづくりから始めて、自社・市場・生活者のリサーチを通じて「魅力的な地域をつくる会社」というブランドコンセプトを言語化し、ブランドサイトやムービーなどのクリエイティブ、変革宣言会や研修などのインナーブランディングまで一気通貫で支援しました。その結果、単なるロゴやサイトの刷新にとどまらず、「会社の一体感や変化への期待感が高まった」と社内から声が上がるなど、ブランドを起点にしたBtoB企業の変革プロジェクトとなりました。
日本鋳鉄管株式会社
日本鋳鉄管株式会社では、市場縮小による成長の鈍化や挑戦を避ける企業文化、そして自社の価値がステークホルダーに十分伝わっていないという課題を抱えていました。セブンデックスは社内に新設された「ブランド戦略推進室」と経営戦略パートナーとして伴走し、徹底した調査・分析から企業の理想像とステークホルダーとの理想的な関係性を定義、「ブランドDNA」を起点にビジョン/ミッションやロゴなどのアイデンティティを構築し、コーポレートサイトのUIデザインまで一気通貫で支援しました。その結果、水道インフラを支える企業としての信頼感を損なうことなく、現代的かつ変革への意志が伝わるブランド像へとアップデートし、長年培ってきた価値を未来へとつなぐBtoBブランディングの実践事例となりました。
ヴェルヌクリスタル株式会社
ヴェルヌクリスタル株式会社では、企業担当者や投資家など社外ステークホルダーに対して、自社の成長性や独自の強みを十分に伝えきる営業ツールが不足しているという課題がありました。セブンデックスは、商談内容やデスクリサーチから仮説ベースで情報設計を行い、キックオフ時点から議論のたたき台となるアウトプットを提示することで、タイトなスケジュールの中でも精度とスピードを両立しながら検討を推進しました。そのうえで、「結晶材料機能を起点としてアースポジティブな世界を実現する」という想いを、結晶をモチーフにした象徴的なビジュアルや、顧客ニーズへの共感から提供価値提示へと段階的に導くストーリーラインへと落とし込み、技術の先進性と親しみやすさを両立した会社説明パンフレットを制作。結果として、ヴェルヌクリスタル株式会社ならではの成長ポテンシャルと独自価値が伝わる資料を拡充し、BtoBブランディングの観点からも「唯一無二の提供価値と想いを語れる営業ツール」の実現につなげました。
BtoBブランディングの構想から浸透まで、セブンデックスが伴走します
BtoBブランディングは、コンセプトやロゴをつくって終わりではなく、経営課題と結びつけ、現場の行動変容につなげてこそ意味を持ちます。セブンデックスは、戦略設計・リサーチ・ブランド開発・クリエイティブ・インナーブランディングまで一気通貫で支援することで、「考えたけれど実行に移せない」「施策が点で終わってしまう」といった状態からの脱却を目指しています。本記事で紹介した各事例のように、企業ごとの業界特性や組織フェーズにあわせて、支援のスコープや関わり方も柔軟に設計していきます。「まずは自社の現状を整理したい」「どこから手をつけるべきか相談したい」といった段階からでも問題ありません。BtoBブランディングについて少しでも課題やモヤモヤをお持ちでしたら、ぜひ一度セブンデックスにご相談ください。








