UXデザインを考える上で5段階モデル(ギャレットの5段階|5階層モデル)の考え方は非常に重要です。その中の『戦略』は、UXデザインを行う上での根幹部分。戦略次第でその後の方向性が全て決まる非常に重要なフェーズです。
この記事では、UXデザインにおいて、なぜ戦略から考える必要があるのか、具体的なアウトプットはなにかご紹介したいと思います。
UXデザインの意味から設計プロセス、成功事例など、網羅的な解説はこちらでしています。
目次
UXデザインを行う上での5段階モデルとは
UXデザインの5段階モデルとは、最終的な表層のデザインに至るまでの工程を5段階に分けた考え方のことです。5段階に沿ってUXデザインを進めることで、企業の経営戦略とひも付き、ユーザーニーズにも合ったサービスを作ることができます。
特に今回の戦略フェーズは5段階モデルの土台となる部分であり、最終的なアウトプットを左右する重要な役割を持っています。
UXデザインにおける5段階モデルについてはこちらで詳しく説明していますので、ぜひ見てください!
では、UXデザインの5段階モデルにおける戦略の意義や役割を紐解いて行きましょう。
デザインと戦略を紐付ける意義
そもそも、なぜデザインするために戦略と紐付ける必要があるのでしょうか?それはずばり、最終的なアウトプットとビジネス成長を紐付けるためです。
仮にデザインと戦略が紐付いていない場合、どの様なことが起こるのか。
例えば、そのサービスはユーザー体験に沿って作られているためとても使いやすい。誰もがサービスを高く評価をしている。でも、そのサービスの市場規模が小さすぎて投資対効果が合わなかった、お金を払うほどのモチベーションはなかった。
この様にどんなに良いサービスだとしても、ビジネスを行う以上必ず売上に繋げなければいけません。極論売上が伸びていれば顧客は伸ばせますが、体験が良くても1円にもならなければ投資ができずユーザーは伸ばせないのです。
では、より解像度を上げるために、プロジェクト管理の市場を例に上げてみましょう。
(成功している企業もたくさんありますが、難しい市場であることを前提に一例としてあげます。)
チームメンバーと一緒にプロジェクトを進める上で、必然的にニーズが出てきます。管理ツール自体も用途によって様々。おそらく企業のほとんどが何かしらで管理を行っている、非常に需要の高い市場だと思います。
ではここで1つ質問を。今みなさんが使っているプロジェクト管理ツールは課金していますか?
こう質問すると、90%以上の方が『NO』と答えます。なぜかというと、無料のタスク管理ツールはいくらでもあるし、Googleスプレッドシートで最悪代替できてしまうから。
プロジェクト管理ツール市場はユーザーニーズが高いにも関わらず、レッドオーシャンで競合/代替手段がいくらでもあるので、顧客がお金を払うほどのモチベーションになりづらいのです。この状況でユーザーがお金を払いたいと思う仕掛けを考えられなければ、ビジネスは成功しません。
デザインにおける戦略の重要性はイメージできたでしょうか?5段階モデルの戦略は体験の方向性を決めるなどの優しいものではなく、生き残りを賭け、綿密に調査/設計された上で導き出す成功の論拠。この前提を踏まえた上で、価値あるプロダクトを作るための勝てる土台の見つけ方を深堀りしてみましょう!
UXデザイン戦略のための『勝ち筋』の見つけ方
この章ではUXデザインの文脈よりも、事業開発やマーケティング寄りの領域となってしまうので、ここでは勝ち筋を見つけるために必要な戦略策定の概念レベルで。マイケル・ポーターの競争戦略の中に実践で役に立つ記述があるのでご紹介します。
- 戦略はやることを選んではいけない、やらないことを決める
- 戦略を決める際に「あれもこれも」と選びがちになりますが、やることは多くても3つ以内。それ以上はリソースや思考の分散で意味がありません。あえて捨てる決断をすることで、本質の課題に注力することができます。
- 最高を目指すのは愚かである。ユニークになれ
- 最高を目指した時点でそれはゼロサム競争をするのみで、新しい市場は生みません。日本だと通信キャリアなどが当てはまりますね。市場において最高を目指すと言っても、提供されたサービスの受け取り方は個々によって違いますし、もちろん最高の定義も異なります。その市場で一番を取るためには、ユニークになり新しい市場開拓を行う必要があるのです。
- 市場で一位か二位が取れなければ意味がない
- 上記に関連しますが、全く同じ市場で全く同じことをしている限り、市場は最高を目指すのみとなってしまいます。近年のPay戦争の様に、資金力で市場の奪い合いを行うだけ。別の市場を切り開きその市場で常に上位を独占する必要があります。
- 一歩先のアイデアは意味がない
- 優位性は模倣困難でなくてはならず、「先に機能を作った」程度の先行はすぐに模倣されてしまいます。そうそう真似できない複雑性を兼ね備えた三歩先の戦略作りが必要です。
この様に戦略策定を行う上では、常に先見の目を持ち、広い視野と柔軟な視座を持つ必要があります。そして、綿密な分析を経て勝ち筋を見つけることができるのです。
個人的に、市場の状況を整理し勝ち筋を見つける為の手段として、『ファイブフォース分析』をおすすめしています。サービスを取り巻く5つの要素における、環境とその影響力を確認することができます。
- サービスの市場規模はどの程度か
- サービスの競合はどの程度いて、その影響はどれくらいか
- 市場の参入障壁はどの程度か
- サービス利用者の影響力はどの程度か
- サービスの代替手段はあるか
- サービス運用に必要なサプライヤーの影響力はどの程度か
UXデザインにおける戦略のアウトプット
市場における勝ち筋を見つけ戦略が決まるのと並行して、UXデザインの5段階モデル2つ目『要件』にパスするための準備を行う必要があります。
戦略を噛み砕いて言語化、同時に検証していくUXデザイン手法をご紹介します。
KPIツリー/ロジックツリーでのビジネス課題分析
戦略の初期段階は市場を大きく見たときの道のりを描いた状態。この戦略が本当にビジネスとして成り立つか検証するために活用するのが、KPIツリー/ロジックツリーです。
KPIツリーは利益/売上を分解し、どの様な指標を追うべきか、その指標は正しいか、現実的か把握することができます。
初期段階でKPIの分析、評価を行うことができるので、根拠ある結論を導けるようになります。
ロジックツリーはある事象を様々なセグメントで要素分解し構造化したもの。特定のKPIに対して何をもって実現確度が高くなるのかなど、より細かな分析を行う際に活用できます。KPIツリーと相性が良いのでぜひロジックツリーも活用して分析してみましょう。
エグゼクティブインタビューを通した意思決定者との認識合わせ
戦略を立てた人とサービスのUXデザインに関わる人が分担されている場合、特におすすめするのがエグゼクティブインタビュー。インタビューを通して、なぜその経営/事業戦略に行き着いたのか、プロセスを把握することができます。戦略の解像度を上げることで、UXデザインの最終アウトプットのブレをなくし、ビジネス視点でも成立したサービスを作ることができます。
STP(セグメント・ターゲット・ポジショニング)の可視化
戦略を決める上でどの市場の誰をどの様に狙うのか、STP分析は欠かせません。しかし、分析ベースのアウトプットではプロジェクトチームへの展開が難しく、コミュニケーションロスが起きてしまいます。
そこで、誰の課題をどの様に解決する想定なのか、ペルソナシートなどで整理しましょう。
ペルソナシートを作ることで、誰のためのサービスなのか共通言語ができます。戦略のフェーズから手離れした場合でも、同じ人物像を描きながらUXデザインを進められるので、視点が変わっても常にビジネスロジックと紐付いている状態になります。